ピアノの基礎練習に取り組む際、練習曲やテクニック教材をただ繰り返し弾いて「なんとなく」こなしていませんか?

あなたが求めているレベルに到達し、イメージ通りの演奏ができるようになるためには、ただなんとなく練習するのではなく、効果的な練習の進め方を知る必要があります。ピアノ初心者の方ならなおさらです。

そこで本記事では、基礎練習の重要性や基本的なメニュー、練習時に注意すべきポイントについて現役ピアノ講師が解説します。基礎固めにピッタリのおすすめ教材も紹介しているので、練習方法にお悩みの方はぜひ参考にしてください!

案内人

  • 古川友理名古屋芸術大学卒業。
    4歳よりピアノを始め、伊藤京子、深谷直仁、奥村真の各氏に師事。
    地元愛知県三河地方を中心に器楽、声楽、合唱伴奏者として活動する傍ら、島村楽器音楽教室等でピアノ講師として勤める。

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ピアノの基礎練習は毎日やるべき?

「1日練習をサボると、取り戻すのに3日かかる」

こんな言葉を、耳にしたことのある方もいらっしゃるでしょう。たしかに、ピアノ上達のためには、日々の基礎練習の積み重ねが重要です。

しかし、だからといって練習が負担やストレスになるのは良くありません。このせいでピアノを嫌いになっては元も子もないからです。

最も大切なのは「ピアノを楽しむ気持ち」です。「毎日」にとらわれすぎるのはやめましょう。練習の時間は無理しない範囲で取り、適度に休みも入れることが、楽しみながら上達する秘訣といえます。

ピアノ基礎練習の基本的なメニューと流れ

練習曲や指のトレーニング教本を利用した基礎練習の基本的なメニューは、以下のとおりです。

1.イメージトレーニング
2.片手練習
3.両手練習
4.部分練習(分解練習)

基礎練習は、とにかく丁寧に積み重ねることが大切です。最初に楽譜を見てどのように音が並んでいるか、どの辺りが難しそうかなどを把握してから練習を始めましょう。

このステップはおろそかにされてしまいがちですが、意識することでより効率的に練習を進められるようになりますよ!

さらに、各ステップに次のようなプラスαの練習を加えてメニューに変化をもたせることで、より楽しく基礎練習に取り組めるようになります。

・リズム練習
・メトロノーム練習
・録音練習

各練習の内容は「ピアノの基礎練習」の章で詳しく解説します。

練習前のチェックポイント3つ

ピアノ練習の前に、正しいフォームで演奏するためのポイントを確認しましょう。

フォームが悪いと、腕や手をなめらかに動かせず、疲れやすくもなります。上達が阻害されるのは言うまでもないため、以下の4つを、初心者のうちから意識的にチェックすることが大切です。

①椅子の高さ

ベストな椅子の高さは、手を鍵盤に置いた状態で、肘から手首までが水平になるぐらいです。背筋を伸ばし骨盤を起こした状態で座れるか、膝が直角になっているかもポイント。

椅子の高さが合っていないと、腕や手首に余計な力が加わり、演奏をしにくくなるだけでなく、体の節々を痛める可能性も出てきます。鏡に映すなどして、横からもよく確認しましょう。

②椅子の座り方

ピアノ演奏では、重心をやや前に傾けた状態で手足を動かします。ですので、椅子には座面の半分くらいを目安に、浅めに腰掛けましょう。

デスクチェアのように深く腰掛けると、身体の重さを鍵盤やペダルへ伝えにくくなり、演奏に支障をきたします。

③肘の角度

肘の角度については、椅子に座り鍵盤へ手を置いた状態で、90~120度ぐらいが目安となります。ベストな角度は弾く曲によって異なるため、調節可能な椅子を使うことも重要です。

