「家にピアノが欲しいけど、アコースティックピアノは管理が難しそう……。でも、できるだけ本物に近いタッチや音で練習したい!」
そんな方には、アコースティックピアノの演奏感と電子ピアノの機能性を兼ね備えた「ハイブリッドピアノ」がおすすめです。特に鍵盤のタッチにはメーカーのこだわりが詰まっていて、仕組み自体はデジタルでありながら、本物さながらの打鍵を味わえます。
そんなハイブリッドピアノについて、本記事では電子ピアノとの違いやメリット・デメリット、選び方のポイント、おすすめ商品などを詳しく紹介します。
案内人
- 古川友理名古屋芸術大学卒業。
4歳よりピアノを始め、伊藤京子、深谷直仁、奥村真の各氏に師事。
地元愛知県三河地方を中心に器楽、声楽、合唱伴奏者として活動する傍ら、島村楽器音楽教室等でピアノ講師として勤める。
目次
ハイブリッドピアノとは?
ハイブリットピアノとは、アコースティックピアノの鍵盤機構であるハンマーアクションが搭載された電子ピアノのこと。電子ピアノの一種で、デジタルでありながら、本物のピアノのタッチ感を味わうことができます。
具体的にどの点がどう異なるのか、アコースティックピアノ、一般的な電子ピアノ、ハイブリッドピアノの3種類を機能や特徴面で比較してみましょう。下の表をご覧ください。
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アコースティックピアノ |
電子ピアノ |
ハイブリットピアノ |
タッチ |
ハンマーアクションによる絶妙な抵抗感と、生楽器特有の繊細なタッチ |
タッチ感を鍵盤内のウェイトで再現しているため、本物の感覚とは異なる |
ハンマーアクション搭載でアコースティックピアノさながらのタッチを実現 |
音色 |
弦の振動が内部の響板に共鳴することによって生み出される生音 |
さまざまな生ピアノをサンプリングしたデジタル音。ピアノ以外の楽器の音も出せる ※電子ピアノの音質は価格によって差がある |
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音量 |
周囲への音漏れが気になる場合も ※サイレント機能付きまたは後付けタイプもあるが、音質・タッチともに通常とは異なる |
ヘッドホンを装着でき、他の部屋や周囲への音漏れの心配なし |
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ペダル |
ハーフペダルなどの微妙な調整が可能 |
一般的に軽く抵抗感が少なく、ハーフペダルなどの微調整不可 |
アコースティックピアノに近い繊細な操作が可能 |
調律 |
調律師による定期的な調律が必要 |
調律等のメンテナンスは不要 |
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設置スペース |
ある程度の面積と、楽器の重量を支える強度が必要 |
アコースティックに比べると省スペースかつ比較的軽量 |
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録音・その他の機能 |
ピアノの音を出す機能のみ |
録音や自動伴奏、メトロノームなどの機能も豊富 |
表から分かるように、鍵盤の仕組みはアコースティックピアノ、実際に音を鳴らす仕組みには電子ピアノを採用。これにより、両者の良いとこ取りを実現したのがハイブリッドピアノというわけです。
特に鍵盤タッチにおいて、電子ピアノは仕組み上、どうしても生ピアノのズッシリとした重み、グッと押し込む演奏感などを再現しにくいといえます。一方ハイブリッドピアノは、生ピアノと同じハンマーアクションを搭載しているため、ブラインドだとほとんど区別できない仕上がりになっています。
ハイブリッドピアノのメリット
教室やコンサートホールと同等の練習ができる
繰り返しになりますが、ハイブリッドピアノ最大のメリットは鍵盤タッチにあります。
前述の通り、通常の電子ピアノは、鍵盤の抵抗感をウェイトによって擬似的に再現しており、どうしてもアコースティックピアノとはタッチが異なります。ですので、いざ教室やコンサートホールなどでアコースティックピアノに触れてみると、演奏感の違いに戸惑うかもしれません。
一方ハイブリッドピアノは、アコースティックピアノと同じ感覚で弾けます。ハンマーの動きをリアルに感じ取りながら、ニュアンスのコントロールも自在に練習できるので、アコースティックピアノに移っても普段と変わらない演奏ができるわけです。
メンテナンスの負担が軽い
アコースティックピアノの場合、数ヶ月~1年に1回は、弦のチューニングを合わせる調律をしなければなりません。必要に応じて、ハンマーやペダルなどの消耗部品の修理・交換も必要です。
ハイブリッドピアノであれば、弦がないため調律が不要です。メンテナンスの負担の軽さは、日常的にピアノに触れる方にとって大きな利点といえます。
ただし、ハンマーやペダルについては、アコースティックと同様の手入れを要します。不調を感じるか、そうでなくとも数年に1度は業者にチェックをお願いしましょう。
なお、発売から年月が経った製品については、生産完了によって部品の製造もストップしてしまう可能性があり、修理できないケースが出てくるかもしれません。電子部品の消耗などを考えると、10~20年ほどが寿命と考えておきましょう。
音漏れを気にせず練習できる
ヘッドフォンを挿せば、夜間や集合住宅でも音漏れを気にせず練習できます。
アコースティックピアノでも消音ユニットで騒音対策ができるものの、タッチや音が変わってしまいます。ハイブリッドピアノなら、この悩みを解決できるのです。
しかし、打鍵音やペダルを踏む音と衝撃は消えません。近隣トラブルを防ぐために、最低限の防音・防振対策は講じておくべきでしょう。
ハイブリッドピアノのデメリット
機能やメンテナンス面でメリットの多いハイブリッドピアノですが、デメリットも存在します。ここでは筆者の考えるハイブリッドピアノのデメリット2つをご紹介します。
生音ではない
ハイブリッドピアノは、生ピアノの音を録音したサンプリング音源を使用しています。近年では非常にリアルな音色になっているものの、生音と比べると、倍音や共鳴音といった響きの量が少なく、筆者も音の厚みに違いを感じることが少なくありません。
電子ピアノに比べて価格が高い
ハイブリッドピアノの価格は、通常の電子ピアノに比べると高くなります。各メーカーに共通しているのは「電子ピアノの最上位ランクにハイブリッドピアノが位置している」ということ。
具体的な価格は後ほど紹介しますが、ハイブリッドピアノの予算は30万円以上と考えておきましょう。
ハイブリッドピアノはこんな人におすすめ!
