ピアノ演奏を楽しむ方の多くが、一度は悩むであろう「左手を使うことの難しさ」。左右の手でスラスラ弾ける人はカッコよく映りますし、自分もそうなりたいと思いますよね。でも、いざやろうとすると上手くいかず、かえってストレスになることも……。

これを克服するには、つまずく原因を知った上で、効果的な練習法を取り入れることが重要です。

そこで本記事では、左手の苦手意識を取り除くための方法を解説していきます。日々の練習の参考にしてみてください。

案内人

  • 古川友理名古屋芸術大学卒業。
    4歳よりピアノを始め、伊藤京子、深谷直仁、奥村真の各氏に師事。
    地元愛知県三河地方を中心に器楽、声楽、合唱伴奏者として活動する傍ら、島村楽器音楽教室等でピアノ講師として勤める。

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ピアノにおける右手と左手の役割

ピアノ演奏における右手と左手それぞれ役割は、作品のスタイルやピアノパートの働きによって異なります。ここでは「ピアノソロ」「ピアノ伴奏」それぞれの演奏時について考えてみましょう。

ピアノソロの場合

「右手はメインのメロディー、左手はハーモニーを作る伴奏」

一般的にイメージされるこの弾き方、ポップスのピアノ楽譜であれば多くが当てはまりますが、クラシックの場合は少し異なります。

クラシックのピアノ作品において上記のスタイルが確立したのは、モーツァルトやベートーヴェンらが生きた古典派の時代。それ以前の、バッハが活躍したバロック時代までにはメロディー+伴奏という概念がなく、メロディーが何層にも重なり合う「ポリフォニー」と呼ばれるスタイルが主流でした。

つまり、古い時代の作品では、右手も左手も同様にメロディーを奏でていたのです。

このように、ピアノソロの演奏では、曲のジャンルや作曲された時代によって左右の手の関係性が変わります。もちろん、古典派以降の作品の中にも「右手がメロディー、左手が伴奏」の概念に当てはまらない作品は多数あるため、結局は曲ごとに考えることが大切です。

ピアノ伴奏の場合

合唱や合奏の伴奏、弾き歌いのピアノパートなどでは、左右どちらの手も、主役の歌や楽器のメロディーを支えることに徹します。なお、細かい役回りは以下のようなパターンに分けられます。

①右手:和音/左手:ベース
②右手:フレーズ(メロディーのハモリ)/左手:和音
③右手:フレーズ/左手:ベース
etc.

基本的に、左手が曲を支える低音を響かせながらテンポを刻み、リズムやハーモニーを担う右手がその上に重なります。

左手の演奏でありがちな難しさ

左右の手の役割を把握していても、実際に弾くとなると難しいですよね。それはなぜなのか?大きく分けて3つのタイプが存在します。それぞれ見ていきましょう。

右手につられてしまう

1つめは、左手が右手につられてしまうこと。

伸ばす音なのに次の音を弾いてしまったり、リズムを一定で刻むべきなのに右手のメロディーと同じリズムになってしまったり……。これらは、片手で音やリズムを捉えられていない段階で、両手を無理に合わせようとすることで起きやすくなります。

左右の手で弾くのは、片手で確実に弾けるようになってからです。まずは1小節、2小節、そしてフレーズ単位へと、少しずつ演奏の範囲を広げながらじっくり練習しましょう。

そもそも左手が動かせない

2つめは、そもそも左手が動かせないこと。特にはじめたての頃だと、1小節弾くのにも苦労すると思います。

しかし、利き手でない方をうまく動かせないのは当然です。はじめから右手と同じように弾ける人など、まあいません。

ですので、根気強く練習することが肝要です。まずは左手パートが簡単な楽譜に挑戦しましょう。初級の楽譜は、左手の負担が少なくなるようアレンジされているものがほとんどです。

片手ずつなら弾けるのに……

3つめは、片手ずつなら弾けるのに、両手だとうまくいかないこと。

これは多くの場合、脳の処理が追いついていないために起こります。よって、脳を慣れさせるために、まずは数小節だけに減らしたりテンポを落としたりしながら、焦らず1音1音合わせていきましょう。

左手は練習すれば誰でも上達する!

「左手をうまく動かせないから、私にはピアノのセンスがないかも……」

壁にぶつかったとしても、このように思う必要はまったくありません。継続的に練習すれば、誰でも上達は可能です。

多くの方が、左手を意識的に動かす経験を積んでいないだけです。今苦手意識を持っているあなたも、地道に練習を重ねていけば大丈夫。

両手で自由に演奏を楽しめるよう、左手にフォーカスした練習を日々のメニューにプラスしてみませんか?次章から、具体的な練習方法を解説していきます。

左手の練習方法:①基本的なフォーム

左手の練習をはじめる前にチェックしたいこと、それは「左手のフォーム」です。慣れていないうちは、知らぬ間に非効率なフォームになっている場合が多々あります。意識しないと気付きにくいため、演奏中にもこまめに確認するようにしましょう。

