2021年エリザベート王妃国際音楽コンクールで4位入賞を果たした阪田知樹は、今最も勢いのある若手ピアニストの1人。そんな阪田氏が、10月14日にデビュー10周年の節目となるリサイタルを開催します。

そこで今回は、リサイタルを控えた阪田氏にインタビュー。考え抜かれたプログラムの組み方や、作品一つひとつに対する想いをお聞きしました。世界が注目するピアニスト阪田知樹の音楽との向き合い方を垣間見ることができるでしょう。

プロフィール

©HIDEKI NAMAI

阪田知樹
1993年生。東京藝大附属高、東京藝大を経て、ハノーファー音楽演劇大学にて修士修了。現在は同大学院ソリスト課程に在籍。2014年にアニメ「四月は君の嘘」のモデル演奏を担当、2015年にはCDデビューを果たす。翌年にフランツ・リスト国際ピアノコンクールで第1位と6つの特別賞を受賞。2018年には、ドイツの名門ライプツィヒ・ゲヴァントハウスにてリサイタルデビューを果たす。2021年エリザベート王妃国際音楽コンクール4位。国内外でのテレビ・ラジオ等のメディア出演も多い。

デビュー10周年のリサイタルは特別

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ーまずは、今年のエリザベート王妃国際コンクール4位入賞後の反響を教えてください。

ピアノ界では世界的に非常に大事な位置付けのコンクールということもあって、世界中の友人だったり先生だったりと、さまざまな方からメッセージを頂きました。演奏会のお声かけなどもあり、私自身もこのコンクールのことは昔からよく知っていたので、そういった意味で広く反響があったのかなと個人的に感じております。

ーそんな中で迎える今回のリサイタルについて、抱負などありましたらお聞かせください。

今年2021年というのが私にとって丁度デビュー10周年にあたるので、それに合わせて今回サントリーホールという日本でも特別なホールで初めてリサイタルをさせて頂くことになりました。

本当に特別なコンサートなんですが、今回はプログラムの中でリストの「ソナタ」と「リゴレットパラフレーズ」があり、この2曲はエリザベート王妃国際音楽コンクールで実際に演奏した曲です。そういう意味では自分のモチベーションもすごく高くありますし、たくさんの方と時間を共有できたらなという風に思っています。

サントリーホールならではの響きに期待

サントリーホール

ーサントリーホールは日本の中でも特別ということですが、阪田さん自身はこのホールについてどんなイメージをお持ちですか?

サントリーホールでは、オーケストラとのピアノコンチェルトの後にアンコールとしてピアノソロ曲を演奏することはもちろんありましたけど、ピアノ一台だけ舞台にドンって置いてソロのリサイタルを演奏することはこれまでなかったので、今回が初めてになります。

響きは非常に豊かなイメージがありますが、自分が演奏で伺うときはオーケストラとのピアノ協奏曲がメインなので、オーケストラとのバランスを考えたりすることが多いです。

ーソロでの演奏は初めてなんですね。ソロで演奏する上で、どのようなことを意識したいと思っていますか?

ホールも楽器の一部なので、なんというか自分が楽器から出していく音とホールの中での響きをどういう風に響かせていけるのか、楽器をどのように鳴らしていけるのかということが今からすごく楽しみです。

リストの「ソナタ」にしてもシューマンの「幻想曲」にしても、強音がたくさん出てくる迫力のある作品ではありますが、弱音が美しい楽曲でもあるので、それがどういう風に会場に届くかというのを今からいろいろと考えていきたいですし、1つの見どころになるのかなと思います。

阪田知樹ピアノ・リサイタル2020【ダイジェスト】

緻密に作り上げられたプログラムは「幻想曲」がテーマ

ー今回のプログラムはリストやシューマンなど素晴らしい作品ばかりですが、どのようにプログラミングされたのか教えて下さい。

今年の秋からのシーズンは、テーマとして「幻想曲」にまつわるものでプログラムを組んでいます。今回10/14のコンサートもこのテーマに則っているんですが、他のコンサート会場でやるプログラムとはちょっと違って、このコンサートでしか聞けないプログラムになっています。

ー幻想曲がテーマになっているんですね。具体的にはどのように選曲されたのでしょうか?

