ピアノを購入する際に気になるのが「アップライトピアノと電子ピアノ、どちらを選ぶべきか」という点です。
「電子ピアノでは上達しないんじゃないか?」「アップライトピアノは高いし電子ピアノで十分なのでは?」など、ピアノ選びに疑問はつきものですよね。
そこで本記事では、アップライトピアノと電子ピアノの違いや、メリット・デメリットについてご説明します。どちらを選ぶか悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。
案内人
- おばたおりえピアノ調律師。大阪府出身。
大学卒業後、専門学校にて調律・修理・整調・塗装・オーバーホールを学ぶ。
卒業後、ピアノ調律会社にて工房勤務経験を経て現在フリーの調律師として活動中。

目次
アップライトピアノと電子ピアノの比較
アップライトピアノと電子ピアノは、構造がまったく異なる楽器です。具体的にどこがどう違うのか、両者を比較しながら詳しく説明します。
音の出る仕組み
アップライトピアノ |
電子ピアノ |
・鍵盤を弾くと内部のハンマーが弦を叩き音を鳴らす |
・サンプリング(録音)された音がスピーカーから流れる |
アップライトピアノはアコースティックピアノとも呼ばれる、昔ながらの生ピアノのことを指します。鍵盤を弾くと内部のハンマーが弦を叩き、音を鳴らす仕組みをしていて、さらに弦の振動が響板に伝わり楽器全体が共鳴することで、豊かな音色が生まれます。
対して電子ピアノには、ハンマーや弦がありません。鍵盤を弾くとセンサーがそれを感知し、サンプリング(録音)された音がスピーカーから流れる仕組みをしています。
音色
アップライトピアノ |
電子ピアノ |
・複雑で豊かな響き ・音色に個体差がある |
・生ピアノほどの響きは得られない ・音色に個体差はない |
前述のとおり、アップライトピアノは弦を叩いて生じた振動によって音が生まれます。ハンマーの硬さや弦の種類などによっても音色は変化するため、個体差を楽しむのも、アップライトピアノの醍醐味です。
電子ピアノの場合、機種によって音色が異なりますが、同機種であれば個体差は生じません。最近はグランドピアノの録音音源が使われていることも多く、音源自体の音色はアップライトピアノに引けを取らないケースも。しかし、電子ピアノの音はあくまでスピーカーから発せられるので、生ピアノの広がるような響きには劣ります。
表現力
アップライトピアノ |
電子ピアノ |
・演奏者次第でさまざまな表現ができる |
・音源によって表現力が異なる |
アップライトピアノでは、表現の微妙な調節が可能です。そのため、演奏者の腕や手首、指の使い方によってさまざまな音を奏でることができます。
一方、電子ピアノは使われている音源によって表現力が異なります。音源には録音された音を再生する「サンプリング音源」と、録音データを元に実際の演奏をシミュレートする「モデリング音源」があります。モデリング音源の方が表現力に勝りますが、高額になりやすいのがネックです。
鍵盤のタッチ
アップライトピアノ |
電子ピアノ |
・タッチの重みを調整できる |
・生ピアノに比べて軽い |
一般的に電子ピアノの方がタッチが軽く、電子ピアノで問題なく弾けていてもアコースティックピアノで上手く弾けない、というケースをよく耳にします。
電子ピアノにはタッチの調整ができる機能が搭載されていますが、この機能はセンサーの感度を変えるだけで、実際に鍵盤の重さを変えられるわけではありません。
一方、アコースティックピアノであれば、実際に部品調整でタッチの重みを好みに調整することができます。
大きさ・重さ
アップライトピアノ |
電子ピアノ |
・大きくて重い
<一般的なYAMAHAのモデル> 横 :147~156cm 奥行:60~68cm 高さ:121~131cm 重さ:210〜270kg |
・比較的スリムかつ軽め
<一般的な88鍵モデル> 横:約140cm 奥行:30cm(スリムなもの) 高さ:70~80cm 重さ:約40kg |
アップライトピアノは大きくて重いため、一度設置すると簡単には移動させられません。
電子ピアノはアップライトピアノと比べると軽量化されているため、自力で移動することが可能です。
メンテナンス性
アップライトピアノ |
電子ピアノ |
・調律や消耗部品の修理が必要 |
・故障しないかぎり必要ない |
アップライトピアノには年に1〜2回の調律や、演奏を重ねていくごとに消耗部品の修理が必要となります。それに対し、電子ピアノには調律や修理などのメンテナンスは必要ありません。
価格
アップライトピアノ |
電子ピアノ |
・高額 新品:約50万〜120万円 中古:30万円前後 |
・比較的リーズナブル 5万円~ |
アップライトピアノの価格は上記表の通りです。
電子ピアノは5万円程度からと比較的リーズナブルですが、価格とスペックは比例するため、本格的な演奏を想定した場合15万〜25万円程度のモデルを選ぶのが一般的です。演奏感をアコースティックピアノに近づけたハイクオリティの機種であれば、50万円以上するものもあります。
アップライトピアノのメリット

