スティーブ・ライヒ『テヒリーム』が彼のディスコグラフィのベストかもしれない件

2017/05/03
ポストクラシック/現代音楽

80歳を迎えたミニマムミュージックの巨匠、スティーブ・ライヒSteve Reichが「テリヒームTehillim」を引っ提げて2017年3月1日に日本で公演を行いました。
ライヒはミニマルミュージックの巨匠であり、つねに全世界のアーティストから注目され続けていた人ですが、創作意欲は80歳を過ぎてもなお衰えるということがなく、新作を聴いたコアなファンからも「彼の作品群の中では最高傑作の1枚」と絶賛している書き込みが多数あります。
ところで世の中には「クラシック音楽」=「つまらない、長く感じる、退屈、分からない」だと思っている男女が多いのがもったいないことです。(しかし一部のクラシックは古めかしすぎて、確かに“つまらない、退屈”なものもありますが。)
スティーブ・ライヒは若い頃から80歳過ぎる現在に至るまで、現代の作曲家の頂点に君臨し続けてきた1人ですけれども、彼の作品からは“つまらない、退屈”は見当たりません。ライヒは純粋芸術やら現代アートによくある“作品を理解するのに、膨大な知識の量が前提となっている”というタイプの作曲家・芸術家では決してありません。
ライヒの音楽の楽しさを理解するのには知識も、“彼の音楽をこれだけ聴いてきた”という自負も何もいらず、ただ耳を傾ければいいのです。

 

スティーブ・ライヒってどういう人ですか?

スティーブ・ライヒ(Steve Reich, 1936年10月3日 満80歳 )は米国在住のユダヤ人の作曲家です。
ライヒの仕事が世界的に注目されるようになったのは、ホロコーストを題材にした『ディファレント・トレインズ』が2つのグラミー賞を受賞してからでしょう。
世界のクラシックファンは、『ディファレント・トレインズ』の楽曲の美しさ、構成の斬新さに、それまで体験したことがないほどの興奮と感動を覚えました。
それまでこんな“純粋芸術”や“クラシック音楽”を聴いたことが無かった層が、ポップスでもラップでも歌謡曲でもない、ライヒの音楽に夢中になり始めた…と言っても過言ではないでしょう。
スティーブ・ライヒの音楽には「同時代性」が色濃く存在しています。クラシックは過去の天才が創ったものではなく、今を生きている自分たちが新しく創造し続けるものとして、つねに先駆的、語弊を怖れずに言えば実験的であり続けました。
ライヒは成功に飽き足らず、精力的に作曲活動やその曲の公演を世界中で続け、1993年には『洞窟The Cave』を発表し、「21世紀のオペラはかくあるべき」とTIME誌で絶賛されました。

 

『テリヒーム』ってどういう感じの音楽?

ライヒの作品すべてを通して言えることですが、ライヒの良さや楽しさを理解するのに、日本語の解説は必要がありません。ただCDを入手して全部最初から最期まで通して聴いてみればいいのです。
アルバム『テリヒーム』ですが、大きく分けて2つの曲に分かれています。

①テヒリーム(詩篇) パートI:速く
②テヒリーム(詩篇) パートII:速く
③テヒリーム(詩篇) パートIII:ゆっくりと
④テヒリーム(詩篇) パートIV:速く
⑤オーケストラのための3つの楽章 第1楽章:4分音符=176
⑥オーケストラのための3つの楽章 第2楽章:4分音符=88
⑦オーケストラのための3つの楽章 第3楽章:4分音符=176

 

最初の楽曲『テヒリーム(詩編)』は「声」と「打楽器」で出来ている“空間”です。音楽は終始リズミカル、ダンサブルで、あたかも女性が歌い、踊りながら、音楽が続いていくようです。歌詞はヘブライ語であり、どこか第三世界、イスラム圏の文化を彷彿とさせます。
この曲は現代音楽の偉業なのですが、CDがリリースされたのは最近になってから…で、録音そのものは1981年ごろということです。
『テヒリーム』ですが、昔のアディエマスとか芸能山城組といった音楽が好きな人なら買って聴いて損はないでしょう。ブルガリアンヴォイスとか女性舞踏団とか、そういう音楽が好きな人ならなおさらおすすめです。1曲目が20分以上続くのでちょっと長いですが、残りの3曲はもっと短いです。
ライヒのユダヤ人としてのルールが、ヘブライ語の伝統的な詠唱法を学び、取り入れ“言葉がうむ旋律”を自在に生み出していきます。

 

アルバム『テヒリーム』の⑤曲目から⑥曲目は「オーケストラのための3つの楽章」というタイトルですが、そのまま映画『スターウォーズ』の主題歌に使用してもいいような、ノリノリ・イケイケのかっこいい楽曲に仕上がっています。聴いているとモチベーションが上がってくるような勇ましい曲ですが、とても美しく力強い曲でもあります。ミニマル・ミュージックですから同じフレーズを無数に反復しながら曲は大きなうねりのように終章に向かって展開していくのですけど、そのうねりと言いますか、盛り上がりが何ともいえずかっこよく、耳に心地よいのです。

 

(まとめ)

スティーブ・ライヒはアフリカ音楽から強く影響を受けているそうです。過去には『ドラミング』の研究のためにガーナを訪れたり、1973年にはバリ島でガムランの研究もしています。彼のユダヤ人としてのルーツが従来のクラシック作曲家は知らなかった楽器に魅了されるようになったのでしょうか。

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