具体的にお話すると、ベートーヴェンのソナタ「月光」には、ベートーヴェン自身は「月光」という名前はつけていなくて、「幻想曲風ソナタ」と名付けていました。そういうこともあり、1楽章と2楽章はいわゆる「ソナタ」という要素とは離れた楽曲になっています。

3楽章でようやくその要素が見えてくるという非常に特殊な楽曲で、こういう「幻想曲」の要素を含んだ「ソナタ」もあるんだよということで取り上げました。

また、昔「四月は君の嘘」というアニメでピアノ演奏を担当したときに演奏した曲でもあり、この作品には別の思い入れもあります。

ー「4月は君の噓」は山崎賢人さんと広瀬すずさんのW主演で映画化されたこともあり、とても人気があります。阪田さんは、この作品のアニメ版と映画版の両方のモデル演奏を担当されたんですよね。

その時は3楽章だけだったのですが、演奏担当していたこともあって、私にとって「月光ソナタ」に
は特別な意味があり、選曲させて頂きました。

ーシューマンは分かりやすくタイトルに「幻想曲」とありますが、それ以外にプログラムに組み込んだ理由はあるのでしょうか?

実はこの作品、シューマンがベートーヴェン記念碑の建立にあたって寄附を目的として作曲した曲で、元々はソナタとして構想していたのですが、作曲していく中で結果的に「幻想曲」に落ち着いたのだと言われています。

そういった意味ではベートーヴェンへのオマージュといえて、ベートーヴェンとのリンクがありますよね。そして幻想曲というタイトルがついていますが、元々「ソナタ」を想定して書いているのもあって、1曲目のベートーヴェン「幻想曲風ソナタ」、続いてシューマン「(ソナタ風の)幻想曲」という点でも結びつきがあるので今回のプログラムに加えました。

ー作曲家同士の結びつきも考えてらっしゃるんですね。リストのソナタについてはどうでしょうか?

リストの「ソナタ」は、名前も本当に「ソナタ」なんですけど、色々な場面が順番に出てきて、どの場面もそれぞれ全く異なる印象を与える曲だと感じています。聞いている側としてはあたかも「幻想曲」のような曲を聞いているように思いますし、実際に彼はそれを念頭に置いて書いたと僕は思うんです。

ーリストが幻想曲を念頭に置いていると感じるポイントを、具体的に教えてください。

リストの「ソナタ」は、他のソナタではなかなか感じられないほど感情の起伏が激しく、同じメロディーを使っていても全く違うものに聞こえるような変化や表現になっていて、場面の切り替えが凄く激しい作品です。これらは「幻想曲」といわれる類の曲に見られる傾向なので、そういう要素を持ち込んだのかなと個人的に感じております。

ーなるほど。ソナタとして書かれているものの、感情の起伏や場面の切り替えの激しさが幻想曲を思わせるということですね。

そういった意味もあって、「ソナタ」でありながらも幻想曲的な要素を持っているという特別な作品です。あとはベートーヴェンとシューマンのように、シューマンとリストのつながりも選曲理由の一つです。シューマンが「幻想曲」をリストに献呈しているのに対して、リストは「ピアノソナタ」をシューマンに献呈しているのです。相互の矢印があることによってリンクが出てくるのかなと思います。

ーそして、リストのリゴレットパラフレーズを最後の曲として選曲されていますが、これにも意味があるのでしょうか?

今回はベートーヴェン、シューマン、リストと、どれも比較的スタンダードというか硬派な作品が並んだ中で、最後にお客様に肩の力を抜いて気楽に楽しんでもらえたらなと、デザートのような感じで置かせて頂きました。加えてリゴレットパラフレーズは、オペラのファンタジーに含まれるタイプの作品だということも選曲理由の一つですね。

「幻想曲」という名前で書かれた曲はバッハの時代からいろいろあるのですが、構成とかアイデアはけっこう違っています。リストが若い頃にには、オペラからの有名な旋律とかをメドレーのように繋げて、オペラによるファンタジー(=幻想曲)と呼んでいる作品がかなり多かったんですね。

このような作品は、重要な娯楽であったオペラの曲に超絶技巧などの名人芸を加えてエンターテインメント性を持たせたもので、現代に置き換えるとすごく人気だった映画のCDのサントラのような感じです。

今回の「リゴレット」に関しては、オペラからある特定の一部分のみを抽出して書いているので所謂オペラ・ファンタジーではないのですが、広義ではこのようなオペラによるファンタジーに含まれます。
それに、後半2曲はエリザベート王妃国際音楽コンクールで演奏した曲でもあります。「リゴレットパラフレーズ」はコンクールを終えて今回ここでしか聞くことができません!(笑)

ーいろいろな要素を踏まえてプログラムを組んでいらっしゃるんですね。今回に限らず、プログラムを考える上でいつも意識していることはあるのでしょうか?

