「クラシックのピアノ曲って難しくてよくわからない」
「どんな曲をどう聴いていいかわからない」
クラシックに対して、こう思っている方は少なくないはず。
ご安心ください。クラシックのピアノ曲はBGMとして気軽に聴くぐらいで十分楽しめるのです。

また、
「かっこいいクラシックのピアノ曲を知りたい」
「曲名がわからないんだけど、あれなんていうピアノ曲なんだろう…」

そんなあなたの疑問に2名のピアノ講師がお答えします。

誰もが一度は耳にしたことのある曲も多く、クラシック初心者の方にもおすすめですよ。

案内人

  • 木内小夜子国立音楽大学卒業。4歳よりクラシックピアノを始め、玉澤敬子、青柳いづみこ、黒川浩、故・松下隆二、木村真紀の各氏に師事する。地元静岡にて同大学静岡県東部同調会主催のコンサートや沼津市芸術祭など、都内及び国内各地での演奏会や、西安、クアラルンプールの海外での演奏会にも出演。

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エリーゼのために(ベートーヴェン)

ベートーヴェンの作品の中でも、とりわけ有名な一曲。馴染みやすい旋律を持ち、コンサート等でも演奏される機会は非常に多いです。

「エリーゼって誰?」という疑問が浮かびますが、この曲はベートーヴェンの死後に発見されているため真実は闇の中。とはいえ、2つの説が伝えられています。
1人目のエリーゼさんは、彼と親交の深かったテレーゼ・マルファッティ。本曲の譜面は、彼女の遺品の中から発見されました。ベートーヴェンの字が雑であったため、テレーゼをエリーゼと読み間違えてしまったのではと言われています。

2人目のエリーゼさんは、ソプラノ歌手のエリザベート・レッケル。彼女の兄はベートーヴェンの歌劇に出演しており、その関係でベートーヴェンとエリザベートも親交を持っていました。そして、ベートーヴェンは彼女に恋心を抱いていたと言われています。エリザベートは作曲家のフンメルと1810年4月に婚約するのですが、「エリーゼのために」が作曲されたのは1810年4月27日。彼女へのお別れの作品だったのかもしれません。

こうしたエピソードを知ると、この短い作品から、誰かを思う切なさ、喜び、悲しみなど、いろいろな感情が聞こえてくると思います。

小犬のワルツ(ショパン)

ショパンの晩年の作品です。恋人であったジョルジュ・サンドの飼っていた子犬が、自分の尻尾を追いくるくると回転する様を、即興で曲にした作品といわれています。中間部に聞こえてくる高く短い音は、子犬がつけていた鈴の音を装飾音符で表現したとも。

これらのエピソードの通り、可愛らしく軽やかな一曲です。

別れの曲(ショパン)

ショパンの練習曲(エチュード)の中の一曲です。ショパンの練習曲集は音楽大学の入試の課題曲にも使用される高難度のもので、本曲も冒頭こそ緩やかで甘美なものの、中間部は技巧的なフレーズへ展開していきます。

「別れの曲」という通称は、ショパンが名付けたものではありません。1934年に公開されたショパンを描いたドイツ映画『別れの曲』でこの曲が使われ、以後日本ではこう呼ばれるようになりました。ちなみに海外では「Tristesse(悲しみ)」という愛称で知られています。

月の光(ドビュッシー)

フランスの作曲家ドビュッシーの作品『ベルガマスク組曲』の第3曲が、この「月の光」です。ベルガマスクとは「ベルガモの」という意味で、当時ドビュッシーとも親交のあった詩人ヴェルレーヌの詩集『艶なる宴』の一節から引用されています。

作曲されたのは1890年頃で、1905年に出版されました。優しく柔らかく、繊細で透明な美しさが終始漂うこの作品は、ドビュッシーの最も有名な曲のひとつでしょう。

アラベスク第1番(ドビュッシー)

こちらもドビュッシーのポピュラーなピアノ作品で、1891年に出版されたものです。

アラベスクとはイスラム美術の一様式で、工芸や建築の装飾に使用される唐草模様や幾何学模様のこと。ドビュッシーは、これを特にバッハの音楽と結び付け「芸術のあらゆる様態の根底である “装飾” の原理」との言葉を残しています。

2曲あるドビュッシーの「アラベスク」は、いずれも繰り返しながら発展していく旋律のモチーフと、生き生きと躍動するリズムが特徴です。音が交差し交わりながら広がっていくその様は、まさにアラベスク模様を思わせます。

