日本を代表する作曲家の千原英喜は、NHK学校音楽コンクールの課題曲をはじめ、日本人の心を揺さぶる美しく力強い合唱曲を数多く生み出してきました。

そこで本記事では、千原英喜の人物像に迫るべく経歴や作風、代表曲を紹介していきます。千原氏の魅力の再発見にも繋がりますのでぜひ最後までお付き合いください。

案内人

  • 山吹あや幼少期からピアノ、中学校からサックス、高校から声楽を始め、地方国立大学教育学部音楽専攻へ進学。中学校では合唱部顧問を担当し、県大会を通過し関東大会に多数の出場経験がある。

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千原英喜の経歴

画像引用:Wikipedia|東京藝術大学

千原英喜は1957年に福井県で生まれました。東京藝術大学音楽学部作曲科を卒業し、同大学大学院修士課程を修了。作曲は間宮芳生と小林秀雄に師事しています。

大学在学中には日本音楽コンクール第2位を受賞。他にもトリエステ市賞、グィード・ダレッツォ国際合唱コンコルソ入賞、吹田音楽コンクール作曲部門最優秀賞、カール・マリア・フォン・ウェーバー作曲賞など、国内外で多くの受賞歴をもっています。

千原英喜の作風

千原英喜の作品は、日本の伝統音楽や古典を西洋の音楽(主にキリスト教の聖歌)と結びつけているのが大きな特徴です。

合唱曲や歌曲を中心に、以下のようなジャンルの作曲活動を展開しています。

  • 日本の古典文学や伝統芸能、民謡などを素材とする音楽
  • 日本の民俗性や宗教性と西欧とのかかわりをテーマにした音楽
  • 日本独自の歌謡性を取り入れた親しみある音楽
  • クラシック曲の合唱アレンジ編作

千原英喜の代表曲

千原英喜の作品には多くの名曲がありますが、ここでは代表的な作品を6つ紹介します。ぜひチェックしてみてください。

明日へ続く道

第79回NHK学校音楽コンクール(2012年)高等学校の部の課題曲となった楽曲です。

作詞は星野富弘。シンプルな言葉が繰り返されるなかに、明日への希望を見出すような力強さもあります。柔和でいてどこか力強さを感じさせる千原英喜の生み出す旋律とも相まって、聴く人を勇気づける「不屈への応援歌」としてコンクール後も長く愛されています。

混声4部合唱版、女声3部合唱版、男声3部合唱版のそれぞれが出版されており、高校生はもちろん、幅広い年代で歌われている人気曲です。

みやこわすれ

女声合唱とピアノのための組曲「みやこわすれ」の中の一曲。野呂昶の詩をテキストにした『薔薇のかおりの夕ぐれ』『はっか草』『すみれ』『みやこわすれ』の4つの曲からなる組曲です。4つの花々を編んだ歌のブーケのように、それぞれが美しい歌詞と旋律で表現されています。

みやこわすれとはキク科の植物で、春に開花する野菊の一種です。日本人に馴染みの深いみやこわすれの花を、千原英喜ならではの、日本独自の歌謡性を取り入れた親しみある音楽で美しく表現しています。

どちりなきりしたん Ⅳ

混声合唱のための「どちりなきりしたん」は、『Ⅰ』『Ⅱ』『Ⅲ』『Ⅳ』『Ⅴ Epilogue : Ave Verum Corpus』の5曲からなり、特に『Ⅳ』はコンクールや演奏会などさまざまな場で多く歌われています。

この楽曲は、1549年のザビエルによるキリスト教伝来から1614年のキリスト教禁止令に至るまでのキリシタン時代を背景とした賛歌です。切支丹(キリシタン)文学とラテン語典礼文をテキストにしています。グレゴリオ聖歌を思わせる、シンプルでありながら重層的なハーモニーが特徴的です。

わが抒情詩

草野心平の詩集「日本砂漠」から『わが抒情詩』と題した詩をテキストに作曲された楽曲です。草野心平が戦後に南京から日本へ戻ってきた際に、瓦礫の山の中で“生きることの意味”を考えながら、自分らしく、肩肘張らずに愚痴も履かず、淡々と生きていこうという思いを綴っています。

混声4部合唱版と男声4部合唱版があり、どちらも無伴奏合唱ならではの美しく厚みのある立体的なハーモニーが魅力です。草野心平のまっすぐで力強い詩を、千原英喜ならではのやわらかくも真情あふれる音楽で抒情的に描いています。

相聞 / Sohmon

混声合唱のための「レクイエム」の中の一曲。柿本人麻呂の歌をはじめとする日本の古代歌謡から、離別の悲しみの歌、亡き人を偲ぶ歌、鎮魂歌、辞世歌などをテキストとして採用しています。そこにラテン語のレクイエム詞文を織り込むことで、千原英喜が思い描く「日本的なレクイエム」として、宗教や時代にとらわれない、普遍的な悲しみや祈りが描かれています。

『入祭唱 / Introitus』『哀歌・慟哭 / Lamento』『相聞 / Sohmon』『挽歌 / Banka』『コラール / Corale』の5つの楽曲で構成されており、中でも特に『相聞 / Sohmon』はコンクールや演奏会などで数多く演奏されています。

ある真夜中に

第73回NHK学校音楽コンクール(2006年)高等学校の部の課題曲となった楽曲です。

作詞を担当した瀬戸内寂聴は、同年度のコンクールのテーマである“出会い”について「愛との出逢いほど、その人の生涯を美しい想い出の花で飾るものはないだろう」とし、女性を「花びら」、男性を「雪」に例えて描いています。

ピアノの音型は「心臓の鼓動」を表しており、不協和音が多く使われていたり転調の回数が11回もあったりと、瀬戸内寂聴の壮大な世界観の詩に合わせたスケールの大きい楽曲になっています。

まとめ

本記事では、千原英喜の経歴や作風、代表曲を紹介しました。

「聞いたことはあったけどタイトルまでは知らなかった」「この曲にはこんな意味が込められていたんだ」など、新たな発見があったのではないでしょうか。

千原英喜の名曲はまだまだたくさんあります。ぜひお気に入りの一曲を見つけてみてくださいね。