私たち演奏家というのは、やっぱり過去の作曲家が遺した音楽を演奏することが多いので、自分が独自に何かをするというよりは、作曲家の意図を尊重して演奏するものだと思っています。

それに比べて、プログラムは唯一自分が0から組めるので、ある種の創造性が入ってくると思いますし、自分のプログラムを並べることによって自分が何を伝えたいのかを考えられます。なので、プログラムを組むときは常に「何を伝えたいのか」を考えていますね。

ファンとの関わりも大切に

©HIDEKI NAMAI

ー「何を伝えられるのか」という視点を持つことは、人に音楽を届ける演奏家にとって非常に重要ですよね。阪田さんは普段人前でピアノを弾く演奏家として活躍されていますが、最近はYouTubeチャンネルで演奏動画を投稿されていますよね。なぜこのような活動を始めたのでしょうか?

そうですね、チャンネル自体を開設したのは結構前なんですけど、ライブ配信を実際に始めたのは2020年3月、新型コロナによる自粛生活が始まったときからです。

演奏会などでお客様に自分のことを発信する機会を失ってしまい、音楽に対して思っていることなど、演奏会ではできないようなことをフランクな形でお伝えできればと考えたきっかけです。

アンコールの前にお話する内容って、やっぱり演奏会に関連したことばかりになってしまいますが、配信だと演奏会とは離れた内容、例えば自分がどういうお菓子が好きかとか、そういうことも含めてお話したりできるので面白い機会だなと感じています。

ーYouTubeでの配信でファンの方とコミュニケーションがとれる機会が増えたと思います。このような場についてはどう感じていますか?

私は今は日本にいますが、もし違う国に行っても時間さえ調整すれば発信できるというのは、非常に有意義ですし、大きな利点でもある思うんですよね。なので、YouTubeを積極的に使っていくのはいいことなのかなと思っています。

ー世界中のどこにいても繋がれるのは素晴らしいことですよね。今後出してみたい動画などはありますか?

今は、自分で演奏した楽曲や自分が作曲した楽曲を載せているんですけども、ゆくゆくは誰かとコラボできたら面白いなと思っています。まだ現実にそれが成り立つのかはわかりませんが、そういうこともできたらとは朧げに思っています。

特別な時間をお客さんと共有したい

©HIDEKI NAMAI

ーファンの方も非常に楽しみにしていると思いますのでぜひ投稿してください!今回のリサイタルは、そんなファンの方もたくさん聴きにいらっしゃると思います。聴き所や注目してほしいポイントなどありましたら、ぜひ教えてください。

そうですね。多分私は、2016年にハンガリーでの「リストコンクール」で入賞したことで、リスト弾きというイメージがすごくついてると思うのですが、私にとってさまざまなドイツ作曲家が重要な位置にいます。

私はドイツに7年間住んでいて、オーストリアでドイツ音楽の巨匠であるバドゥラ=スコダ先生に10年間師事したこともあって、ベートーヴェン、シューマン、モーツァルトなどのドイツ音楽はとても重要な作曲家作品群です。

今回のコンサートでは、全体を通して私が向き合っている音楽がどんなものなのかを聞いて頂けたら嬉しいと思います。

ーでは最後に、聴きに来てくださる方々にメッセージをお願いします。

今回のリサイタルは10周年コンサートということで、一つの節目として私がこれまで音楽に向き合ってきて感じたことや考えたことを踏まえて演奏させて頂きます。

また、今後自分がどういう音楽家を目指すか、どういう音楽家でありたいかというのが、ようやくここ数年で見えてきた部分があるので、このコンサートは新しい歩みの第一歩でもあると思っています。

このような特別な時間を皆さんで共有できたらと思いますし、ぜひそれを聞いて確かめていただけたら嬉しいです。

インタビューを終えて

阪田氏は、演奏はもちろん選曲にもこだわりを持ち、作曲家同士の関わりや時代背景からリンクさせてプログラミングしていることが分かりました。

また、素晴らしい作品を演奏する時間をお客様と共有したいという想いを強く持っており、演奏者と聴衆が一緒に楽める空間を作り上げてくれるでしょう。

そんな彼が行う今回のリサイタル、ぜひ足を運んでくださいね。

阪田知樹ピアノリサイタル情報

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阪田知樹リサイタル詳細

日時

2021年10月14日(木)19:00

開場

18:00

終演予定

21:00

会場

サントリーホール

チケット

S席:¥4,000(夢倶楽部会員¥3,600)

A席:¥3,000(夢倶楽部会員¥2,700)

B席:¥2,000(夢倶楽部会員¥1,800)

出演

阪田知樹(ピアノ)

曲目

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op. 27-2「月光」

シューマン:幻想曲 ハ長調 Op. 17

リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178/R. 21 

リスト:「リゴレット」による演奏会用 パラフレーズ S. 434/R.267

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