ピアノを演奏するにあたって、避けて通れないのが音の問題。とくにマンション等の集合住宅にお住まいの方は近隣への迷惑とならないか心配ですよね。また、夜間に練習をしたいという声も多く耳にします。
こういった場合、防音室を利用することが一番ではありますが、防音工事は費用も高く手間もか掛かるため簡単ではありません。

そこで今回は、ピアノの音の伝わり方と、それに対する防音対策について詳しくご説明していきます。

ピアノはどういった音の伝わり方をしているの?
消音ユニットの効果は?
簡単にできる防音対策は?

これらの疑問を解決したい方は、ぜひ最後まで読んでくださいね。

案内人

  • おばたおりえピアノ調律師。大阪府出身。
    大学卒業後、専門学校にて調律・修理・整調・塗装・オーバーホールを学ぶ。
    卒業後、ピアノ調律会社にて工房勤務経験を経て現在フリーの調律師として活動中。

    詳しくはこちら

ピアノの音は案外大きい!【防音・消音は必須】

ピアノの音は一般的に80db〜90db程度と言われています。これは地下鉄の騒音やゲームセンターの店内に匹敵する音量であり、「うるさい」又は「きわめてうるさい」と感じる騒音レベルに該当してしまうのです。

環境省が掲げる基準では、一般的な住宅地で昼間は55dbまで、夜間は45dbまでの環境を保つことが望ましいとされています。よって、近隣住民とのトラブルを避けるため、ピアノ演奏に防音対策は必須であることを理解しておきましょう。

ピアノの音の伝わり方

ピアノの音の伝わり方には2種類あります。1つは空気を通じて届く伝わり方、もう1つは壁や床などの物体を介して届く伝わり方です。以下で詳しく説明します。

①空気を通じて届く

人の話し声や管楽器の音など、空気を通じて届く音を「空気伝播音」と言います。音の発生源から距離があるほど、音量レベルは小さくなります。壁や床などの遮蔽物によって防音対策ができる部分です。

②壁や床などを通じて届く

トラックが通った時の振動音や上の階の足音など、壁や床・天井などを通じて届く音を「固体伝播音」と言います。
ピアノは床に接する部分が多く、また響板が壁や床に向かって音を発することから固体伝播音として伝わりやすい楽器です。
固体伝播音は空気伝播音に比べて届く速度が早く、減衰しにくいという特徴を持つため、集合住宅にお住まいの方は特に対策をする必要があります。

窓からの音漏れには特に注意!

騒音対策として窓が重要であるということをご存じでしょうか?窓は外壁と比較すると薄く、音を通してしまいます。それだけでなく、サッシには窓の開閉をスムーズにするための隙間があるため、そこから音が漏れてしまうのです。
演奏時に窓を閉めることはもちろんですが、窓自体の防音対策を考えることも必要となります。

ピアノの防音・消音におすすめの方法

では、ピアノはどういった方法で防音対策をするのが良いのでしょうか?ここからは具体的な防音・消音方法をご紹介します。

弱音ペダル(マフラー)を使用する

一番簡単な方法が、ピアノに取り付けられている弱音ペダル(マフラー)を使用することです。仕組みとしては、弦とハンマーの間にフェルトを挟み、打鍵によって発生する音を小さくするというものです。
ある程度音量を下げることができますが、フェルトを挟むことによって非常にタッチが悪く感じたり、音がこもって聞こえるため長時間の練習には向いていません。一時的に音量を下げたい場合に使用すると良いでしょう。

消音ユニット

出典:ヤマハ|SILENT Piano™ (サイレントピアノ)

消音ユニットとは、アコースティックピアノに取り付ける消音装置のこと。取り付けることによってピアノの音を鳴らさずヘッドフォンをつけて演奏することが可能です。
最初から消音ユニットを搭載して販売しているピアノもありますし、購入後のピアノに取り付けることも可能です。
代表的なものとして、ヤマハのサイレントピアノ、カワイのエニタイム、KORGのハイブリッドピアノなどがあります。

消音ユニットの価格帯

消音ユニットの価格はメーカーによって異なります。金額帯はアップライトピアノで10〜20万円程度、グランドピアノで20〜30万円程度です。後付けの場合、別途取り付け費が4〜6万円程度掛かります。

消音ユニットのメリット

①夜間や早朝など音を出せない時間帯にも練習ができる

中高生など帰宅時間が遅いお子様や、仕事のある大人の方は、日常生活のなかで練習時間を確保するのは難しいもの。しかし、消音ユニットがあれば時間を気にせず練習ができます。