ユーモレスク(ドヴォルザーク)

「ユーモレスク」はロマン派音楽の種類のひとつで、自由な形式や滑稽な雰囲気を持つ気まぐれな曲想が特徴です。

ドヴォルザークのピアノ作品は少ないものの、全8曲あるユーモレスク集の第7曲である本曲は非常に有名です。イタリアのヴァイオリニスト・作曲家であるクライスラーによるヴァイオリン用の編曲もポピュラーで、ヴァイオリン教室の発表会ではプログラムの常連となっています。軽やかで可愛らしいモチーフ、哀愁漂う展開部……小品ですが、魅力的な一曲です。

ピアノ・ソナタ第11番イ長調第3楽章「トルコ行進曲」(モーツァルト)

オーストリアの作曲家モーツァルトが1783年頃に作曲した、ピアノソナタK.331の第三楽章にあたります。冒頭に「Alla Turca(トルコ風に)」と記されているのが「トルコ行進曲」の愛称の由来です。

その知名度ゆえに、単体で演奏される機会も多い作品です。作曲当時のウィーンではトルコの軍楽が人気で、1783年はトルコ軍によるウィーン包囲に対してハプスブルク家が勝利してから100周年だったこともあり、モーツアルトはこの作風を用いたようです。

軍楽隊の打楽器のような規律正しい左手の伴奏、モーツァルトらしいコロコロと転がるような旋律、そして華やかなコーダが素敵なかっこいい作品です。

ラ・カンパネラ(リスト)

この曲は、ハンガリー出身の作曲家リストによる「パガニーニによる大練習曲集」の第3曲にあたります。

パガニーニはイタリアのヴァイオリニストで、その技術の高さは「悪魔に魂を売り渡して代償として得たものだ」と言われるほどでした。そんな彼が作曲した「24の奇想曲」と「ヴァイオリン協奏曲第2番」のモチーフを使い、ピアノ向けに編曲したのがリストです。

リスト自身も非常に高度な演奏技術を有したピアニストでした。この大練習曲集は、時代を超えた天才同士の共演だといえるでしょう。

「鐘」という意味の「ラ・カンパネラ」は難易度の高い作品で、鐘の音が終始聞こえています。リストらしい情熱的でダイナミックな展開に息を飲むでしょう。日本ではフジコ・ヘミングさんのレパートリーとして有名になりました。

愛の挨拶(エルガー)

イギリスの作曲家エルガーの有名な作品です。1888年に作曲され、彼の妻となるキャロライン・アリス・ロバーツへ捧げられています。

「愛の挨拶」は、元々はバイオリンとピアノのために作られましたが、作曲者自身の手でさまざまな編成に編曲され、ピアノ独奏版もその1つです。この甘く柔らかく、美しい旋律を聴くと、若いエルガーがいかにキャロラインへ曇りのない愛情を注いでいたかが、手に取るようにわかります。

亡き王女のためのパヴァーヌ(ラヴェル)

フランスの作曲家ラヴェルが、1899年に作った一曲です。

パヴァーヌとは、16世紀頃からヨーロッパの宮廷で普及していた、男女によるゆったりとした動きの舞踏のこと。また本曲の題名は、亡くなった王女の葬送の哀歌ではなく「昔、スペインの宮廷で小さな王女が踊ったようなパヴァーヌ」だとラヴェル自身が述べています。原題の「infante défunte」は、直訳すると「死んだインファタ(スペイン女王の称号)」ですが、実際には単に韻を踏んだ表現だとされています。

晩年に記憶障害に陥ったラヴェルが、街中でこの曲を耳にしたとき「なんて美しい曲なんだ。誰が作ったのだろう?」と尋ねたエピソードは有名です。古典的な作風で、懐かしさを感じさせ心に染み入る、美しい作品です。

ここからの案内人

  • 古川友理名古屋芸術大学卒業。
    4歳よりピアノを始め、伊藤京子、深谷直仁、奥村真の各氏に師事。
    地元愛知県三河地方を中心に器楽、声楽、合唱伴奏者として活動する傍ら、島村楽器音楽教室等でピアノ講師として勤める。

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ショパン|エチュード第12番「革命」


ピアノの詩人ショパンが作曲した27の練習曲のうち、「黒鍵」や「別れの曲」と並んで有名な一曲である「革命」。やるせなさや悲しみの入り混じったうねるような左手のアルペジオの上に、怒りを伴った右手の和音が重なり、練習曲というのがはばかられるほど芸術性の高い作品となっています。

