「サイレント・ガーデン-滞院報告・キャロティンの祭典-」/ 武満徹(新潮社)より

晩年病床に伏していた武満は、これまで自身が口にしたものや空想の献立のレシピをイラストつきでノートにスケッチしていました。

50 通りにも及ぶそれらのスケッチは彼の肉筆で丁寧に綴られイラストの彩色は鮮やかでどれも実に美味しそうです。
武満作品に対する愛だけを理由に、今回そのなかのひとつを実際に調理し食べてみたいと思います。
数多あるレシピのなかで筆者がチョイスしたのは、「手羽先の唐揚げ(ビールのつまみ)」。

食材も比較的手に入りやすいものが多く調理行程も簡素で、これなら料理の腕にあまり自身があるとはいえない筆者にも作れそうですね。

調理

材料:手羽先、ししとう、レモン、合わせ調味料〈醤油、砂糖(少な目)、玉葱のおろしたもの、にんにくおろしたもの(少)、酒〉、小麦粉、あげ油、塩、胡椒

まず、

(1)

「手羽は、はじめにもち焼きあみで両面さっとあぶっておく。(これはただ毛を焼くため)」とあるので、そうしてみます。

因みに筆者が近所のスーパーで購入した手羽先にはもち焼きあみで焼かれるべき毛は全くついていないのですが、このレシピがかかれた 1995 年頃市場に流通していた手羽先にはまだ毛が多少残っていたのかもしれません。

次に、

(2)

「合わせ調味料に 10 分ほどつけておく。」

唐揚げの合わせ調味料(付けダレ?)にすりおろした玉葱を入れることをこのたび初めて知りましたが、それが果たしてスタンダードなのかどうか料理の知識に乏しい筆者にはわかりかねます。

(3)

「手羽先を揚げる前、油がきれいなうちに、ししとうを附け合わせとして揚げる。(揚げる際切れ目を入れた方が、はねない。)なるほど、最後のひと言が無ければししとうをそのまま揚げ、はねた油で大火傷をしていたかもしれません。ありがとう武満。ナイスアドバイス!

(4)

「調味料からあげた手羽先にごくうすく小麦粉をつけて油で揚げる」

手羽先を揚げるのに相応しい油がどのようなものだかわからぬため、ちょうど自宅にあったこめ油で揚げる。実に 芳しい香りが鼻をくすぐります。

(5)

「からっと揚がったとりに塩、胡椒して、レモンをしぼつて食する。」

油から引きあげたとりに塩と胡椒を振る。ビールのつまみとあるから多少しっかりめに味付けをした方がいいのだろうか…。レモンの適量がわからず 8 分の 1 カットにしたものをぎうぎう搾ってみました。

実食・まとめ

存外うまそうな見た目に満足。
肝心の味は…スパイシーな胡椒とにんにくの風味がなんとも言えず美味!ジューシーで思いのほかからりと揚がっており何本でも食べられそう。これはビールも進みそう!
塩と胡椒をしっかり振ったのが正しい判断だったのかもしれません。レモンの爽やかな酸味も非常にいい。
武満は食べることや酒をのむことが大好きだったようです。谷川俊太郎との対談で「ご飯におみおつけをかけて食べるから浅香(妻)に嫌な顔をされる」※1 と話していました。もしこれが真実だとすれば彼は決して美食家だったというわけではなさそうですが、友人らと和やかに食卓を囲んだり酒をのんだりしている写真を見ると、やはり食事をすることを大切に考えていたのかもしれません。
それにしても筆者の友人の作曲家は料理の腕が堪能な方が多いのですが、調味料の配合や食材の組合せなどはオーケストレーションに通ずるものがあるのかもしれませんね。
それではお聞きください、武満の管弦楽作品「鶏は…」…失礼、「鳥は星形の庭に降りる」(1977)です。

※1「KAWADE 道の手帖 武満徹没後 10 年、鳴り響く音楽」116 頁