  • 腕の力が抜けているか
  • 手首が下がりすぎていないか
  • 腕が下がりすぎていないか
  • 指が伸びていないか

上の動画では、このようなポイントがわかりやすく解説されています。ぜひ参考にしてみてください。

ほかには、指の各関節がつぶれていないことも重要です。鍵盤に手を置いた際、手のひら側にドーム型の空洞ができているかチェックしましょう。

左手の練習方法:②演奏の練習

基本的なフォームを確認したら、次は実際に左手を動かす練習をしましょう。

5指のポジションで左右同時に動かす

曲を練習する前に「ドレミファソ」までを、5本の指で左右同時に弾いてみましょう。

①左右同時にレガート(なめらかに音をつなげる)で弾く
②「ドドレレミミ……」と、ダブルでタッチしながら繰り返す
③右手をレガート、左手をスタッカート(音を短く切る)で弾き、途中で入れ替えながら繰り返す
④片方をレガート、またはスタッカート、もう片方をダブルで弾き、途中で入れ替えながら繰り返す
⑤「ドレミファソファミレド」と折り返して演奏する

音の並び自体はシンプルですが、左右の弾き方を変えることで、それぞれの手の動きを意識しやすくなります。上の動画も参考にしながらチャレンジしてみてください。

右手を弾きながら小節の頭の左手のみ一緒に弾く

左右の譜読みを終えたら、いったん右手を弾きながら、左手の小節頭の音のみを合わせてみましょう。

両手を合わせる際には、音・リズム・タイミングのすべてを同時に意識することになるため、左手に慣れていないとパニックに陥りやすくなります。したがって、まずは音を減らした状態で、特に頭の音を合わせるところからはじめるわけです。

慣れてきたら、徐々に音を増やしていきます。

リズムのみを取り出して練習する

曲のリズムが複雑で左手をうまく動かせない場合、左右それぞれのリズムだけを取り出し、ドなりレなり1音のみで弾いてみてください。メロディーや伴奏はいったん無視して、リズムだけを習得するのです。

左右のリズムがどう絡み合っているかを確認することで、頭の中でそれぞれの動きを整理しやすくなります。

鍵盤ではなく机や膝で練習する、上の動画のように「タ・タタタ」といったシンプルなリズムで練習する、などの取り組みも効果的です。

左手の練習方法:③日常生活でできる基礎練習

右が利き手の方にとって、日常生活で左手を意識的に使うシーンは少ないですよね。であれば、この時間を増やすよう努力しましょう。次のようなちょっとした行動でも、継続すればピアノの上達につながります。

ペンやお箸を左手で使う

左手の動きを意識するという意味では、ペンやお箸を左手で使うことも効果的です。

はじめのうちは、まったく上手くいかない方も多いと思われます。しかし、慣れて不自由なく使えるようになった頃には、ピアノを弾くときの左手の感覚もずいぶん変化しているはずです。

両手で同時に絵を描く

両手で絵を描くことにもチャレンジしてみてください。

自由に使える右手は、ぎこちない左手のお手本です。右手の動きをすぐ隣で感じながら左手を動かすことで、ピアノの両手奏に近い感覚を味わえます。

△や〇といった簡単な図形からはじめ、徐々に複雑な絵にも挑戦していきましょう。

左手の練習におすすめのピアノ楽譜

ここからは、左手の練習におすすめの楽譜を3つ紹介します。

ハノン ピアノ教本

指のトレーニングといえば「ハノン」。

左右で同じ旋律を演奏するため、それぞれの手の動きのぎこちなさやフォームの崩れなどが一目でわかります。楽譜には音が淡々と並べられており、退屈に感じる方も多い教材ではありますが、シンプルな分、手指の動きだけに集中できるのがポイント。

左手を重点的に鍛えたい場合には、左手のみを取り出して、さまざまなリズムや速さで弾く練習を繰り返し行いましょう。

ツェルニー 30番練習曲

「ツェルニー」も、練習曲集の定番中の定番です。レベル順に100番<30番<40番……と編纂されており、最もよく使われるのは初級後半~中級クラスの30番。左手の練習にフォーカスした「左手のための24の練習曲」も出版されています。

ハノンのような音の羅列ではなく、曲として成立しているため、それほど退屈さを感じずに練習できる点がポイントです。

ベレンス 左手のトレーニング

「ベレンス 左手のトレーニング」は、左手の練習に特化したい方におすすめのトレーニング本。左手の流暢さや力強さ、タッチのコントロール力を目的としています。

中級以上の方やピアニスト向けなため、上2つの教本に比べると難易度は高いものの、左手の上達を目指す上でチャレンジする価値はあるでしょう。

まとめ

焦らずじっくり、効果的な練習を行えば、左手を使った演奏は誰でも上達できます。左手を思い通りに動かせるようになれば、曲のレパートリーが広がり、ピアノの楽しさを心の底から感じられるでしょう。

左手に苦手意識を持っていらっしゃる方は、今回紹介した練習方法や教材を、ぜひ日々のトレーニングに取り入れてみてください。