例えば、早いパッセージを正確に弾くことを求められる曲では、椅子を低めにして肘の角度を狭くすると、体や腕が安定し、音をコントロールしやすくなります。

また、演奏中に腕を柔らかく使えるよう、脇は締めすぎず、肘と身体の間に少し空間を作っておきましょう。

④姿勢

一本の糸で天井から吊るされているイメージで背筋を伸ばし、肩の力をストンと抜きましょう。この姿勢を保つことで、正しい手のフォームをキープできるようになり、基礎練習の効果が現れやすくなります。

ピアノ初心者の基礎練習

ここからは、基礎練習の各ステップの内容やポイントをお伝えしていきます。
いずれもどのような練習曲・教材にも取り入れられる練習方法ですので、さっそく実践してみましょう。

①イメージトレーニング

まずは楽譜を見て、イメージトレーニングを行いましょう。
イメージする際は、以下のような視点で楽譜をくまなく眺めていきます。

・メロディーの動き(上行下行・リズムなど)
・伴奏の動き(アルペジオ・分散和音など)
・テンポ(発想記号と速度記号からテンポを予測)
・指使い(記載されている部分は注意すべきポイントの可能性高)

ピアノで弾く前に楽譜を見て曲全体の流れを把握することで、集中的に練習すべき部分が明確になり、後のメニューをよりスムーズに進めやすくなります。

この段階で難しそうだと感じた部分には、取り出して練習できるよう印をつけておくのがおすすめです。

②片手練習

ここから、楽譜を見ながら実際に音を出すステップに進みます。

椅子の高さや座った際の姿勢をチェックして練習スタート!短い曲であれば全体を片手ずつ、長めの曲であれば適当なところで区切って、右手のパートと左手のパートを丁寧に練習していきます。

この際、楽譜や手元に集中している間に姿勢が悪くなっていないか、手のフォームや指の形が崩れていないかといった点も確認しながら進められると良いでしょう。

右手を動かすときは左脳、左手を動かすときは右脳、それぞれ使う脳の部位がまったく異なるため、両手を一緒に動かすのが難しいのは当たり前。ゆっくりのテンポで、楽譜に書かれた指使いを守って片手ずつ弾くことから始めれば、次の両手練習にもスムーズに移行できます。

③両手練習

片手で弾くことに慣れたら、両手のパートを合わせて弾いてみましょう。片手でスラスラ弾けるようになったからといって、簡単に両手奏ができるとは限りません。

両手の練習では、主に次のようなポイントに注目しましょう。

・左右のタイミングが合うところ
・左右のリズムがずれるところ
・左右の音量のバランス

まずは、両手で弾いた際に左右の音が同時に鳴る部分(「縦のラインが揃う」などと表現します)と、リズムがずれる部分を把握し、両手を噛み合わせていきます。

左右のパートを同時に弾けるようになったら、主役のメロディーラインが際立つよう、旋律と伴奏の音量バランスを意識しましょう。

両手練習では、片手練習のときの指使いを忠実に守ることが大切です。毎回違う指使いで練習していては、その都度感覚が変わっていつまで経っても両手で弾けるようになれません。

指使いや左右のタイミング、できれば手や指の形、姿勢なども意識しながらゆっくり練習し、徐々に理想の速さまでテンポアップしていきましょう。

④部分練習

両手で合わせられるようになった頃には、弾きやすい部分と苦手な部分が明確になっているはずです。そこですべきは、丁寧な部分練習!

4小節、2小節、あるいは2拍分など、弾きにくさの原因となっている部分を細かくピックアップし、集中的に繰り返し練習します。この際、「片手→両手→片手→両手」と反復したり、後に紹介するプラスαの練習を組み合わせたりするのも効果的です。

部分練習のポイントは、長いフレーズを繰り返すのではなく、きれいに弾けるようになりたい部分をピンポイントで取り出すこと。片手、両手での練習の時点で、苦手な部分に印を付けておくと、より効率よく部分練習を進められますよ。