ここまでの内容を踏まえ、アップライトピアノのメリットを見ていきましょう。
鍵盤を弾く練習がしっかりとできる
アコースティックピアノには電子ピアノのような音量調整機能がなく、ピアニッシモからフォルテッシモまで演奏者の力加減で調整することになります。指や手首、腕の力などのコントロールが必要なため、鍵盤を弾く練習が電子ピアノよりもしっかりとできます。
弾き手自身の表現をフルに活かせる
アコースティックピアノでは繊細なタッチの変化が音に現れるため、演奏者の表現力を存分に生かした演奏が可能になります。例えば、スタッカートの強弱や長さ、スラーの滑らかさ、和音のバランスなどを操ることで、音の表情を無限に変えられるのです。
寿命が長く、価値が下がりにくい
適切な手入れをすれば何十年と愛用できるのが、アップライトピアノの大きなメリットです。オーバーホール修理を行えば、新品ピアノのように生まれ変わらせることも可能です。
また、寿命が長いため市場価値も下がりにくく、機種によっては30〜40年前のピアノでも10万円以上の価格で売却できる可能性もあります。
アップライトピアノのデメリット
表現力や音色の豊かさは素晴らしいものの、アップライトピアノには以下のようなデメリットもあります。
音や振動が周囲へ伝わりやすい
アップライトピアノの音量は、約80~90dBといわれており、これは地下鉄の騒音に匹敵します。また、音や振動が壁や床を伝って周囲へ伝わりやすいため、とくにマンションなどの集合住宅では周りへの配慮が必要です。
早朝や夜間に練習したいのであれば、防音室を用意するか消音ユニットの取り付けを検討しましょう。
ピアノの防音対策については下記記事をご参照ください。
移動させにくい
電子ピアノと異なり、超重量物に分類されるアップライトピアノ。一度置くと、自力で移動させることはほぼ不可能で、同じ部屋の中の移動であっても専門業者に依頼しなければなりません。
調律などのメンテナンスが必要
長く演奏していると弦が緩み、音程が狂ってしまいます。そのため、年に1〜2回の調律が必要です。また、ピアノには消耗部品も多く、長く使用していれば必ず修理のタイミングが訪れます。
電子ピアノのメリット

次に、電子ピアノのメリットを以下にまとめます。
ヘッドホンを付けて演奏できる
電子ピアノの最大のメリットは、ヘッドホンを付けて消音状態で演奏できる点です。
アップライトピアノでは演奏できない夜の時間帯や、同居家族への配慮で音を出せない時にも気兼ねなく練習ができます。マンションなどの集合住宅であっても安心です。
リーズナブルな製品も多い
5万円ほどから、リーズナブルに購入できるのも、電子ピアノの大きなメリットです。本格的なレッスンに入る前の子供や、大人の趣味として気軽に始めたい方にうってつけです。
調律の必要がなく移動させやすい
アップライトピアノと違い、電子ピアノには調律の必要がありません。1回につき1〜2万ほどかかる調律費を節約できるのはありがたいですね。
また、アップライトピアノより小さく軽い分、場所を取らず移動も簡単。スタンドがセパレートになっているものであれば卓上に置いて使うこともでき、持ち運び性やコンパクトさを求める方には電子ピアノがおすすめです。
電子ピアノのデメリット
メリットと引き換えに、電子ピアノにはこのようなデメリットもあります。
繊細な表現力がアップライトピアノに劣る
電子ピアノでは、わずかなタッチの違いからくる繊細な表現において、どうしてもアップライトピアノに劣ります。
近年では生ピアノを高精度に再現できる機種も登場していますが、なかなか手の出せる価格ではありません。もっとも、本気でやり込むわけでなければ、電子ピアノでも十分に魅力的な演奏は可能です。
鍵盤のタッチがやや浅く軽い
アコースティックピアノの鍵盤は低音部が重く、高音部が軽い作りをしています。
電子ピアノでも、機種によっては同じような重量バランスに設定されているものもありますが、低価格帯であればどの鍵盤も同じ重さに設定されています。よって、アコースティックピアノを弾いた時に重く感じてうまく弾けないかもしれません。
耐用年数が短い
電子ピアノの寿命は、家電製品と同じく10〜15年程度とされており、アップライトピアノほど長くは保ちません。
また、発売から10年以上経過したモデルだと修理用部品の生産が終了していることも多く、故障しても修理できなくなる可能性があります。
アップライトピアノと電子ピアノ、どちらが良い?

