普段クラシックと距離がある人もそうでない人も、必ず耳にしたことのある名曲が必ずあるはず。今回は「ピアノ」に焦点を当て、洋画·邦画それぞれのおすすめ映画の見どころと、あらすじをご紹介します。

生涯を船上で過ごしたピアニストの感動ストーリー【海の上のピアニスト】

あらすじ

船の上で生まれ、生涯一度も陸に上がることのなかった1人のピアニストのおとぎ話のような物語。黒人機関師として豪華客船ヴァージニアン号に乗船しているダニー·ブートマンは、船内で生み捨てられていた赤ん坊を見つける。「ダニー·ブートマン·レモン·1900」と名付け育てるも、ダニーは1900が8歳の時に他界。1900はダニーの葬儀で流れた音楽に惹かれ、ピアノを演奏するようになる。成長した1900はひょんなことから船上でバンドを組み、31歳にして初恋も経験する。自分の人生が詰まったヴァージニアン号。陸地が見えてきた時、1900は陸地に初上陸するのか。

どのシーンも心に刺さる台詞で溢れており、そこに主人公1900が奏でるピアノの音色が色を添えている。なかでも初恋の人を思い描いて作曲した「愛を奏でて」は、恋の甘酸っぱさとはこうゆうものか、と思わずステップを踏んでみたくなるような楽曲だ。
それもそのはず。映画音楽は『ニュー·シネマ·パラダイス』のエンニオモリコーネが担当している。涙無しには観られない感動作となっている。

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戦場を生き抜いた天才ピアニストの実話【戦場のピアニスト】


あらすじ

ナチス侵攻下のポーランドでピアニストとして活動していたシュピルマンは、ユダヤ人として東部のゲットーへと移住を強いられる。何万というユダヤ人が強制収容所送りとなるなか、シュピルマンはそこから逃れ、身を隠す日々。しかしある夜ついにドイツ人将校に見つかってしまう。絶体絶命のなか、将校から「ピアノを弾いてみてくれ」と声を掛けられる。

実在したユダヤ系ポーランド人ピアニスト、ウワディスワフ·シュピルマンの実話を描いた作品。第75回アカデミー賞監督賞、脚本賞にも輝いた名作です。

ショパンの「バラード第1番」がこれほど似合う作品は他にあるのかと思うほど暗い空気の中に溶け込んでいる。ショパン自身ポーランドのワルシャワ近郊に生まれ、パリに亡命してからも、いつか祖国に帰りたいと思っていた。似たような境遇の2人だからこそ、シュピルマンの奏でるショパンの音色はより一層哀愁が感じられるのかもしれない。

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1人の女性ピアノ演奏が真実の愛に導く【ピアノレッスン】

あらすじ

失語症の女性が1台のピアノを通して真実の愛に気付くロマンス映画。言葉が話せない彼女にとってのコミュニケーション手段はピアノを演奏することだった。ある日、エイダは自分のピアノがベインズという原住民と暮らす男性によって買い取られたことを知り激怒する。ベインズはエイダのピアノの音色に心奪われていた。最初は警戒していたエイダも次第にベインズに惹かれていく。

1993年と少し古めの映画であるが、アカデミー賞脚本書、主演女優賞、助演女優賞の3冠に輝いており、カンヌ国際映画祭ではパルム·ドール賞を受賞している作品。主役を演じたホリー·ハンターがピアノを弾く姿がなんともいえず美しい。この映画で登場するピアノは物語で重要な鍵となる。エイダの化身とも言えるピアノと、クライマックスで魅せる戯れは必見です。

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1台のストリートピアノが引き寄せたサクセスストーリー【パリに見出されたピアニスト】

あらすじ

路地裏に生きる少年、マチューがパリのターミナルに設置されたピアノに腰掛け徐に演奏を始める。そこを通りかかった音楽学校ディレクターのピエールに衝撃が走った。二度と会うことはないと思われた2人だが、マチューの音楽学校で再会する。マチューの音楽的才能を見出したピエールは、学校代表としてコンクールに出るようにと伝える。

物語としては王道なサクセスストーリーであるが、マチューとピエールの出会う北駅の場面から飲み込まれる。ピアノの椅子に腰掛けて奏で始めるバッハ「平均律クラヴィーア曲集第1巻第2番ハ単調BWV.847」。マチューの何か切迫した心情を現しているかのようだ。
とくに物語終盤で魅せるラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番ハ単調Op.18」は、心揺さぶられる名演です。

