超絶技巧のピアニストとして有名なリスト。「ピアノの魔術師」と呼ばれた彼の人生とは一体どのようなものであったのか気になりませんか?

今回は、作品紹介を交えながらリストの生涯を辿り、その人物像に迫ります。華々しく情熱的であった彼の人生を知れば知るほど、より作品の魅力を感じられるでしょう。

案内人

  • 林和香東京都出身。某楽譜出版社で働く編集者。
    3歳からクラシックピアノ、15歳から声楽を始める。国立音楽大学(歌曲ソリストコース)卒業、二期会オペラ研修所本科修了、桐朋学園大学大学院(歌曲)修了。

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リストの生涯

フランツ・リスト(1811〜1886年)はクラシック音楽史のロマン派の作曲家でありピアニストです。
「ピアノの魔術師」と呼ばれるリストは、超人的な演奏テクニックで当時の人々を驚かせました。

時代を超えて聴く人を魅了する彼の音楽は、どのようにして磨かれていったのでしょうか。

幼少期からピアニストとしての地位を築くまで

1811年に現在のオーストリア地域で生まれたリストは、音楽家の父からピアノの手ほどきを受けました。才能が開花するのは早く、9歳頃から演奏会に出演し、評判は瞬く間にヨーロッパ中に広まります。1822年にウィーンへ、23年にパリへ移り本格的に勉強を始めると、ますます成功を重ね人気を獲得していきました。

指導者や作曲家として活動

幼い頃から演奏一筋だったリストは、17歳の頃から指導者としても活動をはじめます。貴族との交流を通して、ショパンやベルリオーズとも接点を持ちました。演奏会を開いては、天才的なテクニックと情熱的な表現、そして美貌で魅了するスター・ピアニストとして、ヨーロッパ中にファンを増やしていきました。

名誉称号も授かった輝かしい晩年

各地で名声を得ていたリストですが、57歳の頃に超絶技巧の演奏から引退します。その数年前には聖職者となり、宗教音楽作品の創作など生活に変化が生じました。名誉称号を授かるなど、輝かしい晩年でもありました。

75歳で生涯を閉じますが、死の間際でもワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』初演を鑑賞したりと、最期まで音楽一筋の生涯でした。

弟子への指導を無償で行った人格者リスト

1884年フランツ・リストと生徒たち

リストは多くの人から注目される人格者でした。聴衆が超絶技巧を求めるほど、彼は期待に応えて人々を満足させることに喜びを感じる生粋のエンターテイナーだったのです。また、演奏活動と並行して後進の育成にも力を注ぎ、400人を超える弟子がいたと言われています。

リストは自身を指導者ではなく芸術家と考え、基本的に無償で指導をおこなっていました。ハンス・フォン・ビューローをはじめ、後世にはリストからの流れを受けた多くの音楽家が誕生しています。

パガニーニやショパンとの出会い

ヴァイオリン奏者ニコロ・パガニーニとの出会いは、リストの音楽性に大きな影響を与えました。パガニーニは超絶技巧の演奏者として有名で、リストはその演奏を体験して、ピアノにおける超絶技巧の追求を目指し活動するようになるのです。有名な『パガニーニ大練習曲集第三曲 ラ・カンパネラ』は、パガニーニの『ヴァイオリン協奏曲第2番第3楽章』に着想を得た作品です。

ショパンとの関係も重要です。二人は同時代にパリで活躍した仲間でありましたが、音楽家としては対照的でした。リストが華やかな超絶技巧を武器にライブ感覚の演奏会を行なっていたのに対し、ショパンは繊細で豊かな表現を目指し、こぢんまりとした会場での演奏会を好んでいたのです。方向性の違いからショパンと溝ができることもありましたが、リストは演奏会のプログラムにショパンの作品を取り上げるなど敬意を持ち続けました。

リストに関するエピソード

リストをより詳しく知るためのエピソードをご紹介します。

マリー・ダグー伯爵夫人との逃避行時代

貴族のサロンに出入りしているうちに知り合ったマリー・ダグー伯爵夫人とリストは、激しい恋に落ち、1835年にすべてを捨ててジュネーヴへイタリアへと逃避行します。10年あまりの生活で3人の子どもをもうけましたが(そのうちの一人はリヒャルト・ワーグナーの妻となります)、結婚しないまま1844年に別れてしまいます。この間に『巡礼の年 第一年スイス 第二年イタリア』などの名曲が完成しました。その後、パリへ帰ったリストは本格的に演奏会を開催し、ヴィルトゥオーソ・ピアニストとして各地で熱狂を巻き起こしていきます。