アップライトピアノと電子ピアノの特性を踏まえ、どちらを選ぶのが良いのかをタイプ別にご紹介します。
アップライトピアノが向いている人
- 本格的なレッスンを受けている人
- よりこだわった音色やタッチを追求したい人
- 設置スペースに余裕のある人
ピアノの演奏表現をこれから学んでいく方や、楽器としてのピアノ演奏を本格的に楽しみたい方には、やはり繊細な音の表現ができるアップライトピアノの方が向いています。とはいえ、設置スペースとの相談は、やはり必要ですね。
電子ピアノが向いている人
- 早朝や深夜などに練習する人
- マンションなどの集合住宅に住んでいる人
- 引越しが多い人
- 趣味として気軽に始めたい人
メンテナンスフリーでコンパクト、機能性にも優れた電子ピアノは、住環境やライフスタイルに合わせることを重視する方に向いています。
アップライトピアノの選び方
アップライトピアノと一口に言っても、色や形、大きさなどは千差万別。価格も35万円程度から、高価なものであれば100万円以上と大きく開きがあります。
では、アップライトピアノを選ぶ時、どこを見れば良いのでしょうか?ポイントを解説していきます。
サイズ(高さ)
一般的に、アップライトピアノは背丈が高いほど音が良いといわれています。理由は、背の高いピアノであれば弦長を長くとれるためです。特に低音部は長い弦の方がより豊かな響きを得ることができ、和音の響きのバランスも美しくなります。
とはいえ、この点に関しては設置スペースと要相談です。
グレード
同じメーカーのピアノでも価格が異なる理由の一つとして、内部部品の質が異なるという点があります。高価格帯の上位機種では、弦やハンマーに上質な材料が使われており、なかにはグランドピアノに迫る音の豊かさを実現しているモデルもあります。
タッチ・音色・弾き心地
アップライトピアノの大部分は木材でできているため、1台ごとに音色が異なります。また、調整ごとの具合もそれぞれ微妙に異なるため、タッチも個体ごとに同じく異なります。
実際に試弾して、自分好みの弾き心地や音色のピアノを選びましょう。
電子ピアノの選び方
次に、電子ピアノを選ぶ際のポイントを解説していきます。
サイズ・デザイン
設置スペースの都合上、電子ピアノを選択する人にとってサイズはとても重要です。
電子ピアノはコンパクトですが、ピアノの前に椅子を置いて正しい姿勢で演奏できるよう、1畳半程度のスペースは必要です。設置する場所の横幅・奥行き・高さをあらかじめ測っておきましょう。
デザインについては、インテリアに馴染む家具調のモデルなどもあり、部屋の雰囲気に合わせて選ぶことができます。
鍵盤の材質・構造・タッチ
鍵盤の素材は機種によって異なり、弾き心地に直結します。
リーズナブルな価格帯の機種であれば、多くは樹脂製です。ハイクラスになると、アコースティックピアノの演奏感へ近づけるために木製鍵盤が搭載されています。構造面では、弱い力で鍵盤を押した時のクリック感や音域ごとの鍵盤の重み、連打性、鍵盤の戻りなどがメーカーや機種によって千差万別です。
ハイクラスモデルの中には、実際のアコースティックピアノの部品を搭載してタッチや演奏感をリアルに再現している「ハイブリッドピアノ 」と呼ばれるものもあります。
スピーカー
電子ピアノの音の臨場感や再現性は、スピーカーの質や数で決まります。内臓スピーカーの個数は標準的なもので2・4・6個の3種があり、個数の多い方がより表現力を高められます。
音源
電子ピアノの音源には録音された音を再生する「サンプリング音源」と、音源データを元に生ピアノをシミュレートする「モデリング音源」があります。
モデリング音源の方が表現力豊かなものの、高価になりがちです。15万円以上は考えておきましょう。
最新の電子ピアノ商品一覧をチェックしたい方は下記記事を併せてご覧ください。
まとめ

アップライトピアノと電子ピアノは異なる特性を持った楽器であり、それぞれに強みと弱みがあります。そのため、住環境や練習状況など、目的・用途によって自分に合うピアノを選択することが大切です。
本記事の内容を踏まえた上で、購入の際には店頭で試弾し、好みの弾き心地やタッチのものを探してみてくださいね。