6月から全国6都道府県において、ピアノリサイタル「プレリュード」を開催されることとなっているピアニストの外山啓介さん。今回はそんな外山さんから「もっとピアノが上手くなりたい!」という方のために、練習に役立つアドバイスや、外山さん自身が日々どのような気持ちでピアノと向き合っていらっしゃるか、ということについて伺いました。
「練習に行き詰まっている」「方向性に迷っている」という人には特に読んでいただきたい、ヒント満載の内容です!学生時代の意外なエピソードや、気になるリサイタルに向けての想いもお話いただいたので、ぜひ最後までご覧ください。
取材・文
- 山本知恵ピアノ歴30年以上、他にもクラリネット、ヴァイオリンの演奏経歴を持つ音楽と美術を愛するフリーライター。好きな曲はベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴」とヘンデルのオラトリオ「メサイア」。
目次
プロフィール
外山啓介/ピアノ
Keisuke Toyama, Piano
第73回日本音楽コンクール第1位。東京藝術大学卒業後ハノーファー音楽演劇大学留学を経て、東京藝術大学大学院を修了。
07年CDデビュー、これまでに9枚のCDをリリースし09年『ラフマニノフ』と13年『展覧会の絵』は「レコード芸術」誌特選盤に選出されている。全国各地でのリサイタル・ツアーを毎年実施、主要オーケストラとの共演も多数あり、その繊細で色彩感豊かな独特の音色を持つ演奏は、各方面から高い評価を得ている。18年、第44回「日本ショパン協会賞」受賞。21年、最新CD『《ワルトシュタイン》《悲愴》《熱情》~ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集』をリリース(『レコード芸術』誌特選盤に選出)。
札幌大谷大学芸術学部音楽学科特任准教授。洗足学園音楽大学非常勤講師。桐朋学園大学非常勤講師。
ピアノ指導をしている中で気が付いたこと
——現在、札幌大谷大学、桐朋学園大学、洗足学園音楽大学で指導をされていらっしゃる外山さん。多くの学生を見てきた中で共通してみられた傾向などはありますか?実際に指導する際によく伝えているメッセージなどがあれば教えていただきたいです。
外山
最近の学生の傾向としては、私たちの時代より耳から入る情報が多いからか、譜読みのスピードが速いように感じています。ただ、その分楽譜を読み込む前に弾けるようになってしまって、譜読みのミスが多いとも感じています。まさに一長一短ですね。
——確かに、最近ではApple MusicやSpotifyなどのサブスクで気軽に音楽が楽しめるようになりました。ここ10年ほどで大きく時代が様変わりしたような気がします。
学生時代から全力投球
——外山さんの学生時代は、どのように練習されていましたか?また、藝大受験で心がけたことなどあれば教えてください。
外山
高校時代は、遊びも練習も全力投球だったように思います。遊ぶ時は思い切り遊ぶ、練習する時はとことん練習するという感じで、とにかくメリハリがあったかな。
勉強の題材としてはとてもオーソドックスでしたね。バッハ、古典のソナタ、エチュード、ロマン派、近現代…と満遍なく網羅していった感じです。ショパンのエチュードに入る前にモシュコフスキーの作品72をすべて勉強したのですが、とても助けになったことを覚えています。
受験で特別心がけたこと、というのは特になかったのですが、直前の数ヶ月は1日10時間くらい練習していた記憶があります。
——1日10時間ですか!さすがです。遊びもピアノの練習も全力で取り組んでいらっしゃったのですね。
外山さん自身が今までで練習に苦労した曲はありますか?あるとしたら、どの曲のどの部分になりますか?印象に残るエピソードがあれば教えてください。
外山
どんな曲を練習しても大変ですが、やはりラフマニノフのピアノ協奏曲の第3番は別格でした。どの部分がというより、とにかくずっと難しいという印象です。よくもまあここまで難しい曲を書けるものだと感心してしまうほどですね。もちろん、練習が大変だった分、本番で演奏できた時の喜びは大きかったのです。
——ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番と言えば、テクニックと表現力の両面が求められる名曲の一つ。やはり練習も大変だったのですね。
ピアノをやめたいと思ったら……
——音楽でプロを目指す道の途中で「自分には無理だ……」と挫折する人も少なくありません。外山さんは、これまでのピアノ人生で、ピアノをやめたいと思ったことはありますか?もしあったとすれば、その時はどのようにして気持ちを立て直されたのでしょうか?現在、同じような悩みを抱えている奏者にメッセージをいただきたいです。
外山
一番記憶に残っているのは、大学2年生の時です。私は普通高校だったので、大学に入学して同級生や先輩たちがみなさん素晴らしい演奏技術や才能を持っていることに心底驚きました。それまでコンクールなどで同年代の優れた演奏者に会うことはたくさんありましたが、同級生という身近な存在に音楽の勉強している人がたくさんいる、という環境が初めてだったので…。
私は本当に運がよく、その翌年に挑戦した日本音楽コンクールで賞をもらえたことが気持ちを立て直すのに、ものすごく大きなきっかけになったと思います。「もっと頑張ったらもう少しだけうまくなれるかもよ!」というメッセージに感じたのです。
あまり大きなことは言えませんが、なんだかんだ言って、「やっぱりピアノが好きだ」という気持ちがあるならば、続けてみる価値があると思っています。
——順風満帆のように見える外山さんにもそんな経験があったとは……意外に思えます。そのような悩みを乗り越えて今があるのですね。
最近ではコンクールで審査員も務めていらっしゃる外山さん。下記記事では、コンクールや発表会などの大舞台で実力を発揮するためのアドバイスや、審査員目線での貴重なお話が紹介されていますので、こちらもぜひチェックしてみてください。
ピアニストとして最高のステージで
——2024年は「飛躍」の年ということで、6月から10月にかけて山梨県、東京都、静岡県、北海道、大阪府、岡山県の6都道府県において、外山啓介ピアノ・リサイタル「プレリュード」を開催されると伺いました。特に9月1日(日)の会場となっているサントリーホールは、同会場で開催されたデビュー・リサイタルが完売となったことでも知られており、外山さんにとっても思い出深い会場なのではないでしょうか?