本曲が発表されたのは、1831年のロシアによるワルシャワ侵攻と同時期。新たな拠点に身を置き、祖国ポーランドの行く末を遠い地から案じることしかできなかったショパンの激しい感情が込められているといわれています。
テレビメディアでは、1985年の小泉今日子主演のドラマ「少女に何が起こったか」や、チョコレート菓子のCMなどに使用されていました。

ショパン|ポロネーズ 第6番「英雄」


前掲の「革命」とは打って変わって、希望が満ち溢れた作品です。ポロネーズはポーランドの民族舞踊で、堂々かつゆったりとした4分の3拍子が特徴。ショパンはポロネーズを18曲作り、そのうち最も人気なのが本曲です。

ワクワク感に満ちた冒頭から明るく勇敢なテーマがフォルテで響き渡る部分が印象的。この曲に「英雄」という副題を付けたのは、フランス革命当時のポーランドの知識人たちでした。ショパンの祖国への愛が、革命の余波に揉まれる中、愛国心を貫こうとする人々の気持ちを後押ししたのかもしれません。

現代ではアニメ「タッチ」やドラマ「ロングバケーション」で使用されたほか、ピアニスト辻井伸行がテレビ番組で素晴らしい演奏を披露したことでも知られています。

J.S.バッハ|ゴルトベルク変奏曲


1741年に出版された、2段の手鍵盤のチェンバロのための変奏曲。穏やかで心安らぐアリアが最初と最後を飾り、その間はアリアの低音主題を用いた30の変奏曲で構成されています。

「ゴルトベルク変奏曲」と呼ばれるに至った理由は、バッハが音楽の手ほどきをしていたヨハン・ゴットリープ・ゴルトベルクが、不眠症に悩む伯爵のために演奏したという逸話から。真相は定かではありませんが、ゆったりまったりと感じるメロディーを聴くと、この逸話にも納得がいきます。

元々チェンバロのための曲であったため、ピアノで演奏されるようになったのは20世紀に入ってしばらくしてからです。クラシック界の異端児といわれたグレン・グールドがレコードデビューでこの曲を選んだことで、一躍有名になりました。

ベートーヴェン|ピアノソナタ第8番「悲愴」


ベートーヴェンが残した32曲のソナタは、その作曲時期により前期・中期・後期に分けられ、中でも「悲愴」は前期の傑作の一つとされています。激しい感情が押し寄せる第1楽章、穏やかで夢見心地な第2楽章、悲しみと希望の狭間を行き交うような第3楽章と、全体を通して物悲しい雰囲気が漂うのが特徴です。

作曲されたのは1798年で、この頃からベートーヴェンは聴力を失いかけていたと言われています。自らの異変に気付き、音楽家として命よりも大切な聴く力を失いかけている現実を目の当たりにした行き場のない感情が、この曲の悲壮感へと繋がっているのでしょう。

演奏会で取り上げられることも多い本曲ですが、特に第2楽章は「のだめカンタービレ」や「3年A組」といった大ヒットドラマでも使用されています。

ベートーヴェン|ピアノソナタ第14番「月光」


「月光」は、第8番「悲愴」、第23番「熱情」と合わせてベートーヴェンの三大ソナタと呼ばれています。ドイツの音楽評論家ルートヴィヒ・レルシュタープが「スイスのルツェルン湖の月光の波に揺らぐ小舟のようだ」と賛美した第1楽章、暗い楽章の間を軽快なステップのように繋ぐ第2楽章、急速に上昇する主題が強い怒りを思わせる第3楽章で構成される、儚さや力強さといったさまざまな表情に魅せられる作品です。

ベートーヴェンがこの曲に付けた副題は「幻想曲風ソナタ」。前述のレルシュタープの言葉から「月光」と呼ばれるようになったという説が有力で、ベートーヴェンの弟子であったカール・ツェルニーも、この作品に対して「夜景、遥か彼方から魂の悲しげな声が聞こえる」と月の光にも似た切ない印象を言葉に残しています。

最も有名である第1楽章はアニメ「名探偵コナン」や映画「月光の夏」で使用され、第3楽章はドラマ「のだめカンタービレ」で千秋が演奏したことで話題となりました。

ムソルグスキー|展覧会の絵


ロシアの作曲家ムソルグスキーによって1874年に作曲されたピアノ組曲「展覧会の絵」。友人の画家ヴィクトル・ハルトマンの死を悼み、遺作展を訪れた際の様子を音楽に表したのがこの作品です。曲ごとに異なる拍子や速さは、10枚の作品を巡る歩調を表しているとも言われています。