・本物のタッチや音色を求めたいけれど周囲や他の部屋への音漏れが気になる方
・設置面積や重量などの条件でアコースティックピアノの設置が難しい方
・教室や発表会会場のピアノと同じ感覚で練習したい方
・メンテナンスの手間や費用を省きたい方
「ピアノ本来のタッチや音色を楽しみたいけれど、自宅の条件と合わない」という方には、ぜひハイブリットピアノを選択肢に入れていただきたいところ。
また、日ごろ電子ピアノで練習していて、「家では弾けるのに、教室や発表会では思うように弾けない」と悩まれる方が多くいらっしゃいます。その理由の一つが、電子ピアノとアコースティックピアノのタッチの違い。ハンマーアクションのある・なしでは、弾き心地がまったく異なるからです。こうしたギャップを埋めたい方にも、ハイブリッドピアノは最適です。
電子ピアノの方がおすすめな人
一方、次の条件に当てはまる方には、電子ピアノのほうが向いているかもしれません。
・購入費用を抑えたい方
・タッチや音色のリアルさをそれほど重視しない方
・引越しや模様替えなどで頻繁に移動させる可能性がある方
・音を出せない夜間のみなど、使う時間が限定されている方
ハイブリッドピアノは、決して購入しやすい価格帯とはいえません。特に、リアルさはそこそこでOKという方は、より安価な電子ピアノも選択肢に入れてみましょう。
また、ハイブリットピアノは内部に繊細なハンマーアクションが内蔵されているため、移動には気を使うべきです。引っ越しや模様替えを頻繁にする場合、移動させやすい電子ピアノの方が安心でしょう。
ハイブリッドピアノの価格
ハイブリッドピアノを扱うメーカーは、ヤマハ、カワイ、カシオの3社です。各社の価格帯は次の通り。
ヤマハ |
¥43万7,800〜176万 |
カワイ |
¥71万5,000~101万2,000 |
カシオ |
¥32万4,500〜46万2,000 |
けっこうな幅がありますね。グレードが高いほど性能や機能が向上し、価格もまた高くなります。
次に、メーカーごとの特徴や機種の違いを、おすすめ製品とともに見ていきましょう。
ハイブリッドピアノのおすすめ機種比較:①YAMAHA(ヤマハ)
ヤマハのハイブリッドピアノ「アバングランド」は、ラインナップが充実しており、メーカーの力の入れようが伺えます。
ショパン国際コンクールをはじめ、世界的なピアノコンクールで使用されるほどクオリティの高い、同社のアコースティックピアノ。事業を通じて培われたノウハウはハイブリッドピアノにも活かされていて、洗練されたタッチと音が大きな魅力です。
では、どんな機種があるのか見ていきましょう。
NU1X|アバングランド
アップライトピアノと同じ、縦型ハンマーアクションが搭載されたモデルです。2023年11月にリリースされたばかりの新機種で、打鍵感・表現力ともに旧型から一層パワーアップ。
スリムなため置く場所を選ばず、さらに50万円以下という価格もあって、自宅用のハイブリッドピアノとしてファーストチョイスに入るでしょう。
N1X|アバングランド
価格的には前掲のNU1XAの上位機種で、N1Xにはグランドピアノで使われる横型ハンマーアクションが搭載されています。アップライトではなくグランドピアノの打鍵感が欲しい方は、まずこちらのモデルを検討しましょう。
N2|アバングランド
コンパクトなデザインでありながら、低・中・高の各音域に専用のアンプが搭載されていて、グランドピアノのような奥行きのある響きを得られます。演奏時の微妙な振動も再現されており、リアルな弾き心地を堪能できます。
※傑作ではありますが、発売が2009年と、少々古い機種である点は気がかりです……
N3X|アバングランド
ヤマハのハイブリッドピアノにおけるフラッグシップモデルです。同社の最高級グランドピアノ「CFX」と、オーストリアの老舗ベーゼンドルファーが誇る「インペリアル」の音色を搭載。
外見の高級感はもちろん、タッチや音質といった性能面でもまさに最上位といえます。
ハイブリッドピアノのおすすめ機種比較:②KAWAI(カワイ)
カワイのハイブリッドピアノ「ノーヴァス」は、自社のグランドピアノに由来する弾き心地と音の良さだけでなく、音響メーカーと共同開発したスピーカーシステムによる響きの豊かさも魅力です。
現行ラインナップは以下の2種類です。
NV5S|NOVUS
縦型ハンマーアクション搭載の、アップライト型モデルです。
