種類別ピアノの寿命についてや、修理・オーバーホール、ピアノの処分方法について紹介します。これからピアノを購入する方やお持ちのピアノの寿命を伸ばしたいと考えている方はぜひ参考にして下さい。

案内人

  • おばたおりえピアノ調律師。大阪府出身。
    大学卒業後、専門学校にて調律・修理・整調・塗装・オーバーホールを学ぶ。
    卒業後、ピアノ調律会社にて工房勤務経験を経て現在フリーの調律師として活動中。

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ピアノの寿命とは?

ピアノに寿命があるということを知っていますか?アコースティックピアノも電子ピアノも機械製品のため、寿命(おおよその耐用年数)が存在します。ピアノの種類によっても異なるため、それぞれ詳しく紹介していきます。

アップライトピアノ・グランドピアノの寿命

アップライトピアノやグランドピアノなどのアコースティックピアノ(生ピアノ)は適切な修理をすれば100年以上も演奏できるため、明確な寿命というものはありません。しかし、内部の部品には交換が必要となる目安があります。
例えば、フェルト・クロスなどの繊維や革で出来た素材は一般的に20〜40年、弦は30〜40年程度で摩耗や経年劣化を起こし、交換修理が必要になります。これらの部品は消耗品とも言えるため、音大生やピアノの先生など頻繁に演奏する環境の場合、もっと短い期間で修理が必要になることもあります。

響板や支柱などの消耗部品以外の寿命は、一般的に60年程度です。ただし、それまでのメンテナンス状況や演奏状況、設置場所の環境によって大きく異なります。

中古ピアノは、製造年数などによっても変わってきますが、消耗品の交換修理やメンテナンスをしっかりしているものであれば20〜30年は使用できるものがほとんどです。

消音ユニットの寿命

出典:ヤマハ|SILENT Piano™ (サイレントピアノ)

消音ユニットは電子部品のため、他の電化製品と同じく10〜15年程度が一般的な耐用年数であると考えられています。消音ユニットが故障してもアコースティックピアノとしては問題なく使用することができます。

電子ピアノ・ハイブリッドピアノの寿命

電子製品である電子ピアノの寿命は10〜20年程度です。症状によって修理可能な場合もありますが、発売されて10年以上経過したものは修理用部品の生産が終了しており修理が難しいケースもあります。

最近では電子ピアノにアコースティックピアノのアクション(部品)を搭載して弾き心地を良くしたハイブリッドピアノが注目されていますが、電子部品の寿命に関しては、やはり電子ピアノと同じく10~15年程度と考えられています。

よくある修理例

次は、アコースティックピアノの経年劣化に伴って発生する修理のなかでよくあるケースをご紹介します。

フェルト・クロスなど繊維製品の摩耗・劣化

ピアノは部品が動く音を極力発生させないために、部品と部品が接触する部分にフェルトを使用している箇所が多く存在します。長年弾き続けることでそのフェルトが少しずつすり減り、不具合を起こします。
例えば、鍵盤の内部に貼ってあるフェルトが摩耗して隙間が出来ている場合、鍵盤がガタついて雑音が発生してしまいます。このような場合はフェルトを張り替えて調整することで修理が可能です。

また、部品の動きをより良くするためのサポートとして一部に紐状の部品(フレンジコード・ブライドルテープ)が使われています。可動部に付いている部品のため、経年劣化で切れてしまい、音が出なくなったり反応が悪くなるなどの不具合を引き起こします。この場合も交換をすることで修理が可能です。

ハンマーの劣化

ハンマーが弦を叩き続けると、羊毛フェルトでできたハンマーヘッドが徐々にすり減っていき、弦の溝が刻まれていきます。この弦の溝が深くなるとハンマー自体も硬くなり、音が硬くきたなくなるため、削り直す修理(ファイリング)が必要となります。通常、1・2回程度はハンマーヘッドを削り直して整形できるように作られていますが、これ以上削ることが難しくなった場合は交換が必要となります。

弦の劣化

ピアノの弦は1本につき70~90kgの張力が掛かっています。演奏をすることで弦に衝撃を与え続けることになるため、やがて金属疲労を起こし断線。また、湿気などの影響を受け錆びてしまった弦も切れやすくなります。
弦が1本切れると張力のバランスが崩れ、弦が切れた部分以外の調律も大幅に狂うため、弦交換とその後の調整が必要です。

低音部の弦は1本の弦に銅線を巻きつけて太く重くなるよう作られています。金属は温度変化で伸び縮みするため、頻度は低いですが銅線の巻きが緩んだりきつくなりすぎたりという不具合が起こります。
緩むと雑音が混ざり、きつくなりすぎると音が伸びずにミュートをかけたような音になるため、弦交換の修理が必要となります。

修理が出来ない状態はあるの?