【おすすめ】プラスα練習

ここからは、基本メニューに加えることでテクニックアップや演奏の仕上がり向上につながる「プラスα練習」を3つご紹介します。

①リズム練習

リズム練習とは、8分音符や16分音符などの細かい音符が続く部分を取り出し、リズムを変えて練習すること。指の動きにくさを解消したいときや、テンポを上げたいとき、音の粒をそろえたいとき、苦手な部分をしっかり暗譜したいときにおすすめの練習法です。

使えるリズムはもとの音価によって異なりますが、たとえば16分音符が連続する部分であれば付点リズムに変えたり、「16分2つ・8分2つ(タタタンタン)」「8分2つ・16分2つ(タンタンタタ)」といったように変化させることができます。
また、スタッカートを付けたり、スラーとスタッカートの2音のフレーズで弾くのも効果的です。

バリエーションが豊富なリズム練習は、「つまならい練習」の回避や、練習のマンネリ化やモチベーションの低下防止にもつながります。

②メトロノーム練習

親指のくぐりやアルペジオ、音の跳躍などの弾きにくい要素が含まれるパッセージや、両手を合わせるのが難しい部分では、無意識のうちにテンポが落ちてしまうことがあります。

その際におすすめなのが、メトロノームを使った練習です。

最初はゆっくりとしたテンポに設定し、徐々に速度を上げて、全体を通して一定のテンポで弾けるようにしましょう。慣れないうちは手の動きに神経が集中してしまい、メトロノームの刻みがまったく耳に入ってこないこともあるので、ゆっくり練習することが大切です。

③録音練習

基礎練習では、特に苦手な部分や難しい部分を集中的に練習していきます。しかし、自分では弾けていると思っていた部分で、意外にもテンポが乱れていたり、左右の音量バランスが悪かったりすることも。そんなときは自分の演奏を録音して聴いてみましょう。

自分の演奏を客観的に聴いてみると、自分では気づけなかった問題点を発見することが多々あります。

筆者は舞台で演奏する仕事をしていますが、実際に練習や本番を録音して聴き返した際「もっとうまく弾けていると思っていたのに……」「テンポがどんどん速くなってる!」と反省点が次々と露わになることが何度もありました。

音質を求めなければ、レコーダーを用意しなくてもスマホの録音機能やアプリで充分ですので、ぜひ取り入れてみてください。

練習曲にも取り組もう

「基礎をしっかり固めて、いずれは難しい曲にもチャレンジしたい!」

そんな方には、日々のトレーニングの中に練習曲を取り入れることをおすすめします。ここでは、効率的に基礎練習を進められる4つの曲集を紹介します。

ハノン

テクニックの基礎を固めるための曲集で、ピアノ奏者であれば誰もが触れるであろう定番中の定番です。スケールやアルペジオなど、演奏に必要な技術が集約されています。

譜面通りに弾いても十分に上達できるものの、全体的に単調で飽きやすいという難点も。このシンプルさこそ基本練習において重要なのですが、どうせなら楽しみもほしいですよね。

そこで、手のフォームを確認しながらゆっくり弾く、リズムやテンポ、調性を変えて弾くといったメニューも取り入れると、より効果的で飽きの来ない練習が可能になります。

バイエル

ピアノの導入教材として、長きに渡り親しまれてきた教則本です。

106の短い練習曲が収録されており、最初の40曲は片手のみ、41曲目から両手に移行していきます。強弱記号や調性など、ピアノ演奏における重要な要素が段階的に組み込まれていて、譜読みが苦手な方でも無理なく進められます。

また、一曲一曲が短いので、まとまった時間がとれない方でも取り組みやすいでしょう。

ツェルニー

ドイツの作曲家ツェルニーが作った練習曲を集めた、譜読みとテクニック向上のための曲集です。

レベル順に100番<30番<40番<50番<60番の5種類が出版されており、これらの中から指練習に効果的な曲を抜粋したテキストも多数存在します。自身の上達に応じて取り組むのはもちろん、音階、アルペジオ、左手の連符など、苦手なテクニックを含む曲を取り出して練習するのも効果的です。

ブルグミュラー

音楽性の高い作品が収録された曲集で、発表会やコンクールの課題曲として選ばれることもあります。

テクニックだけでなく表現力も同時に身に付けられ、基礎練習をしながらもピアノ演奏をしている感覚を味わいやすい教材といえます。

ピアノ基礎練習を継続するポイント

基礎練習においては継続性が非常に大切です。日々の積み重ねが技術や表現力の向上に直結します。

とはいえ、ものごとを長期間続けるのは難しいもの。どうすれば実現できるのか、以下にポイントを解説するので参考にしてみてください。

短時間でもOK!