演奏時に響板(ピアノ背面にある木の板)の振動もコントロールする、響板スピーカーというシステムが搭載されていて、自然な共鳴音がスピーカーからの音と合わさり重厚な響きを生み出します。響板スピーカーは上位のNV10Sには搭載されていない、NV5Sだけの特色です。
NV10S|NOVUS
横型ハンマーアクション搭載の、グランドピアノ型モデルです。
NV5Sよりもスピーカーが大きく、ウーファーも内蔵されていることで、より臨場感のある響きを得られます。グランドピアノの打鍵感を求めていて、繊細な表現にもこだわりたい方におすすめです。
ハイブリッドピアノのおすすめ機種比較:③CASIO(カシオ)
カシオのハイブリッドピアノ「セルヴィアーノ グランドハイブリッド」は、リーズナブルな点が大きな魅力です。それでいてクオリティは高く、ドイツのピアノメーカー、ベヒシュタインと共同開発の音色を搭載するなど、鍵盤タッチ以外にもこだわって作られています。
主なラインナップは次の2つ。
GP-310|CELVIANO Grand Hybrid
木目調の落ち着いたデザインをしていて、インテリアとしてさまざまな部屋に馴染みやすく、日常に自然な形で溶け込んでくれるでしょう。
アップライト型ですが横型ハンマーアクションを搭載しており、グランドピアノのタッチをコンパクトなボディで実現しています。また、天板の開閉をすれば、コンサートホールで演奏しているような音の広がりを自宅で体験できます。
GP-510|CELVIANO Grand Hybrid
ハンマーアクションはGP-310と同じですが、GP-510には弦の共鳴を再現するといった、より高度な音響システムが取り入れられています。音の良さを重視したい方は、こちらの上位モデルを検討してみましょう。
後悔しないためのハイブリッドピアノの選び方
ハイブリッドピアノだけではなく、さまざまなメーカーの電子ピアノおすすめモデルと比較検討したい方は下記記事も併せてご覧ください。
タッチ
わざわざハイブリッドピアノを選ぶ以上、最も重視したいのは「リアルなタッチ」です。
一口にハンマーアクション搭載といっても、メーカーやグレードによって弾き心地には違いがあります。これについては個人の好みも関わるので、楽器店で実際に触れて判断しましょう。
鍵盤だけでなく、ペダルもこだわって作られているモデルが多いので、踏み心地にも注目してみてくださいね。
音色
タッチの次に注目すべきは「音色」です。
最新のデジタル技術を用いた豊かな音色もハイブリッドピアノの魅力の一つ。ただし、サンプリングの元となったピアノは、メーカーによってさまざまです。
たとえば、ヤマハの「AvantGrand(アバングランド)」は、世界に誇るコンサートグランド「Yamaha CFX」「Bösendorfer Imperial」の2種類の音を内蔵。カワイの「NOVUS」は、国際ピアノコンクールで公式採用されている自社のフルコンサートグランドピアノの他、それぞれ特色ある3種類のグランドピアノ「SK-EX」「EX」「SK-5」の音色を好みに合わせて使い分けられる仕様になっています。
好みに合った音色で演奏を楽しむためにも、タッチと同様に試弾しながらじっくり検討しましょう。日々のモチベーションにも関わるため、妥協したくないポイントです。
価格
好みのモデルが絞られてきたら、あとは価格との相談です。
数万円から手に入る電子ピアノと違い、ハイブリッドピアノは40万円以上。安い買い物ではありません。試奏して気に入っても即決せず、自宅であらためて冷静に検討するぐらい慎重になる方が後悔しにくいです。
また、上位モデルになると100万円を優に超え、アップライトピアノと同等の価格に達します。このクラスになると、そもそもハイブリッドピアノでないといけないのかを再度考える必要が出てくるかもしれません。
いずれにせよ、決断を焦らず、今後の楽しいピアノライフを想像しながら迷う時間も大事にしてみてくださいね。
まとめ
今回は、ハイブリッドピアノの概要やメリット・デメリット、おすすめ機種などを解説しました。
ハイブリッドピアノは、日ごろの練習だけでなく、本格的な演奏にも対応可能です。しかし、どうしても生ピアノとは勝手の違う点がある、通常の電子ピアノよりも高価といった欠点もあります。
このようなメリットとデメリットを比べた上で、自分にとってハイブリッドピアノがベストだと感じた方は、ぜひ一度、楽器店で触れてみてください。