信長貴富は日本を代表する作曲家・編曲家のひとりで、数多くの合唱曲を手がけています。中高生を中心に高い人気を誇る合唱曲〈群青〉も、実は信長貴富の編曲作品です。
本記事では信長貴富の経歴や作風、代表作を紹介します。とくに人気のある作品や、名曲誕生の背景も知ることができるので、ぜひチェックしてみてくださいね。
案内人
- 山吹あや幼少期からピアノ、中学校からサックス、高校から声楽を始め、地方国立大学教育学部音楽専攻へ進学。中学校では合唱部顧問を担当し、県大会を通過し関東大会に多数の出場経験がある。
目次
信長貴富の経歴
信長貴富は1971年5月16日に兵庫県で生まれました。小学校入学前に東京に引っ越し、1994年に上智大学文学部教育学科を卒業しています。
信長氏は独学で作曲を学び、世田谷区役所の職員を経て、1997年に作曲家・編曲家として独立しました。
主な受賞歴は下記の通りです。
- 1994年、1995年、1999年 朝日作曲賞(合唱曲)
- 1998年 奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門第1位
- 2000年 現音作曲新人賞入選(室内楽曲)
- 2001年 日本音楽コンクール作曲部門(室内楽曲)第2位
作品は合唱曲を中心に、歌曲や器楽曲の作曲、ホップス作品の合唱編曲など数多く手がけています。
信長貴富の作風
信長氏の作品は、親しみやすく歌いやすい楽曲もあれば、無調的で高度なテクニックを要する楽曲もあり、幅広い作風が特徴的です。
三善晃や鈴木輝昭の影響を受け、ヴォカリーズを「B.F.」と表記したり、三善アクセントとよばれる<>型アクセントを多く使用したりしています。その中でポップス的なリズムや和声を積極的に用いているところが信長作品の特徴でもあります。
信長貴富の代表曲
ここでは信長氏の代表曲を6曲紹介します。ぜひ聞いてみてくださいね。
群青
福島県南相馬市立小高中学校の音楽教諭が、東日本大震災で被災した生徒たちの想いを歌詞にまとめて作曲した合唱曲です。信長氏は混声4部合唱、混声3部合唱、同声2部合唱の編曲を手がけています。
信長氏が編曲した楽譜が2013年8月に出版されたことで全国へと広まり、多くの学校の卒業式や合唱コンクールでも歌われるようになりました。
2014年8月放送の24時間テレビでは、楽曲完成までの道のりや生徒の様子などが紹介され、小高中学校の生徒と関ジャニ∞の合同合唱も生演奏されました。しだいに国外でも注目されるようになり、2015年には英訳詩による楽譜も出版されています。
離れ離れになった仲間との再会を願う歌詞と、学生にも歌いやすい語りかけるような旋律が特徴的な楽曲です。
混声合唱とピアノのための《初心のうた》より〈初心のうた〉
「さまざまな社会矛盾を前にして、ひるまず冷静に真実を見つめ未来を切り開く若い意思にエールを送る」というテーマのもと、木島始の5つの詩をテキストとして作曲された楽曲です。
混声四部合唱の5つの楽曲からなり、エオリアン・コール第20回演奏会にて2002年6月に全曲初演されました。混声合唱版のほかに、女声合唱版、男声合唱版も出版されています。
この〈初心のうた〉は表題曲であり5曲のうちの1曲目で、混迷する社会の闇を表すピアノの不協和音から楽曲が始まるのが印象的です。後半には長調へ転調するとともにテンポが速くなり、壮大なスケールで曲が展開されていきます。
童声合唱とピアノのための《リフレイン》より〈リフレイン〉
思春期の子どもの揺れる気持ちを素直に綴った歌詞が印象的な楽曲。作詞者の覚和歌子は「友だちと心をひとつにして歌う時間が、かけがえのない輝きをもって子どもたちのいのちの根っことなり翼となることを心から願って」と語っています。
2009年3月に、シンフォニーヒルズ少年少女合唱団第5回定期演奏会にて委嘱初演されました。児童合唱曲として「童声」と表記されていますが、同声3部合唱として子どもから大人まで幅広い年代に歌われています。2012年には混声合唱版も出版されました。
親しみやすい旋律と心地よいテンポ感で、歌いやすい楽曲として人気があります。
女声合唱とピアノのための《空の名前》より〈天空歌〉
ベストセラーになった写真集を基にした〈空の名前〉のほか、〈かなしみ〉(谷川俊太郎)、〈そら〉(池澤夏樹)、〈天空歌〉(永瀬清子)、〈夕焼け〉(高田敏子)の全5曲で構成された女声三部合唱曲集で、2003年に出版されました。
空の表情を鮮やかな旋律で描いた曲集で、曲ごとにそれぞれ違った空の美しさが表現されています。
中でも4曲目の〈天空歌〉はとくに人気があり、多くの中高生や合唱団に歌われている楽曲です。
壮大な宇宙を思わせる歌詞、流れるような旋律、疾走感のあるピアノが特徴的で、転調を繰り返しながら終盤に向けて盛り上がっていきます。
混声合唱とピアノのための《くちびるに歌を》より〈くちびるに歌を〉
ドイツ語の詩による4つの楽曲からなる男声合唱組曲として2005年に作曲され、2007年に混声合唱版、2011年に女声合唱版も出版されています。
〈くちびるに歌を〉は表題曲であり組曲の最終曲で、ツェーザル・フライシュレンによるドイツ語の詩とその日本語訳がテキストとして使われています。
ドイツ語の深みのある響きと、日本語によるイメージの膨らみで音像をつくりだす試みにより、ドイツ・ロマン主義の情感豊かな世界が見事に表現されています。
ゆったりとしたテンポの中に美しく力強い旋律とピアノが絡み合い、ドラマチックに盛り上がっていくのが特徴的です。
女声合唱曲集《うたを うたう とき》より〈春〉
信長貴富による女声合唱のための小品を5つ集めた曲集で、2012年7月に出版されました。中でも新川和江作詞の〈春〉はとくに人気があり、合唱コンクールから演奏会まで幅広く親しまれている楽曲です。
「わたしはもう悲しむまい」という詩が何度も繰り返されながら、芽吹きの春に新たな決意をもって進んでいこうという想いが溢れ出るように楽曲が進んでいきます。
光が差すような美しいアンサンブルと情感豊かなピアノが感動的に盛り上げ、最後は豊かな余韻を残して楽曲を閉じます。
まとめ
今回は、信長貴富の経歴や作風、代表作を紹介しました。気に入った楽曲は見つかりましたか?今回紹介した6曲だけでも、作風の幅広さを感じていただけたと思います。
信長貴富の楽曲はまだまだたくさんあるので、ぜひ他の楽曲も聴いてみてくださいね。