外山
サントリーホールはとても思い入れのあるホールです。演奏する時はもちろん、コンサートを聴かせてもらう時にも背筋が伸びる場所だと感じます。これまでもサントリーホールでたくさんの素晴らしいコンサートに立ち会えました。その舞台で演奏させてもらえることに感謝し、本番に臨みます。
——今回はショパン《24の前奏曲 全曲》を初演奏されるということで、ファンの方もとても楽しみにされていることと思います。他にも「3つのマズルカop.59」や「舟歌 op.60」を演奏される予定となっていますが、外山さんにとってショパンとはどのような存在なのでしょうか?
外山
ショパンは、これみよがしではない、とても自然な音楽だと感じます。どこをとっても無駄がなく、まさに清廉潔白な音楽に魅了され続けています!
いつかくるかもしれない引退公演では、ショパンを弾くと実はすでに決めています。
——まだまだ先とは思いますが、引退公演でもショパンを!!やはりショパンには特別な思いがあるのですね。「ショパンは、これみよがしではない、とても自然な音楽」この言葉にも、僭越ながら大変共感いたしました。リサイタルがますます楽しみです!
さいごに、リサイタルを楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします!
外山
今年は憧れのショパンの《前奏曲 全曲演奏》に初挑戦いたします。
大変ではありますが、曲が素晴らしすぎて練習がとても楽しいです。根拠はないのですが、《前奏曲 全曲演奏》は、自分にとって大きな転機になるような気がしてなりません。聴きに来てくださるみなさまと会場で素晴らしい音楽を共有できることを楽しみにしています!
ピアノリサイタル「プレリュード」の開催を控え「曲が素晴らしすぎて練習がとても楽しい」とおっしゃる外山さん。ピアノに対するひたむきな思いや情熱が伝わってきました。そんな外山さんだからこそ、落ち込んでも「ピアノが好き」であるのなら続けてみる価値がある、という言葉に説得力を感じます。
今回は貴重なお話を聴かせていただき、本当にありがとうございました!
外山啓介ピアノ・リサイタル「プレリュード」公演情報
■公演詳細
公演名:外山啓介ピアノ・リサイタル「プレリュード」
日程:2024 年 9 月 1 日(日) 14:00 開演(13:15 開場)
会場:サントリーホール
プログラム:
ドビュッシー:『前奏曲集』より
亜麻色の髪の乙女
ヒースの茂る荒地
ラフマニノフ:前奏曲「鐘」 嬰ハ短調 op.3-2
ワーグナー(リスト編):イゾルデの愛の死
ショパン:3 つのマズルカ op.59
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 op.60
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ショパン:24 の前奏曲(全曲)op.28
料金: S 席 5,000 円 A 席 3,500 円(全席指定・税込み)
予約・問い合わせ:チケットスペース 03-3234-9999
チケット取扱い:
サントリーホールチケットセンター 0570-55-0017 http://suntory.jp/HALL/
チケットぴあ https://pia.jp/ [P コード:265-595] セブン-イレブンで直接販売
ローソンチケット https://l-tike.com/ [L コード:32202] ローソン、ミニストップで直接販売
イープラス https://eplus.jp/ ファミリーマートで直接販売
※曲目・曲順等が変更になる場合がございます
※未就学児入場不可 ※チケットご購入後のキャンセル及び変更はできません。
※車椅子のお客様はチケットご購入前にチケットスペース (03-3234-9999) までご連絡ください。
主催:インタースペース 協力:エイベックス・クラシックス・インターナショナル
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