初めて耳にする曲であるはずなのに、以前どこかで聴いたような気がする…、なんとなくメロディーを知っている…。そのような曲は、ひょっとしたら、有名なクラシック曲のアレンジかも!?
今や世界でも注目されるようになった「J-POP」。ワールドワイドに活躍する日本のアーティストも増えてきました。
J-POPにはさまざまな楽曲がありますが、クラシックが原曲となっている作品が意外に多いことを知っていますか?
メロディーがどのようにアレンジされているのか、どのようなタイトル・歌詞がつけられているのかなどといったことを確認しながら、原曲と聴き比べてみると楽しいかもしれません。
目次
「JUPITER(ジュピター)」 by 平原綾香
平原綾香のデビュー曲「JUPITER」は、組曲「惑星」第4楽章「木星」をもとにつくられています。
「惑星」は、イギリスのGustav Holst(グスターヴ・ホルスト)が、1914年~1916年にかけて作曲した管弦楽曲。あわせて7つの楽章から構成されていますが、世界中で親しまれ、最も人気があるのが、4番目の「木星」です。
「木星」といえば、壮大な宇宙を想起させるような、あの有名な旋律。平原綾香のJUPITERも、主題部分から曲がはじまります。タイトルは木星の英訳がそのまま使用されているほか、歌詞には「星」「宇宙」などといったワードが登場。JUPITERは、原曲の世界観を表現しようとした楽曲であるといえるのではないでしょうか。
一方で、ホルストは天文学としての惑星にヒントを得て作曲したのではなく、ギリシャ神話・ローマ神話などに代表される、星と神々とを結びつける西洋占星術の考え方に影響を受けているといいます。
7つある楽章のタイトルすべてに、占星術的なサブタイトルがつけられているのも、そのためです。ちなみに、木星には「快楽をもたらす者(the Bringer of Jollity)」というサブタイトルがつけられました。
木星の象徴は、ローマ神話のJupiter(ユピテル、英語名:ジュピター)。惑星名は、神話に登場する神の名前に由来しているのです。Jupiterはギリシャ神話ではZeus(ゼウス)にあたり、いわば最高神を表します。
西洋占星術における木星は、幸運や発展などを司る惑星とされていますが、ベーシックな意味は「保護」。これを受けてか、平原綾香のJUPITERでは、「愛」「ひとりじゃない」といった歌詞が繰り返し登場します。
原曲からイメージされる世界観および占星術としての木星の意味も反映した、みごとな楽曲であるといえるのではないでしょうか。
「Love is… 」 by 加藤ミリヤ
Johann Pachelbel(ヨハン・パッヘルベル)が作曲した「Canon(カノン)」をモチーフにつくられた楽曲が、加藤ミリヤが歌う「Love is…」です。
パッヘルベルのカノンは、携帯電話の着信音や、結婚式や卒業式などといった各種セレモニーのBGMなどに起用されており、誰もが一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。山下達郎の代表曲「クリスマス・イブ」の間奏にも使われているので、聞き覚えのある人も多いでしょう。
加藤ミリヤのLove is…は、曲の前奏・後奏にカノンの旋律がそのまま使われていますが、歌詞がついた部分は、原曲とは少し雰囲気が異なります。歌を聴いただけでは、まさかカノンがモチーフになっているとは気づかない人もいるでしょう。しかし、前奏から歌までの流れはごく自然で、違和感がない構成になっています。
カノンは、華やかな雰囲気の中に、どことなく寂しさを感じられる部分があり、結婚式や卒業式などといった門出を祝う厳かなシーンにもぴったりの曲。一方、Love is…は、いわば「永遠の愛の誓い」の歌です。歌詞の内容から「結婚」も連想されるため、カノンの旋律からイメージできる世界観にインスパイアされたといえるのではないでしょうか。
パッヘルベルは、バロック時代を代表するバッハやヘンデルなどの後に活躍した、ドイツの作曲家兼オルガン奏者。カノンはパッヘルベルの1680年頃の作品といわれていますが、300年以上経過した今でも人々に愛され、現代の音楽に自然に溶け込んでいます。