一音でも間違えたら殺される!【グランドピアノ狙われた黒鍵】


あらすじ

若手ピアニストのトム·セルズニックは、ある曲で演奏ミスをしてから舞台恐怖症に陥っていた。しかし、恩師であるパトリックの追悼コンサートを行うために5年ぶりにステージに立つ覚悟をする。パトリックが特注したピアノの前に立ち、楽譜をめくるとそこには「1音でも間違えたらお前を殺す」というメッセージが。犯人が指定してきた演奏曲は、トムを舞台恐怖症におとしめたいわく付きの難曲であった。

緊迫感、緊張感マックスの中で繰り広げられるサスペンス映画。劇中で披露される「ラ·シンケッテ」は音楽家としても活躍するエウヘニオ·ミラ監督が実際に世界で1~2人しか弾くことができない難曲として作曲された作品である。
主役のトムをイライジャ·ウッドが演じている。ピアノ経験者の彼が毎日何時間も練習して、ピアノの演奏シーンをほとんど1人で行ったという役者魂にも注目したい。

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両手障害でも諦めなかったピアニストの実話【マイ·バッハ 不屈のピアニスト】


あらすじ

ジョアンは幼い頃から音楽的才能を開花させ、20歳になる頃にはカーネギーホールでデビューを飾った。そんな矢先ジョアンを不慮の事故が襲う。神経性疾患により右手の3本の指に障害を抱えてしまうのだ。リハビリに耐え、再びピアニストとして活動できるまでに回復するが、神はジョアンにまたも試練を与える。

2016年の「リオ·パラリンピック」の国旗掲揚で観客を感動の渦に巻き込んだ1人のブラジル人ピアニスト、ジョアン·カルロス·マルティンス。またの名を「20世紀最高のバッハ演奏者」。80歳を超えて今なおピアニストとして活躍する彼の半生を実写化した作品。神は乗り越えられる人間にのみ試練を与える、という言葉はジョアンに向けられたものかもしれない。
背中を丸めて一心不乱にピアノに向かう天才の背中には天使が寄り添っているのか、それとも悪魔が急かしているのか。

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実在する天才ピアニストの半生【シャイン】

あらすじ

オーストラリアのメルボルンに生まれたデイヴィッドは、6歳の時にピアニスト志望だった父親から厳しい英才教育を受ける。14歳の時にはアメリカ留学の話が出るが、息子を管理下に置きたい父親によりチャンスを逃してしまう。そして国内のコンクールで優勝を果たした彼は19歳の時に家出する形で1人ロンドン王立音楽学校へと旅立つ。しかし、あまりにピアノに打ち込み過ぎたために精神に異常をきたし、11年間闘病生活を送ることになってしまう。

オーストラリアで活躍する実在のピアニスト、デイヴィッド・ヘルフゴットの半生を描いた作品。見どころは映画の前半と後半でピアノに対する向き合い方が異なっているところだ。神経をすり減らして弾く前半の映像もいい。しかしやはり後半の落ちぶれたデイヴィッドがバーを訪れ、タバコをふかしながら弾く「熊蜂の飛行」は感動せずにはいられない。ここからデイヴィッドの再起が始まるのだ。劇中のピアノ吹き替えはデイヴィッド本人によるものであるところも注目だ。

天才ピアノ少年は普通になりたい【僕のピアノコンチェルト】


あらすじ

生まれた時から神童の名をもつヴィトス。学校の授業も難なく理解し、飛び級もしてみせる。何よりもピアノに対して天才的才能を発揮。けれどそのせいで友達ができない。「普通の子になりたい」。その気持ちを理解してくれているのはヴィトスの祖父だけ。ある日ふたりは「普通の子」になるために大胆な計画を企てる。

この映画はなんといっても、スイスが誇るピアニスト、テオ·ゲオルギューがヴィトスを演じているところだろう。もちろんピアノ演奏は吹き替えなしで行われている。全て吹っ切れたヴィトスがクライマックスで奏でるシューマン·「ピアノ協奏曲イ短調第3楽章」の軽やかな演奏は、心がすっと爽やかになる。

コンクールに挑む4人のピアニストの葛藤【蜜蜂と遠雷】

あらすじ

若手登竜門と評されるコンクールに挑む4人のピアニスト達の挑戦による苦難と成長を描いた作品。元天才少女の栄伝亜夜、最年長で今回最後の挑戦となる高島明石、名門ジュリアード音楽院に在学中で優勝候補のマサル·C·レビ=アナトール、そして謎の天才少年、風間塵。果たして神が微笑むのは誰なのか。