練習時間は、1日20分などの短時間でも構いません。

それなりの時間を取ろうとすると、どうしても日常生活全体が圧迫されます。これによって練習が負担になり、ピアノを素直に楽しめなくなっては意味がありません。

まずは、SNSや動画サイトを見ている時間を、少し練習にあててみませんか?無理なく取り組めるはずですし、習慣化もしやすいはずです。

もちろん、時間の余裕があるときに多めに練習すると、より上達は早くなります。

集中できる環境を整える

効率的な練習には、集中できる環境づくりが大切です。

スマホやパソコン、雑誌といった気が散る原因は、ピアノのまわりから排除しましょう。また、リビングなどで家族の様子を気にかけながら練習する場合には、少しでも音に集中できるようヘッドホンを使うのがおすすめです。

まずはウォーミングアップから

ピアノ演奏というのは、見た目以上に体力を使う全身運動です。

準備運動なしのスポーツがケガにつながるのと同様、ウォーミングアップなしで弾きはじめると、余計な力みによって手首や腕を故障する恐れがあります。

ですので、音を鳴らす前に正しい姿勢や手のフォームを確認し、その上で単純なフレーズで身体や手をほぐしてから練習に進みましょう。

ピアノ基礎練習にはアプリ「flowkey」もおすすめ!

ピアノ基礎練習において重要なもうひとつのポイント。それは、自分のレベルに合った曲を選ぶことです。

はじめから難易度の高い曲に挑戦し、挫折してしまう方は多くいらっしゃいます。「憧れの曲を弾けるようになりたい」という思いを抱くことは素晴らしいのですが、それはあくまで中長期的な目標にしましょう。

では、今の自分のレベルに合った曲はどうやって見つけるのか。おすすめなのが「flowkey」というアプリです。さまざまなジャンル・難易度の楽曲が楽譜とともに1,000以上も収録されていて、正しく演奏できているかまで判定してくれる優れもの。

実物の楽譜だと管理が大変なうえ、難しすぎるものを買うとお金や労力が無駄になりやすくなります。一方、flowkeyなら、楽譜や各機能をスマホやタブレットで自由に利用可能です。月額2,100円(1ヶ月プラン)のサブスク制ということで、楽譜代の節約にもなります。

7日間の無料トライアルがあるので、まずは無料で試してみてください。

もっと上達したいならレッスンを受けよう!

正しい練習を丁寧に積み重ねていけば、ピアノ演奏は独学でも身に付けられます。

ただ、行き詰まったときに自分の力だけで乗り切るのは、プロでも困難です。モチベーションを高く保つことも容易ではありません。

こうした問題に対して有効なのが、ピアノレッスンです。

・最適な練習方法
・演奏のポイント
・姿勢やフォームの改善点
・曲に関する歴史的背景などの知識
・モチベーションを維持するコツ

このような上達へのカギを、知識と経験が豊富な講師から直接指導してもらえます。第三者による的確なアドバイスを受けることで、独学よりスピーディーな上達が可能になります。

まとめ

今回は、ピアノ初心者の基礎練習について、方法やおすすめ曲などを紹介しました。

基礎練習の積み上げは、ピアノの上達を目指すのであれば必須となります。しかし、何より大事なのは、演奏を楽しむことです。気持ちが乗らなかったら、たまには休んでも問題ありません。

それに、練習自体は一日20分程度でも十分です。隙間時間をうまく利用し、徐々にテクニックを磨いていきましょう。