今回はバロック時代の作曲家ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685〜1759)の名曲を取り上げます。

約300年も前に作曲されたにもかかわらず、私たちの日常の様々なシーンで耳にしますよね。なかでも「ハレルヤ」は誰もが一度は聴いたことがあるのではないでしょうか。

そんな時代を超えて愛されてきたヘンデルの作品のなかから、まずは聴いてほしい代表曲を10曲ご紹介します。

案内人

  • 林和香東京都出身。某楽譜出版社で働く編集者。
    3歳からクラシックピアノ、15歳から声楽を始める。国立音楽大学(歌曲ソリストコース)卒業、二期会オペラ研修所本科修了、桐朋学園大学大学院(歌曲)修了。

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劇作品に情熱を注いだヘンデルの名曲10選

出典:Wikimedia Commons

劇作品に情熱を注いだヘンデルは、生涯にわたりオペラとオラトリオを多く作曲しました。ドラマティックな演奏効果、観客を惹き込む技法、優雅で端正なハーモニー、そして何と言っても美しい旋律が特徴です。

ここからは、オペラ、オラトリオ、管弦楽曲、協奏曲のジャンルから一度は聴いてほしい代表曲10曲をご紹介します。

オペラ曲編

ヘンデルは当時のオペラの本場イタリアで数々の上演を成功させ、オペラ作曲家として認められていきます。渡英後も1740年頃までオペラに精力的に取り組みました。

アリア「私を泣かせてください」 オペラ「リナルド」HWV.7aより


兵士リナルドの恋人アルミレーナによって歌われるアリアです。敵軍の王に捕らえられ、リナルドのことを想いながら自分の運命を嘆きます。儚さや切なさが美しい音楽で表現されていますが、そのシンプルさゆえに高度な表現力も求められます。

今日ではアリア単体でよく演奏されており、イタリア語のまま「Lascia ch’io pianga(ラッシャ・キオ・ピアンガ)」と呼ぶこともあります。

アリア「オンブラ・マイ・フ」 オペラ「セルセ」HWV.40より


第一幕冒頭でペルシャ王のセルセが歌うアリアです。プラタナスの木陰の安らぎを讃える内容で、伸びやかな旋律は美しい声の聴かせどころです。

作曲当時はカストラートが演奏していました。カストラートとは去勢された男性歌手で、美しい高音域を得意とするヘンデルのオペラに欠かせない重要な存在でした。

オペラ全曲が演奏される機会は今ではほとんどありませんが、しばしばこのアリアのみ単独で演奏されます。

アリア「難破した船が嵐から」 オペラ「ジュリオ・チェーザレ」HWV.17より


1724年の初演で大成功を収めたオペラで、タイトルの「ジュリオ・チェーザレ」は古代ローマの軍人ジュリアス・シーザーのイタリア語読みです。比較的明快なストーリーで、ヘンデルのオペラの中では上演頻度の高い作品です。

このアリアでは、シーザーが生きて帰還することを知ったクレオパトラが喜びを高らかに歌いあげます。素早く細かに動くメロディは大変印象的で、高度なテクニックが求められます。

オラトリオ編

1740年頃を境にオペラからオラトリオの作曲へと徐々に転換していきます。オラトリオとは宗教的な題材に沿って複数の曲から構成される比較的大きな作品ジャンルです。

現在では全曲演奏されない作品もありますが、一部の曲は人気が高く単独で演奏されます。

「ハレルヤ・コーラス」 オラトリオ「メサイア」HWV.56より


1942年初演のヘンデルの代表的な作品のひとつ、オラトリオ「メサイア」からの一曲。イエス・キリストの生涯が題材で、声楽とオーケストラで構成される大規模な作品です。

「ハレルヤ・コーラス」は主の国の到来を讃える内容で、歓喜と感謝を表現します。「ハレルヤ」はヘブライ語で「主をほめたたえよ」を意味しています。喜びやお祝いのシーンで使われることも多く、誰もが一度は聞いたことがあるでしょう。