超絶技巧をこなせる大きな手

リストのピアノ作品といえば、超絶技巧が聴きどころです。現代のピアニストにとっては重要かつ定番のレパートリーのひとつですが、もちろん当時は弾きこなせる人は少なく、聴衆の間には「リストの指は6本ある」と噂が立つほどでした。手も非常に大きく、右手の親指を鍵盤のドに置いて、小指を1オクターブ上のラまで広げて弾ける程の大きさでした。

リストの作曲技法

様々なジャンルの作品を残していますが、特に注目したい点を2つご紹介します。

華やかで細密な、超絶技巧のピアノ曲

超絶技巧の代表曲である『超絶技巧練習曲』は高難度のため、作曲当時から弾ける人が限られていました。ピアニストの花形レパートリーとして人気があり、人並外れた演奏は時代を超えて人々にパワーを与え続けています。

テーマ性のある作品創作

リストの作品には、本人によって色とりどりのタイトルが付けられています。すべての編成において「第○番」のような数え方の作品は数えるほどしかありません。想いや気分、出来事などをテーマにして作られた音楽を「標題音楽」といいますが、リストは標題的な作品を数多く発表しました。この考え方は「交響詩」という新たなジャンルの確立にもつながりました。

リスト作品の特徴


ここからは、リスト作品の特徴と、音楽史上における彼の功績をご紹介します。

ピアノ表現の拡大と交響詩の創始

ヴィルトゥオーソ・ピアニストであり、作曲家としても活躍した彼は、ピアノという楽器の表現を極限まで広げ、時代を超えて人々を魅了する作品を数多く残しました。また、オーケストラ作品においても顕著な業績があり、交響詩*の創始者としても知られています。交響詩はその後の作曲家にとって重要なジャンルとして発展していきました。

*詩などの音楽外の要素と結びついた単一楽章の管弦楽曲

ピアノ編曲の作品

リストは自身の作品をオーケストラ、ピアノソロ、2台ピアノ版などさまざまな編成に編曲しました。例えば、3曲から成る『愛の夢』も、実はもともとは歌曲として作曲されましたが本人によってピアノ編曲された作品です。さらに、シューベルトやヴェルディなど他の作曲家の作品もピアノ編曲をしています。原曲に忠実にというより、「リスト風に」編曲されているため厚い響きや華やかな技巧で名曲のアレンジを楽しむことができます。

美しい宗教音楽作品、晩年の無調

晩年になると派手で長大なピアノ曲は減り、より自由で深みのある響きを目指すようになります。1885年には『無調のバガテル』で調性を超えることを試みています。聖職者としての信仰心から宗教曲の創作も増え、オラトリオ『キリスト』や数々の宗教合唱曲に力を注ぎました。

リスト作品をより楽しむコツ

リストの得意とした超絶技巧と編曲の作品の世界にどっぷりと浸って、もっと魅力を知りましょう!

超絶技巧を聴き倒す

全12曲で構成される『超絶技巧練習曲』は2度改訂されています。第2稿は練習曲で有名なツェルニーに献呈されましたが、難しすぎてほとんど演奏不可能なものでした。現在演奏されているものは第3稿です。なかでも、第4番『マゼッパ』や第5番『鬼火』は特に難易度が高いので、ピアニストの演奏技術にも注目して聴いてみましょう。

オーケストラ版とピアノ編曲版の聴き比べを楽しむ

リストは過去多くの作曲家の作品を編曲したことでも有名です。ベートーヴェンの「第九」も、リスト編曲によるピアノ独奏版と2台ピアノ版があります。オーケストラ版に比べると落ち着いた印象を持つかもしれませんが、原曲のスケールの大きさがピアノの音色に凝縮されているため、違う魅力を味わうことができますよ。

まとめ

超絶技巧のきっかけとなったエピソードや晩年の宗教的作品など、さまざまな側面を知ることでリストの奥深さを知ることができます。ぜひ生涯を辿りながら、鑑賞をもっと楽しみましょう。