ピアノを練習していると、必ず出てくるアルペジオ。「指を大きく広げながら、リズムよく弾くのが難しい」と感じる方は少なくありません。

この奏法は上達における一つの関門であり、同時に重要な基礎練習にもなります。マスターすれば楽曲の理解を早められますし、曲のバリエーションが一気に広がるなど良いことづくめ。

そんなアルペジオについて、音楽的な効果や練習方法などを音楽スクールのピアノ講師であった筆者が解説していきます。

案内人

  • 海老野みほ4歳からエレクトーンを始め、高校生の時にピアノに転向。
    音楽系専門学校に進学し、クラシック・ジャズ・POPs・作曲・アレンジなど、様々なジャンルの知識を身につけながら演奏活動を行う。
    2011年から都内の音楽スクールのピアノ講師として勤務。

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アルペジオとは?

アルペジオとは、和音(コード)の構成音を、1音ずつタイミングをずらして弾く演奏方法のこと。クラシックの世界では、和音を下から上、もしくは上から下へ波打つように弾く奏法を指します。例えば、以下の動画のような感じです。

ピアノのアルペジオの効果

「なぜアルペジオが曲中で使われるのか」
「アルペジオを使うメリットは何なのか」

実際に練習を始める前に、ピアノ演奏におけるアルペジオの効果を考えてみましょう。

幅広い音域で和音の演奏ができる

ピアノで普通に和音を弾こうとすると、だいたいの人は1オクターブの中で押さえるのが限界です。しかし、アルペジオにすると1つずつ指を離して弾けるため、1オクターブを超えた和音を奏でられるようになります。

これにより幅広い音域の音を出せる分、演奏に深みを持たせられるのです。

横の流れを表現する

テンポに合わせて一定間隔で音を繋いでいくという伴奏形により、アルペジオを混ぜると曲に流れるような印象を与えることができます。

流れるような印象というのは、要するにリズム感です。ただ和音をダーンと弾くだけでは、どうしても細かいリズムの表現ができません。しかしアルペジオを使えば、こういった表現を多彩にできるようになるわけです。

指先コントロールテクニックの練習ができる

アルペジオを繰り返し演奏することで、指1本ずつの独立した動きや、タッチのコントロール力を高められます。

これにより演奏表現に幅が出て、楽曲の表情をより豊かに彩ることができるのです。

ピアノのアルペジオ記号は楽譜上でどう表される?

アルペジオが楽譜でどのように書かれているか、実際の楽譜をみてみましょう。

クラシックの中で出てくるアルペジオ

月の光(C.ドビュッシー)より抜粋

音符の横にある「波線」がアルペジオの記号です。下矢印が書かれている場合は「上から下」へ、何も書かれていなければ「下から上」に、弾くタイミングをずらして演奏します。

伴奏などで使われるアルペジオ

人形の夢と目覚め(T.オースティン)より抜粋

左手の部分がアルペジオになっています。この形以外にも、和音(コード)の構成音を一つずつ演奏する形を、すべてアルペジオと呼んでいます。

簡単に弾けるピアノアルペジオのフレーズパターン例

アルペジオの練習では、指を慣らすために、簡単で弾きやすい曲からはじめるのがおすすめです。ここからは、初めてのアルペジオ練習に最適な曲を紹介します。

童謡の伴奏

【きらきら星】
この曲だけでなく、みなさんがよく知っている童謡の伴奏にはアルペジオがよく使われます。簡単な指運びのものが多いため、気軽に練習できますよ。

クラシックの名曲に使われるアルペジオ

【ベートーベンの代表曲『月光』】
冒頭から曲の終わりまで続く、流れるようなアルペジオが印象的です。シャープが4つの曲(=黒鍵も使う)ですが、冒頭の部分は簡単なので、ぜひチャレンジしてみてください。

ピアノアルペジオの弾き方のコツ

アルペジオを弾く際に指をスムーズに動かせなかったり、鍵盤を間違えて押してしまったりして、難しいと感じる方も多いはず。

そんな方にぜひ見ていただきたい、アルペジオを上手く弾くコツをお教えします。

指を和音の形にしておく

ミスタッチなくアルペジオを弾くには、事前の準備が重要です。

例えば、このようなアルペジオの場合。

まずは、どの音が出てくるか把握しましょう。上の楽譜ではド・ファ・ラの音ですね。
それが分かったら、ド・ファ・ラのすべての鍵盤に指を置いておきます。この時、どの指でどこの鍵盤を弾くか、しっかり決めておくのがコツです。

右手で弾く場合「ド ⇨ 親指」「ファ ⇨ 中指」「ラ ⇨ 小指」と指を置いてから楽譜通りに弾いてみると……ミスタッチをすることなく確実に弾けますね!

