ピアノをなめらかに美しく演奏する上で、欠かせないのがペダル。ピアノを始めてしばらく経つと、3本それぞれの役割や使い方で悩む方も多いのではないでしょうか。
本記事ではペダルの役割やテクニックについて、現役ピアノ奏者が詳しく解説します。ペダルへの理解を深め、演奏の幅を広げましょう。
案内人
- 古川友理名古屋芸術大学卒業。
4歳よりピアノを始め、伊藤京子、深谷直仁、奥村真の各氏に師事。
地元愛知県三河地方を中心に器楽、声楽、合唱伴奏者として活動する傍ら、島村楽器音楽教室等でピアノ講師として勤める。
目次
ピアノの各ペダルの役割や用途、原理
現在販売されているグランドピアノは、ほとんどが3本ペダル。右側から「ダンパーペダル」「ソステヌートペダル」「シフトペダル(ソフトペダル)」と呼ばれます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
右のペダル:ダンパーペダル
一番右にあるのは、最も使用頻度が高いダンパーペダルです。
ダンパーとは、フェルトなどで弦の振動を止め、音を消す装置のことです。ダンパーペダルを踏むとすべてのダンパーが弦から離れ、これにより弾いた音を伸ばせるようになります。ペダルを踏んでいる間は指を離しても音の響きは持続し、ペダルを離すとダンパーが元の位置に戻って音は消えます。この役割から、別名「サスティンペダル」とも。
使うシーンとしては、フレーズをなめらかに聴かせたいとき、複数の音を混ぜ合わせたいときなどですね。また、グランドピアノでは浅く踏むテクニック(ハーフペダル)で音の響き方の微調整も可能です。
真ん中のペダル:ソステヌートペダル、マフラーペダル
真ん中のペダルは、アップライトピアノとグランドピアノとで名称・役割が異なります。
グランドピアノ
グランドピアノの真ん中のペダルは「ソステヌートペダル」です。
ダンパーに作用して音の伸びをコントロールするという点では、前述のダンパーペダルと仕組みは同じ。ただ、ダンパーペダルがすべての音を伸ばすのに対し、ソステヌートペダルは伸ばしたい音のみを伸ばします。作用させたい鍵盤を押さえながら踏むと、その音の響きだけを残して、他の音の響きは残さずに演奏できるのです。
ダンパーペダルほど使用頻度は高くありませんが、ドビュッシーの「喜びの島」など、ソステヌートペダルを使わないと演奏不可能と考えられる曲もあります。
アップライトピアノ
アップライトピアノの真ん中のペダルは「マフラーペダル」。別名「消音ペダル」「弱音ペダル」とも呼ばれます。音楽表現のために使用するものではなく、演奏中の音による近所トラブルを回避するために生まれたといいます。
これを踏んで左側にスライドすると、ハンマーと弦の間にフェルトが入り、音量を半分以下に抑えて弾けるようになります。スライドによりロックがかかるので、踏みっぱなしにせずとも大丈夫です。
左のペダル:ソフトペダル
左側のペダルは「ソフトペダル」。アップライトピアノでもグランドピアノでも名称と役割は同じですが、構造上その仕組みは少し異なります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
グランドピアノ
そもそもソフトペダルは、音を柔らかくするためのもの。繊細な表現を要するシーンで用いられます。
ソフトペダルを踏むと、アクション(ピアノ内部の音を作り出す仕組み)全体が右側に移動します。そうすることで、本来3本の弦を打っていたハンマーは2本の弦を、2本の弦を打っていたハンマーは1本の弦を打つ位置へとスライド。打たれる弦が減る分、音量は抑えられ、音色は角が取れたように変化するわけです。
アップライトピアノ
アップライトピアノのソフトペダルも、役割自体はグランドピアノと同じです。
しかし、構造上アクション全体を動かすことが困難なため、ハンマーを弦に近くして、ハンマーの打弦を弱くする仕組みになっています。ですので、グランドピアノのように音質にまで変化を付けることはできません。
ペダルは楽譜内で指定されている?
ここからは、ペダルの使い方を解説していきます。
ダンパーペダルを使用する部分によく見られるのは、楽譜の下の「Ped.」という表記です。その他、その楽譜独自のペダル記号が表記されているケースも。
ソフトペダルを使用する部分に見られるのは、「una corda」「tre corde」という表記です。これは音楽用語で、それぞれ「ソフトペダルを踏む」「ソフトペダルを離す」を意味します。
ただ、クラシック作品の楽譜にはペダルの記号がないものも多く、書かれていてもその通りに踏むのが最も美しいかというと、そうでもないこともしばしば…。
音を聴き、響きを感じながら、足したり踏み変えたりしていくのが大切なのです。
ピアノペダルはそれぞれどの足で踏む?
ピアノの3本のペダル、それぞれどちらの足を使って踏むとよいのか?
基本として、ダンパーペダルは「右足」、シフトペダルは「左足」です。ダンパーペダルとシフトペダルは、両足で同時に使うこともできます。真ん中のソステヌートペダルは、音を伸ばす役割から考えて「右足」で踏むのが一般的です。
どちらの足でも、かかとを地面に付けたまま安定させ、足の前側に重心を置いてペダルを踏みましょう。離す時は足を動かすというより、足の力を抜くようにしてみてください。余計な力を入れないというのが大切です。
ピアノペダルの使い方、テクニック
ペダルは、最終的には感覚で使えるようになるのが理想的。でも、はじめは「どのタイミングで踏むの?」「いつ離すの?」と考えすぎて苦手意識を持つ方も多くいます。
ここからは、ペダルの使い方やテクニックを数点お伝えしますので、ぜひ練習に取り入れてみてください。
かかとはしっかり地面につけた状態で
先ほども述べましたが、体を支えて重心を安定させるために、かかとは地面に付けておきましょう。ペダルに触れさせるのは足の裏、親指の付け根あたりで、踏み込む際には太ももではなく足首を使います。離す際には、足の裏を地面に付けたままで足の力を抜けば、自然とペダルは持ち上がります。
足先を大げさに動かさないよう意識してみてください。
タイミングはペダルで響かせたい音を弾いてから
ペダルを踏むタイミングの基本は、響かせたい音を弾いた直後です。早すぎると音が途切れて不自然ですし、遅すぎると濁った音になってしまいます。
タイミングについては、慣れと勘を掴むことが重要。ゆっくり弾きながら練習し、音を濁らせることなく、なめらかに演奏できるよう経験を重ねましょう。
ffで和音を響かせたいときなどは、弾くのと同じタイミングで
ダンパーペダルには、弾くのと同じタイミングで踏む使い方もあります。ffで音をより幅広く響かせたいときなどに用います。
例えば、曲の最後がffの和音でかっこよく終わる場合。和音と同時に踏んで、手を離した少し後でペダルを上げます。そうすると、ダンパーが上がっていることにより和音の響きが広がり、ほどよく余韻を残せるようになるのです。
タイミング以外だと、ダンパーペダルを半分踏むことで響きを調整するといったテクニックも。ピアノの機種によって踏み心地やペダルの深さが微妙に違うので、実際に試しながら感覚を養っていきましょう。
まとめ
ペダルの踏み方やタイミングは、実際にやってみてはじめて感覚が掴めるもの。頭で考えるよりも実践を重ねるのが攻略の近道です。
手元のテクニックに注目されがちなピアノですが、実際にはペダル使いが曲の印象や完成度に大きな影響を与えます。本記事で解説したペダルの特性やテクニックを、素敵な演奏に役立てていただけたらうれしく思います。