「見よ、勇者は帰る」 オラトリオ「ユダス・マカべウス」HWV.63より


オラトリオ「ユダス・マカべウス」の第三部に登場するコーラスです。当時の戦争で活躍した公爵の帰還にあわせて書かれた作品で、オラトリオのストーリーでは英雄ユダの凱旋を民衆が歓喜とともに迎える場面を表現しています。

世界各地で表彰や賛美の音楽として用いられてきたこともあり大変認知度の高い曲です。1796年にはベートーヴェンがチェロとピアノのための変奏曲を作曲しています。

「シバの女王の入城(到着)」 オラトリオ「ソロモン」HWV.67より


1948年初演のオラトリオ「ソロモン」の第三幕冒頭に演奏される3分程度の小さな合奏曲。ソロモン王のもとへ訪問したシバの女王が音楽や踊りで歓迎される豪華な場面です。

快活なメロディと明瞭なハーモニーで清々しい気分になれる一曲で、結婚式などのお祝いの音楽としても人気があります。

シバの女王が乗船した港|出典:Wikimedia Commons

管弦楽曲編

ヘンデルの器楽曲にはオペラやオラトリオのような大きなスケール感があります。華やかなだけではなく、その中に勇ましさや品格も感じられるのが魅力であり特徴です。

第2曲「アラ・ホーンパイプ」「水上の音楽」第二組曲HWV.349より


1717年にロンドンのテムズ川で国王のために演奏された作品。船に50人ほどのオーケストラを乗せて夜通し演奏するという大変豪華な計画でした。野外演奏ということもあり、トランペット、ホルン、オーボエなどの音がよく響く管楽器が活躍します。

「アラ・ホーンパイプ」とは「フォークダンス風」という意味で、全体的に華やかで明快な音楽となっています。

第1曲「序曲」 組曲「王宮の花火の音楽」HWV.351より


1749年初演の作品で、「水上の音楽」と並んで人気の高い管弦楽曲です。オーストリア継承戦争和約の祝典のために書かれました。

花火と一緒に演奏を楽しめるように、全体的に華やかかつ軽やかな小品で構成されており、「序曲」は花火が打ち上がる前に演奏されます。王室の権威のように堂々とした音楽で始まり、その後これから夜空に放たれる花火のように軽快な音楽へと続いていきます。

協奏曲編

オペラ作曲家としてロンドンで活躍を続けていたヘンデルですが、音楽界でイタリアの合奏協奏曲が流行し始めるとわずか1ヶ月で「12の合奏協奏曲集」を書き上げるなど、流行にも敏感でした。

第3曲「ミュゼット」 「12の合奏協奏曲集」Op.6第6番HWV.324より


「コンチェルト・グロッソ」とも呼ばれるこの曲集は12の作品から成る合奏協奏曲で、全曲の演奏には3時間近くかかる大作です。

第6番3曲目の「ミュゼット」は単独でも演奏される人気曲です。優しく穏やかな旋律と緊張感のある中間部の対比が特徴で、自然に囲まれた村の様子を表しているような、古き良き牧歌的な懐かしさをふと思い出させてくれます。

オルガン協奏曲第13番 「カッコウとナイチンゲール」HWV.295


1739年初演のオラトリオ「エジプトのイスラエル人」の幕間で披露された作品です。全4楽章から成り、このタイトルは第二楽章アレグロでカッコウとナイチンゲールの鳴き声がオルガンの音で表現されていることに由来します。鳴き声の描写では可愛らしくかけ合いが続きます。

オルガンのさまざまな音色が、柔らかさ、軽さ、深みを際立たせ、弦の合奏とバランスをとりながら音楽を形成していきます。

まとめ

ヘンデルは当時の最先端の音楽を吸収しながら傑作を生みました。豊かな感情表現と品格をあわせ持つ美しい旋律は現代まで色褪せることなく、私たちの日常の様々な場面に彩りを添えてくれています。