アコースティックピアノに修理が出来ない状態というものはほぼありませんが、ピアノにとって”致命傷になりうる状態”は存在します。

ピアノの音色を大きく左右する響板が割れて雑音が発生している
ピアノ全体を支えるフレームが折れている
チューニングピンを一定の張力に保持するための板(ピン板)が割れている
響板に音を伝える駒が割れている

こういった重要な部品に不具合が出た場合が致命傷に当たります。
上記のような重要な部分の修理は大掛かりな作業となり、充分な設備と熟練の技術者による修理が必要なため、中古ピアノを購入するのと同じくらいの修理費がかかる場合もあります。楽器店やピアノ工房によっては請け負っていないケースもあり、ピアノの状態又は種類などによっては買い替えをお勧めすることもあります。

一般的にこういった状況になるとピアノ本体の買い替えを検討するか、修理と併せてオーバーホールを行うケースが多くなります。

オーバーホールについて

オーバーホールとは、古いピアノを新しく生まれ変わらせる修理のことです。工房で全ての部品を分解して行います。フェルトやハンマーなどの消耗部品を新しいものに交換したり、弦を全て張り替えたり、かなり大掛かりな作業です。また、外装の傷なども全て補修・再塗装をして見た目も新品のピアノと同等の状態まで磨き上げます。

オーバーホールを行うメリットは、ピアノの機能を大幅に回復させることができることです。愛着のあるピアノや、現在では手に入りづらい年代物のピアノでも長く弾き続けることができるようになります。

オーバーホールのデメリットとしては、やはり価格が高いという点です。全ての消耗部品を交換する大掛かりな作業となるため、費用も時間も掛かります。また、弦やハンマーなどの部品を交換することによって音色に変化がありますが、必ずしも新品で購入した時と同じ音色が蘇るとは限りません。

オーバーホールは言わばピアノにとっての若返り手術のようなものですが、リスクも伴うものです。費用やどの作業を行うかは楽器店やピアノ工房により異なるため、検討する際は複数の業者に相談して信頼のおける業者に依頼しましょう。

ピアノの処分方法

慣れ親しんだピアノを処分するのは辛いことですが、ピアノに寿命がある以上は処分をする機会も避けては通れません。アコースティックピアノは自治体の粗大ゴミとしては扱っていないケースがほとんどのため、専門業者に依頼する必要があります。電子ピアノは一部粗大ゴミとして収集可能な地域もあるのでお住まいの地域の収集状況を確認して下さい。

ピアノの処分方法としておすすめなのは以下の2つです。

①買取・下取りに出す

購入して比較的年数が浅く、動作に問題がない状態であれば、まずは買取や下取りを検討しましょう。電子ピアノは購入後10年以内であれば買取可能であるケースが多いです。アコースティックピアノは購入後30年程度であれば買取できる可能性が高いのですが、ピアノの状態が悪いと値段がつかないこともあります。逆に古くても希少性が高いピアノは高く売れる可能性があり、専門業者による査定が必要となります。

買取が難しい場合も無料又は有料で引き取りを行なっている業者もあります。複数の業者に相談し、条件の良いところに依頼するのがおすすめです。

②不用品回収業者に依頼する

不用品回収業者であればどんな状態のピアノでも有料で引き取りを行なってくれます。アコースティックピアノは超重量物のため運搬にも費用が掛かりますが、不用品回収業者であれば運搬にかかる費用込みで請求されるため基本的に追加料金は発生しません。

まとめ

ピアノとの関わり方や生活スタイルは個々人の状況で変わってくるため、信頼できる調律師に相談の上決めていくのがおすすめです。大切なピアノの寿命をできるだけは伸ばすために定期的な調律やメンテナンスを忘れず行なって下さいね。