「プロムナード」や「キエフの大門」など、目の前に絵画の情景が浮かぶ印象的なメロディーの数々は、まるで聴く者を展覧会会場へと導いてくれているよう。

「展覧会の絵」は、ムソルグスキーのオリジナル版、オリジナル版に改訂を加えたリムスキー=コルサコフ版、モーリス・ラヴェル編曲の管弦楽版をはじめ、多くの作曲家による編曲版が世に送り出されています。

ラフマニノフ|「パガニーニの主題による狂詩曲」より第18変奏

「パガニーニの主題による狂詩曲」は、ロシアの作曲家ラフマニノフにより、ピアノを独奏楽器とする協奏的狂詩曲として1934年に作曲されました。第18変奏は、その中でも甘く魅力的な旋律で有名となり、単独でも演奏会などに取り上げられています。

ロシア革命の混乱の中、ピアニストとして活躍する場を求めてアメリカに渡ったラフマニノフ。ニューヨークでガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の初演を聴くなどしてジャズに触れた彼の作品には、和音の流麗な移り変わりやクラシックらしからぬ和声進行など、ジャズの要素を随所に感じることができます。

第18変奏は、その甘美で抒情的な曲調から、「三つの恋の物語」をはじめとする数多くの恋愛映画で使用されています。

モーツァルト|ピアノソナタ K545


ピアノを習ったことのある方なら、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。ソナチネアルバムやソナタアルバムにも収録されていることから、ピアノ学習者にとって最もポピュラーなモーツァルト作品の一つです。

厳格なソナタ形式の中で子どものような無邪気さを感じる第1楽章は、発表会の曲としても人気の一曲。落ち着きと品を感じる第2楽章、心弾む第3楽章からもモーツァルトらしさを存分に感じられる名曲です。

モーツァルトのソナタ全18曲は、全て3楽章形式で書かれており、楽章の緩急の配置もほとんどの作品で共通しています。聴き比べると、決まった形式の中で個性の光る作品を生み出すモーツァルトの唯一無二の才能を垣間見ることができるはずです。

リスト|愛の夢 第3番


ピアノの音色の輝かしさ、柔らかさ、力強さ、ピアノの美しさを余すことなく感じられるフランツ・リストの名曲「愛の夢 第3番」。元々は歌曲として作曲したものをリスト自身がピアノ独奏版に編曲した「3つの夜想曲」の中の一曲です。

「愛の夢」は、ドイツの詩人フライリヒラートの「おお、愛しうる限り愛せ」から始まる人詩を用いて1843年末頃に作曲された独唱歌曲。人間愛を語ったこの詩を表すような優しさに満ちたメロディーや、キラキラと輝く細かなパッセージ、全てを包み込む包容力を感じるフィナーレは、多くのピアノファンを魅了してやみません。

美しく穏やかな旋律はテレビCMのBGMとしても数多く起用され、映画「さよならドビュッシー」でも映画の鍵を握る曲として登場しています。

サティ|ジムノペディ 第1番


「ジムノペディ」は、エリック・サティが1888年に作曲したピアノ独奏曲。時間の流れが非常にゆっくりと感じられる第1番が最も有名で、愁いを帯びたメロディーには「ゆっくりと苦しみをもって」との指示が記されています。

装飾を最大限省いた簡素なメロディーの中に、穏やかさだけではない秘められた苦しみを感じる和声が時折顔を見せ、何とも言えない不安定さに引き寄せられる不思議な魅力があるこの曲。ヒーリング効果が認められ、病院の血圧測定中のBGMや精神科での音楽療法といった医療現場でも使用されている特異なクラシック曲でもあります。

1963年公開のフランス映画「鬼火」で世界的に知られるようになり、日本でもテレビ番組、美術館の環境音楽など、静けさを求められるさまざまなシーンで起用されています。

名曲に歴史あり

名曲には必ず歴史があります。時代背景、作曲家の性格や趣味嗜好、歩んだ人生……それらを知ると、また違った角度から曲を聴くことができると思います。

お気に入りの作品があれば、その作曲家の別の曲も聴いてみてください。そして、作曲家自身のことも調べてみてください。

偉大な作品を残した天才たちは、その才能を有しただけあって皆個性的で、彼らを知るだけでも面白いですよ。きっと、クラシックの楽しみ方が見えてくるでしょう。