直木賞と本屋大賞をW受賞した恩田陸氏による前代未聞の話題小説を完全映画化。それぞれバックグラウンドが違う4人が切磋琢磨しながら、コンクールで全てを出し切って演奏する姿に感動せずにはいられない。特にプロコフィエフ「ピアノ協奏曲第3番」を演奏する亜夜の横顔に注目してほしい。映像化は無謀と思っていた恩田陸氏が「やってくれた」と言わしめた作品。読書好きな人も、映画好きな人も満足させてくれるに違いない。

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国民的音楽漫画の最終章!のだめと千秋の恋の行方は?【のだめカンタービレ最終楽章 前編·後編】


あらすじ

天才ピアノ少女の野田恵(通称のだめ)と指揮者志望のエリート音大生である千秋真一を中心に、夢に向かって邁進する音大生の日常を描くラブコメディ。映画の舞台は日本を飛び出してパリのコンセルバトワール!まとまりのない楽団に四苦八苦する千秋。ピアニスト孫Ruiの登場で心乱されるのだめ。二人の恋の行方は…。

クラシックを今まで意識していなかった層を一気にクラシックファンに転換させた「のだめシリーズの最終章」。聞きどころは、のだめの演奏を有名ピアニストであるラン·ランが吹き替えをしているところだ。千秋に裏切られたショックを鍵盤に叩きつけるショパン「ピアノ協奏曲第1番」は胸が苦しくなる。

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清塚信也主演 ピアニストを目指す少女とミステリー【さよならドビュッシー】


あらすじ

幼少期から姉妹のように仲の良い香月遥と片桐ルシア。16歳になった彼女たちは同じ音楽学校へ通い、ピアニストを夢見ていた。しかし突如二人は火事に巻き込まれ、唯一生き残ったのは遥のみであった。苦難を乗り越え、夢に向かって再起を図る遥の周りでは不吉な出来事が起こり始める。

第8回「このミステリーがすごい」で大賞を受賞した中山七里氏による同名作品を見事映画化。注目ポイントは『のだめカンタービレ』でも千秋のピアノ吹き替えを担当している注目ピアニスト清塚信也が岬洋介を演じている点だ。ピアノ演奏で狂気にも見える音色を響かせている。
なかでも、身も心もズタズタの遥が、岬が奏でるリスト「超絶技巧練習曲第4番」の演奏を目の当たりにし、息を飲み涙が流れる場面に注目。なんと演奏後のセリフを含め長回しで撮られているのです。絶対にミスできない、息する間もない数分間に、観客である私たちも心奪われずにはいられない。

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調律に魅せられた青年の物語【羊と鋼の森】


あらすじ

将来の夢もなく毎日を過ごしている外村直樹は高校で調律師の板鳥に会い、その調律したピアノの音色に故郷の森の匂いを感じる。将来の夢を調律師に決め、新米調律師として奮闘するもなかなか自分が思い描く音が出せない。そんななか、努力型の和音と天才型の由仁というピアニスト姉妹と出会い、外村の調律師としての人生は変わっていく。

第13回本屋大賞を受賞した宮下奈都の同名小説を山崎賢人で完全実写化。
ピアニストが主人公ではなく、調律師に焦点を当てた稀有な作品。普段何気なく終わるのを待っているだけの調律時間。けれどそこには静かに情熱を燃やしながら正確な音を探し当てる調律師の存在があるのだ。

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天才ピアニストを支える調律師のドキュメント【ピアノマニア】


あらすじ

フランスの著名ピアニストであるピエール=ロラン·エマールがバッハ晩年の未完の傑作といわれる「フーガの技法」を演奏することになり、ピアノはスタインウェイ社の「245番」が選ばれた。調律師であるシュテファンは時折ユーモアを混ぜながら、けれど慎重にエマールの要求を満たしていく。その裏には膨大な量の知識と経験、そして研究がなされていた。

今もドイツ、スタインウェイ社の技術主任を任されているドイツ人調律師、シュテファンに焦点を当てたドキュメンタリー映画。調律師の凄さを目の当たりにできる作品であり、ただただ圧倒される。作中、ピアニストのラン·ランが「ピアニストは調律師の弟子だよ」と笑って発言する場面があるが、そのくらい調律師の腕前がピアニストのコンディションに影響を与える。調律師とピアニストの「究極の音の美学」は圧巻だ。

まとめ

観てみたい作品は見つかっただろうか。
物語にしろ、ドキュメンタリーにしろ、弾き手の数だけ音色があり、人生がある。
だからこそ音楽で表現される喜怒哀楽は聴き手の心を揺さぶり、感動へと導く。
お気に入りの作品が見つかったなら、ぜひとも教えてほしい。

なお、音楽映画のおすすめ作品をまとめた下記の記事も要チェック。