このような準備をしておくと、一つずつ鍵盤を探して指をセットするという動作が不必要になり、余裕をもってアルペジオが弾けるようになります。

指の動かし方

キレイなアルペジオのポイントは、

  1. 音一つずつのタイミングがテンポに合っていること
  2. 音一つずつの長さや音量が不自然になっていないこと

この2つです。そして、これらをクリアするのに必要なのが、指1本1本のコントロール。

人間の手の構造上、どうしても親指・人差し指・中指は力が強く、薬指・小指は弱くなってしまいます。本来の力がバラバラな指たちを上手くコントロールするには、反復練習が一番の近道です。最初は焦らず、ゆっくりのテンポから練習していきましょう。

ピアノアルペジオの練習方法

アルペジオはいろいろな曲で使われるため、日常の基礎練習の中でアルペジオ練習を取り入れると、上達をより早められます。難しいメニューは続かなくなってしまうので、下のような簡単なことを毎日3~5分ずつ続けてみましょう。

アルペジオ練習のポイント

アルペジオ練習で大事なのが「脱力」です。

薬指や小指など、動きにくい指には特に力が入ってしまいがちです。意識的にリラックスしながら、余裕のあるテンポで練習しましょう。また、メトロノームで一定のテンポを維持するのもおすすめです。

1オクターブのアルペジオ練習

基本形として、1オクターブのアルペジオを練習してみましょう。

ド・ミ・ソの位置に指を置き、一定のリズムで弾いていきます。前述のとおり脱力し、手首を柔軟に動かすのがコツです。

はじめから完璧にこなす必要はありません。ミスして音が飛び出したりするかもしれませんが、そのときには演奏を中断し、落ち着いて弾き直してください。

1オクターブ以上のアルペジオ練習

1オクターブに慣れたら、1オクターブ以上のアルペジオに挑戦してみましょう。

1オクターブ以上を弾くには「指くぐり」という動作が必要になります。親指をほかの指の下へくぐらせながら動かすことですね。くぐらせた指が鍵盤をしっかり捉えられるよう意識するのがポイント。

慣れてきたら、テンポを早めたり、他の調の和音でも練習してみたりしてみてください。

ピアノアルペジオのおすすめ練習曲

アルペジオは練習すればするだけ、指の動きがスムーズになり、演奏テクニックの向上につながります。
そこで次に、「アルペジオといえばコレ!」という3曲を紹介します。

ピアノソナタ ハ長調 K.545 第1楽章 (W.A.モーツァルト)

【ピアノ楽譜ソロ】ピアノソナタ ハ長調 K.545 第1楽章

モーツアルトといえばこの曲。左手の軽快なアルペジオではじまる冒頭は特に有名ですね。

アルペジオとスケールを巧みに使いながら曲が進行していくため、いろいろなテクニックが学べます。

平均律クラヴィーア曲集 第1巻 プレリュード第1番 ハ長調(J.S.バッハ)

【ピアノ楽譜ソロ】平均律クラヴィーア曲集 第1巻 プレリュード第1番 ハ長調

両手でアルペジオを演奏していくこの曲。和音の移り変わりを響きで感じながら練習するのが上達のコツです。

美女と野獣

【ピアノ楽譜ソロ】美女と野獣(Alan Menken)

ディズニー映画の中でも大人気なバラード曲。ゆったりとしたテンポで、アルペジオの優しい響きを堪能できる、ピアノ初心者の方にオススメの一曲です。

ピアノアルペジオの練習におすすめの教材やアプリ

「曲だけの練習では上手くいかない」と感じている方には、以下の教材とアプリ がおすすめです。

全訳ハノンピアノ教本(全音楽譜出版社)


多くのプロ演奏家も愛用しているぐらい、初心者から上級者まで幅広く使える教本です。アルペジオに必要な指先のコントロール力を、しっかり・たっぷり練習できます。

おとなのハノン(ドレミ楽譜出版社)

ピアノ初心者の方はこちらの教本もオススメ。楽譜が大きく、ピアノを始めたばかりの方でも無理なく練習できるようにアレンジされています。

flowkey(フローキー)

ピアノ練習アプリflowkey

flowkey」は、独学でピアノを練習したい方のために作られたアプリです。

1,000曲以上の楽譜が入っていて、楽譜と手元のお手本動画を同時に見ながら練習できます。鍵盤の位置や指使いも確認でき、間違えた弾き方がクセ付くという独学にありがちな失敗を防げるのもポイント。

レッスンも用意されており、初めてピアノに触れるところから、即興演奏や音楽理論といった上級者向けの内容まで、幅広く豊富なカリキュラムが特徴です。

有料プランでも1ヶ月1,066円からというコスパも魅力。7日間の無料トライアルができるので、気になる方はぜひ使ってみてください。

まとめ

アルペジオは定番の伴奏方法で、クラシック曲はもちろん童謡、弾き語り、ジャズなどさまざまなジャンルで登場します。ピアノを弾く方は、必ずマスターしておきたいですね。

上手く弾くためのコツは、自然に指が動かせるよう力を抜くこと、そして練習を重ねることです。日々の反復が求められるので、気楽にできる方法やお気に入りの一曲を見つけて、じっくり練習してみてください。