②電源OFFでアコースティックピアノとして問題なく演奏できる

ワンタッチで生ピアノとしても、電子ピアノとしても使用できるので、電子ピアノを新たに買い増すよりコスパが良いです。お部屋のスペースも取りません。

③演奏の録音やメトロノーム、エフェクトなど電子ピアノのような機能が利用できる

メーカーによって付属している機能は異なりますが、録音機能などの通常のピアノにはない便利な機能が付いていることが多いです。

④鍵盤のタッチがほとんど変わらない

消音ユニットを後付けする際はそれに合わせて内部の部品調整を行う必要があるので、鍵盤のタッチや弾き心地にわずかに影響がありますが、電子ピアノや弱音ペダル使用時と比べると遥かに良いタッチでの演奏が可能です。

消音ユニットのデメリット

①弦を叩いた音は出ないが、打鍵音(ゴトゴトという音)は消せない

一般的な消音ユニットの仕組みとして、鍵盤下にあるセンサーが反応して電子音を出すのですが、鍵盤を押すと他の部品も一緒に動くことになります。そこで、音を出さないようにするには部品にハンマーの軸を当てて弦に触れる前に動きを止める必要があるため、その際に音が発生してしまいます。
そのため、深夜の寝静まった時間帯など、ピアノの設置場所によっては家族の迷惑になる可能性があります。音が気になる程度は個人差があるため、消音ユニットの取り付けを検討する場合、まずはピアノ販売店で実際に試奏して確認してみましょう。

②電子部品のため寿命がある

消音ユニットはテレビやパソコンなどが経年劣化によって壊れてしまうのと同様、電子機器のためピアノ本体よりも早く寿命を迎えます。長い年月の使用となれば必ず修理や交換が必要になることを覚えておきましょう。

③全てのピアノに取り付けできるわけではない

消音ユニットは後付けが可能ですが、一部取り付けができない機種もあります。特に背の小さいピアノには取り付けが難しいケースがあります。現在お手持ちのピアノがある場合は、取り付け可能機種かどうか、取り扱いメーカーや調律師に確認が必要です。

④共鳴による雑音が発生しやすい

音を鳴らすと、その音に共鳴した物体が振動してピリピリとした雑音が発生することがあります。ガラス戸や緩んだネジなどで多く見られる現象ですが、これが消音ユニットを取り付けることによって起こる場合があります。

部屋のリフォームや防音工事などを行うことなく効果の高い防音対策ができる消音ユニット。メリットとデメリットを理解した上で用途に合わせて検討して下さい。

インシュレーター

通常、ピアノ購入時にはプラスチックのものが付属していますが、防音対策に使用できるゴム製の防音・防振インシュレーターがあります。

防音・防振インシュレーターは分厚いゴムで出来ており、中に空気層を作ることで床に伝わる振動を抑えるため防音効果が期待できます。
また、床の傷防止や地震の際に脱輪や横滑りを抑えてくれる効果もあるため、地震対策としてもおすすめです。

防音カーテン

比較的手軽に行える窓部分の防音対策として、防音カーテンがあります。

防音カーテンは特殊な生地や製法で作られており、音を吸収する効果(吸音)と遮断する効果(遮音)があります。中〜高音域の音に対して効果を発揮するため、ピアノの防音には最適と言えます。
ただし、あくまで空気中の音に対してのみ効果を発揮するものですので、固体伝播音には効果がありません。

内窓(二重窓)

窓の防音対策として一番効果が高いと言われているのが「内窓をつける」ことです。
今あるサッシや窓はそのままに、内側に気密性の高い二重窓をつけることによって、外側の窓と内側の窓の間にできた空気の層がクッションのような役割を果たし、外に漏れる音を抑えます。
今ある窓に手を加えることなく対策ができるので、施工時間も30分〜1時間程度で取り付け可能です。窓のサイズや数によって数万〜数十万円と高い費用がかかりますが、より効果の高い防音対策をお考えで予算が取れる方は検討してみてはいかがでしょうか。

防音ボード・パネル・シート

壁の防音は大掛かりな工事が必要で大変に思われがちですが、実はそうでもないのです。壁に後付けできるタイプの防音ボードやパネル、遮音シートなどを利用して対策することができちゃいます。
ワンタッチ防音壁

壁の防音に使われる素材は、音を遮断する遮音効果を持つものと、反響を抑える吸音効果を持つものがあります。素材によってどういった効果が期待できるかは変わるため、どちらの効果も併せ持った商品を選ぶと良いでしょう。

ピアノボード・防音マット

出典:イトマサ ピアノボード&ペダルボード

床の防音対策には、防音インシュレーターと併用して防音・防振効果のあるピアノボードや防音マットを使用するのがおすすめです。

ピアノの下に防音素材のボードやマットを敷くことで、音を遮り床に伝う振動を抑えることができます。また、部屋全体にカーペットや絨毯を敷くことで吸音効果が期待できます。防音マットを選ぶ際は、遮音等級の高いものを選ぶと良いでしょう。

まとめ

大掛かりな防音工事を行わずとも出来る防音対策はたくさんあります。調律師や販売楽器店にご相談いただければ、状況に合わせた対策のご提案も可能です。ピアノの音と上手に付き合って素敵なピアノライフを送ってくださいね。