Amazon Prime Musicというサービス、ご存知でしょうか。知っている方も多いと思いますが、一応説明しますと、アマゾンのプライム会員・Amazoファミリー(年会費¥3,900)、あるいはAmazon Student(年会費¥1900)の特典として、膨大な音楽ライブラリーが追加料金なしで楽しめるサービスです。
私はAmazonビデオとお急ぎ便無料の恩恵こそタンマリと被っていましたが、正直いって、Prime Musicは放置状態でした。「所詮、おまけだろ。クラシック音楽もどうせベスト盤ばっかり。ふん。」とタカをくくっていたのです。そして、自分のバカを思い知ります。バーンスタイン&ウィーンフィルのあの名全集が、買うと未だ1万近くするアバド第一回目のマーラーの交響曲全集が、シフのモーツァルトピアノ協奏曲全集が、出たばっかりのマゼール&フィルハーモニアのマーラーが…「あの演奏が、全集で聴けちゃうんですね〜、いや〜たまげた」と、あえなくAmazon河に溺れたわけでございます。Amazonの企業理念は「地球上で最もお客様を大切にする企業なんだそうですが、こんなクサイ美辞麗句にコロッといきそうになるくらい、感動しました。「これからは、もうCDを買わなくてもいいんだ!」とも思いましたが、不思議とCDは増えるばかり。悲しきクラオタの宿命です。
しかし、私のようにAmazon Prime Musicでクラシック音楽を楽しむ人はどれだけいるのでしょうか。試しに「アマゾン プライム クラシック おすすめ」とググってもあんまりヒットしません。どうやら「Prime? 所詮、おまけだろ」と思っているクラシック・リスナーもまだまだ多いようです。
というわけで、膨大なAmazon Prime Musicのライブラリーから、「これは」と思う3つのアルバムを選んでみました。ベートーヴェン、モーツァルト、ベートーヴェンと随分平凡なチョイスになりましたが、どれも演奏は折り紙付き。アマゾンの回し者みたいなことばかり書いていますが、ご寛恕をお願いいたします。あいにくアマゾンからは、びた一銭もらっていませんのでね…
(ここに紹介される楽曲は2017年5月中旬時点でPrime Musicに収録されているものです。時期によっては、Prime Music対象外である可能性があります。)

①高度成長の野心溢れる、日本のベートーヴェン

ベートーヴェン:交響曲全集
岩城宏之(指揮)NHK交響楽団 録音1968年
https://www.amazon.co.jp/dp/B000GI3X8W/

Amazon Primeにはベートーヴェンの交響曲全集は数多あり、それこそカラヤン&ベルリンフィル、バーンスタイン&ウィーンフィル、アーノンクール&ヨーロッパ室内管弦楽団などなど、錚々たる名盤群を楽しむことができます。
そのなかから、あえてオススメしたいのが、岩城宏之&N響の演奏。録音は1968年と実に50年近くも前。入手も困難な全集です。
しかし、演奏は素晴らしく、まさに隠れた名盤といえる内容です。カラヤンに師事し名エッセイストでも知られる、岩城宏之の音楽作りはなかなかに現代的。とくに第三番や第五番(運命)の勢い、第六番(田園)の構成力には驚かされます。当時のN 響は技術的に「うまい」というわけではありません。しかし、大健闘しています。「俺たちの音楽を作るんだ」という熱さがあります。今の「うまく」なったN響からは聴かれない、味わいがあります。
50年前、高度成長の湧く日本で、どのようなベートーヴェンが奏でられていたのか、そのことを知るドキュメントとしても一聴に値する名盤です。

②不世出の巨匠が残した最高のモーツァルト

モーツァルト:レクイエム
ニコラウス・アーノンクール(指揮)ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
アルノルト・シェーンベルク合唱団 録音:2003年
https://www.amazon.co.jp/dp/B01L5WLSEI

Amazon Primeには、新しめの録音も結構な数が収録されています。2016年に亡くなった古楽界の風雲児ニコラウス・アーノンクールの名盤、モツレクことモーツァルトのレクイエムの新録も聴けてしまいます。
アーノンクールという指揮者は昔から刺激的な指揮をする人で、覚悟して聴かないと「ヤバイ」以外の感想しか出ないような音楽作りをします。若い時の演奏は尖りっぷりは、もはやロックンロール。しかし、年齢を重ねるに連れ、あるいは聞き手の耳が慣れるにつれ、先鋭な表現はそのままに、円熟味も出てきたように感じます。その円熟味がいい感じに出たのが、この2003年のモツレクです。
演奏は、古楽らしい透き通った弦に、明晰な金管、各楽器が自己主張しながらも全体の和が保たれた、理想的な名演。カラヤン、ベームのような重厚な演奏では埋もれてしまいがちな、細かい音もしっかり自己主張しているのが特徴です。そして合唱がうまい。モーツァルトが死を賭して書いた音符を、アーノンクールの鋭い彫刻刀が一音一音浮き彫りにしていくような、創造的なエキサイトメントがたまりません。

③「完璧」といわれた男の、40年にわたる求道の軌跡

ベートーヴェン:ピアノソナタ全集
マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ) 録音 1975~2014年
https://www.amazon.co.jp/dp/B00OZDHPBK/

いやはやこれが聴けるのか…とおもわず呟く、ポリーニによるベートーヴェン全集。ポリーニが40年近くかけてコツコツと録音してきた、ベートーヴェンのソナタ全集が完成したのは、2014年のこと。それがもうAmazon Primeで聴けてしまいます。
この全集は演奏年代や演奏場所にバラツキがあるのが特徴で、ポリーニの芸術家としての足跡を辿ることができます。1975年に最初に録音された第30番・第31番は昔から有名な演奏ですが、比較的最近録音された、初期・中期ソナタの演奏が聴けるのがAmazon Primeの嬉しいところ。ベートーヴェンのピアノソナタというと、最後の3つに注目が集まり、初期・中期のソナタは有名どころを除いてあまり聴かれないのですが、Amazon Primeなら気軽に初期・中期ソナタも楽しめます。
ポリーニというと、若い時の鋼鉄のヴィルトゥオージティのイメージが強いですが、私などは、いい感じに年老いて、鼻歌を歌うようになる2000年代後半以降のポリーニが好みです。「ポリーニは衰えた」とは一蹴できない「passion」があると思います。ためしに、2007年録音のソナタ1番を聴いてみてください。「これ以上、何をお望みですか」といわれ、若くして技術の高みに達してしまったポリーニが、その技術を失うなかで、どうベートーヴェンと向き合ったのか。このベートーヴェンのソナタ全集は、ポリーニという芸術家の求道の40年の記録でもあります。
なお、Amazon Primeで聴けるベートーヴェンのソナタ全集には他にもたくさんあり、ケンプ(モノラル)、バックハウス(ステレオ)、アシュケナージ、ブレンデル、アラウなど、世評の高い名盤たちが名を連ねています。恐ろしい…

(やっぱり私、アマゾンの回し者みたいになってしまったので、最後にあえて苦言を。アマゾンさん、音質がイマイチです。)