【ブラームスから】知られざるオルガン曲・ドイツロマン派音楽編【メンデルスゾーンまで】

2019/03/15
クラシック

筆者は大のオルガン音楽好きを自認していますが、オルガン音楽、とくると、バッハが活躍した後期バロック音楽時代を思い浮かべる人がほとんどだろうと思います。バッハの死後、フランス革命のあおりも受けて宮廷音楽や教会音楽は衰退、教会と切っても切れない楽器・オルガンも各地で破壊されるといった憂き目を見てしまいます。もはや音楽は教会ではなく市民階級のサロンでたしなむ芸術であり、サロン音楽会の主役も貴族の楽器だったチェンバロからフォルテピアノに取って代わられます。オルガン音楽もクラシック音楽の主流から、ジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』の「棟梁フィネガン」よろしく転落してゆき、若きバッハがリューベックで聴いて感激したというブクステフーデらに代表される北ドイツのオルガン流派の誇った即興演奏の伝統も急速に忘れ去られてゆきました。

ところがそんなオルガン音楽受難の時代にあっても、なおバッハ以来の伝統を守り、継承しようと作品を書きつづけてきた作曲家が存在しているのも事実。今回は、え? この人もオルガン曲を書いていたの? という意外性たっぷりなドイツロマン派の知られざるオルガン作品をご紹介。

 

ブラームスの『11のコラール前奏曲 作品122』

「ドイツ3B」のひとり、ブラームスは旧「バッハ協会」設立に協力し、またヨハン・シュトラウス2世と縁の深いウィーン楽友協会合唱団を指揮してバッハの教会カンタータや受難曲の演奏を行うほどのバッハ好き。しかしそれだけにとどまらず、20代ですでにオルガン演奏術を独学で(!)身につけ、そしてみずからオルガン曲を書いて出版してもいます。

ブラームスの作曲したオルガン作品は15曲あり、うち『前奏曲とフーガ 第1番 イ短調』を含む4曲が20代の作品、『11のオルガンコラール前奏曲 作品122』は最晩年の作品になります。若いころの4曲の作風はいずれもバッハ、あるいは自身の故郷でもある北ドイツの先達、たとえばザムエル・シャイトなどの作品を強く想起させるもので、どうだオレだってモーツァルトやベートーヴェンに負けず劣らずこんなに対位法技法を使いこなせるんだゾ、みたいな対抗意識さえうかがえる、かなりリキの入った作品になっています。

いっぽう、最晩年に書かれた『11のオルガンコラール前奏曲』はなにかを悟ったというか、明鏡止水の境地、あるいは瞑想に沈潜するかのような曲調の作品が多く含まれる作品集。ちなみに現在、入手可能なブラームスのオルガン作品のアルバムでは、ドイツ・シャルプラッテン音源の廉価盤CDが個人的にはおすすめ。録音は1978年と古いですが、ブラームスの15のオルガン作品を概観できるアルバムとしても貴重な存在です。リンク先に選んだ一曲はクリスマスの定番コラールとして、ときおりオルガンリサイタルでもプログラムに入れられたりするオルガンコラール前奏曲。手鍵盤のみで演奏されるシンプルな3声部の小品ながら、豊かに装飾されたコラール定旋律の美しさが絶品です。

ヨハネス・ブラームス『11のオルガンコラール前奏曲(1896、出版1902)』から「一輪の薔薇が咲いて」[オルガン独奏:コル・デ・ヨング]

 

シューマン『4つのスケッチ 作品58』

ブラームスとともに旧「バッハ協会」設立に尽力したシューマンは、『4つのスケッチ 作品58』なる作品を残しています。この作品、またの名を『足鍵盤付きピアノのためのスケッチ』とも言い、もとはオルガンのような足で弾く鍵盤を備えたピアノ用に書かれた作品ですが、「足鍵盤付きピアノ」という楽器がまったくと言ってよいほど普及しなかったため(そもそも音域が広いので、足で弾く鍵盤など蛇足もいいところだったと思われます)、現代ではオルガン作品として演奏されるのが一般的。

シューマンにはもうひとつ『バッハの名による6つのフーガ 作品60』という、やはり足鍵盤付きピアノのための作品もあります。なんでも彼は足鍵盤付きピアノという楽器を愛用するだけではおさまらず、ライプツィヒ音楽院の創立者にして親友のメンデルスゾーンにもこの足鍵盤付きピアノを採用するようにと説得までしたとか。足鍵盤付きピアノにかなり熱を入れていたようですが、あいにくこの楽器もシューベルトの『アルペジョーネとピアノのためのソナタ』と同様、楽曲のみがクラシック音楽史に生き残る結果とあいなってしまいました。

 

シューマン『4つのスケッチ 作品58(1845、出版1846)』[オルガン独奏:ハンス=ディーター・カラス]

 

メンデルスゾーン『6つのオルガンソナタ 作品65』

 

最後に、そのメンデルスゾーン。オルガン音楽好きからすればかなり有名ながら、そのじつ演奏される機会がきわめて少ない名曲が、『6つのオルガンソナタ』。

1844年、メンデルスゾーンは英国の出版社から「ヴォランタリーを書いてくれませんか?」という依頼を受けました。ヴォランタリーというのはアングリカン、つまり英国国教会の礼拝の最後に演奏される自由なスタイルの後奏曲のこと。メンデルスゾーンはドイツ人なので、へ? ヴォランタリーってなに?? と、この突拍子もない依頼に面食らったそうです。その後版元と何度かやりとりしているうちに、『6つのオルガンソナタ』という形式に落ち着いたとのこと。とはいえ典型的なソナタ形式というより、随所にドイツオルガンコラールの旋律が効果的に使われたり、変奏曲やフーガになっていたりと、本場のヴォランタリーよろしく自由度の高い作品に仕上がっています。

こうして3人の作品を聴いてみると、ドイツロマン派の作曲家の手になるオルガン曲というのもなかなかのものだ、と思いませんか? ここで紹介したブラームス、シューマン、メンデルスゾーンは、ともにオルガン音楽の偉大な先達バッハに尊敬の念を抱いていた、という共通点がありますが、500年以上の歴史を持つオルガン音楽の聴き方は、もっと自由であってよいと思います。近年、オルガンリサイタルも以前に比べれば演奏家の個性を前面に打ち出した企画も増えてきたとはいえ、まだまだバッハ偏重傾向はつづいているように感じます。新しいオルガン音楽のファンを獲得するには、バッハ偏重プログラムから解放された清新なリサイタルが必要ではないでしょうか。きょくたんな話、アニソンをオルガンで弾いたってかまわない(筆者は唱歌『ふじの山』のオルガン独奏版を聴いたことがあります)。たとえばあるアニメ作品の声優ユニットのライヴで本物のオーケストラが使われ、会場で「生オケ」にはじめて接したファンがオーケストラサウンドに感動した、という話だってあります。それがきっかけでクラシック音楽のすばらしさに開眼したら、こんなステキなことはありません。

フェリックス・メンデルスゾーン『オルガンソナタ 第1番 ヘ短調(1845)』[オルガン独奏:イド・ファン・デール・フィシェン]

 

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