合奏をしていると、指揮者や指導者に「スコアを読みなさい」と言われることがよくあります。
たしかに、楽曲を深く理解するためにスコアを読むことは有益です。しかし実際に、譜面を買ってはみたものの、どう読んでいいかわからず、ほとんど目を通さないなんてことも・・・。
そこで今回は、なかなか人に教えてもらえない「スコアリーディング」の基本を紹介していきます。「今更恥ずかしくて聞けない」「そもそもスコアリーディングって必要?」という方も必見!
スコアリーディングとは?
この場合の「スコアを読む」「スコアリーディング」とは、ただ譜面に目を通すのではなく、「楽曲を分解して理解を深める」ということになります。
しかし、ただ楽譜を眺めていても、慣れない人にとって、分解(分析)は難しいものですね。そこで、まずは前準備の作業をして「簡単に入ってくる状態」を作りましょう。
まずは「色分け」。これをすることで、見た目にも音符やフレーズの役割がクリアになります。一気に作るのは大変なので、まずは最初の10ページの色分けをやってみましょう!
【用意するもの】
マーカーか色鉛筆。
色分けをできるものであれば何でも構いませんが、長期に残る・間違えたときに消せるということで、色鉛筆を使う人が多い。
【手順①メロディを探して色をつける】
まずはメロディを演奏しているパートに色を付けていきます。
一部でもメロディに沿っているパートがあればそのセクションはすべてカラーリングするのがポイント。
どのようにメロディーパートが移り変わるのかが可視化されます。
【手順②特徴的な裏メロがあれば、別の色をつける】
メロディの他に、特徴的なフレーズが隠されている場合があります。例えば下記のカウンターメロディは、別の場所の旋律が裏に配置されたものです。
特徴的な旋律はすべてカラーリング。(※カウンターメロディが見つからなければ気にせず進みましょう。)
【手順③何度も出てくる動きを探し、色をつけていく】
①・②では色を付けなかった箇所でも、曲中によく現れる「音の形」に色を付けていきます。音ではなく、「形」を見て、似たもの同士は同じ色で、どんどん書き込んでいきましょう。
何度も出てくるアルペジオや跳躍はありませんか?
【手順④メロディ以外の動きの「バリエーション」を探す】
バリエーションとは、主旋律から少し変化した旋律です。たとえば、メロディーの1拍を2拍分にのばしていたり、逆に短縮されていたり、といったものです。
この調子で、流れや似た形のセンテンスを異なるマーカーで色分けしていきましょう。
【完成!】
どうでしょう!作ってページを見てみると、ぱっと見ただけでそれぞれのパートの役割や流れがわかるようになっていませんか?
同時に、メロディの移り変わりや曲の構成、しくみの理解も深まります。ここまでできれば、読めたも同然。
演奏で活用しよう
続いて、書き込んだパート譜とスコアを見比べて、実際に楽曲の中で、自分がどのように立ち回れば良いかを考えていきます。ここでは、ポイントをいくつか紹介しましょう。
●他のパートからひきつぐフレーズ
前後の流れを切らないように音の長さに注意して演奏します。また音量も、前の音よりやや大きめかやや小さめになることが多いので、飛び出さないようにしましょう。
●途中から伴奏に変わるフレーズ
どこからメロディに譲るのかを確認します。同じ音量で吹いていては、メロディを食ってしまいます。音量や表現がメロディを追い越さないようにしましょう。
●だんだん音符が細かくなるフレーズ
作業④のところで音の長さの伸縮を確認しましたが、だんだん音が細かくなることで勢いや盛り上がりを表現する場合があります。そのような箇所は、指示がなくても盛り上がりが必要ですし、気持ちが盛り上がるので走りがちです。気をつけましょう。
●刻みが同じ動き
同じ動きが複数ある場合は、より前にいるパートに合わせます。オーケストラでは弦楽器の弓の動きをチェックするとわかりやすいでしょう。また、自分のパートより細かい楽器の動きに合わせると、音の長さが詰まってしまったり歌いすぎてしまうこともなくなります。
●入りや、タイミングがわかりにくい部分
長い休みの後や、リズムが複雑で入りにくい場合、誰に合わせるかを考えておきましょう。いずれの楽器の後に続くのか、あるいは一緒に入るのかを確認しておけば、安心してタイミングをとることができます。
上記以外にも様々な観点がありますが、スコアを読みこんでいくと「こういう風に演奏したら良いのではないか」と発見できますので、どんどん実践してみましょう。
スコアリーディングのプラスα
上記まではできた、さらに楽曲のことを知りたい!という人は、もっと大きく、作品全体を俯瞰してみましょう。
●楽曲の形式
楽曲全体の形式は、(たとえばポピュラーミュージックでいうところのAメロ、Bメロなどの構成が)どのようなパターンになっているのかを考えてみましょう。
最も有名なソナタ形式は、古典派ソナタの第一楽章によく用いられた形式ですが、「序奏・提示部・展開部・再現部・結尾部」というパターンです。
簡単にいうと、「前奏→Aメロ・Bメロ(転調)→Cメロ→Aメロ・Bメロ→エンディング」といった具合。
それぞれの変わり目でどのように展開してゆくのか、また前の流れを踏襲して、再現部を送るのか、それとも別の形が生まれてゆくのかを見定める必要があります。
形式に関わらず、どこがメロディの切れ目で、いつ転調が入るのか、楽曲を切り分けてゆくと全体を把握しやすいでしょう。
●作品の背景
作品には「作曲された当時、楽譜に書くまでもなかったお約束」がいくつも存在します。楽曲を理解する上で、作曲された時代について調べてみると、さらに曲の理解が深まるかもしれません。
たとえばバロック時代の音楽には、跳躍を切り離して演奏するというお約束がありました。チェンバロ演奏も4本の指しか使っていなかったので、おおきな跳躍には必ず切れ目があったのです。
他にも、モーツァルトの生まれた時代までは、トリルは2度上からかけるのが常識であったり、昔、トランペットはすべての音階が出せなかったので、ティンパニと同じ、打楽器として使われていたり。
演奏の用法以外にも、たとえばソ連の厳しい体制のただ中で生まれたショスタコービッチの「革命」、アメリカに渡って故郷を想うドヴォルザークの「新世界」、ウィーンでの成功のため、当時流行りだったワルツ(華麗なる大円舞曲)を作ったショパンなど、時代背景を知ることで、楽曲に潜む感情や風景に同化することができるかもしれません。
最後に
スコアリーディングは初めこそ時間がかかりますが、慣れてくればいちいち面倒な作業をしなくても、自然と「見えて」くるものがあります。
難しく考えず、まずは自分の手を動かしてみましょう。良い演奏へのアプローチのひとつとして、あなたの力に必ずなります。
楽曲の理解と、良い演奏のために、少しずつスコアと向き合ってみてはいかがでしょう!