「希望の歌 ~交響曲第九番~」 by 藤澤ノリマサ
dreamusic 「希望の歌~交響曲第九番~」FULL
藤澤ノリマサは、「ポップオペラ(ポップスとオペラの融合)」という独自の音楽スタイルで活動するアーティスト。クラシックの名曲の数々をカバーしています。その中の一つ、「希望の歌 ~交響曲第九番~」は、タイトル通り、Ludwig van Beethoven(ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン)の交響曲第9番をモチーフにつくられた楽曲です。
交響曲第九番といえば、「第九」「歓喜の歌」などの愛称で親しまれ、第4楽章で独唱・合唱を伴って演奏されるのが一般的。ベートーヴェンが1824年に作曲した最後の交響曲です。
19世紀初頭のヨーロッパは、フランス革命の影響から、ナショナリズムが広がりをみせた時代。ベートーヴェンの出身国ドイツでは、ナポレオンの侵略を受けたものの、解放戦争により、強力な統一国家が誕生しました。
また、19世紀は帝国主義の最盛期であり、ヨーロッパの国々を中心に、国家侵略・植民地支配などが推し進められた時代でもあったのです。特に大英帝国(現在のイギリス)は経済力・軍事力ともに強大で、世界の主導権を握っていました。
交響曲第九番第4楽章の歌詞をみると、さまざまな「喜び」を歌ったものであることがうかがえます。同時に、詞に付されたメロディーにどこか力強さを感じるのは、ヨーロッパ隆盛という時代背景が反映されているからなのかもしれません。
藤澤ノリマサの「希望の歌 ~交響曲第九番~」は、原曲から感じられる「喜び」や「幸せ」を前面に押し出したような楽曲。「笑顔」がキーワードになっており、歌詞に何度も登場します。
希望の歌では、交響曲第九番第4楽章の主題がサビ部分に使われています。いわば、ポップスとクラシックのコラボレーションですが、曲のノリもよく、違和感なく聴けるので、「新しい第九」として楽しむのもおすすめ。
さらに注目すべきは、藤澤ノリマサが、サビとそれ以外の部分で、歌い方を変えていることです。ポップオペラという新しいジャンルを確立した、彼ならではのテクニックに違いありません。
「音楽はボーダレス。」そんな言葉がしっくりくる一曲です。
「RE-CLASSIC STUDIES」
クラシックのカバー、アレンジといった手法に加え、「再生」の試みが行われているのを知っていますか?
クラシックの再生に取り組んでいるのは、「RE-CLASSIC STUDIES」プロジェクト。「クラシック音楽を現代の音楽に」をコンセプトに、クラシックを現代の音楽にリメイクするというものです。
RE-CLASSIC STUDIESシリーズ第一弾のアルバム「RE-FAURÉ」は、2017年11月20日にリリース。ロマン派音楽のフランス人作曲家「Gabriel Urbain Fauré(ガブリエル・ユルバン・フォーレ)」の作品が取り上げられています。
アルバムには、アメリカのエレクトロ・ヒップホップアーティストの巨匠「Prefuse73」が制作とリミックスを手がけた楽曲が収録されています。しかし、単純なクラシックのカバーではなく、まったく新しい曲を聴いているかのような印象も受けます。
また、ヴォーカル・Jessicaの透き通るような歌声と、フォーレが作曲したなめらかで美しい旋律が心地よく、クラシックというより、大人向けのララバイ(子守歌)といってよいかもしれません。
いわゆるクラシックは、「堅苦しい」「近寄りがたい」と思う人もいるでしょう。もともと16世紀頃からヨーロッパの教会や宮廷で栄えた音楽であるという歴史も、その一因であるかもしれません。
20世紀に入り、音楽は自由な形式に発展しました。既存の音楽の形式を融合させた、新しいジャンルも確立されています。「RE-CLASSIC(再生されたクラシック)」も、新ジャンルの一つであるといえるのではないでしょうか。
音楽は、私たちにとって自由で身近な存在。音楽のボーダレス化は、今後ますます進んでいくことでしょう。
まとめ
よい音楽は、100年経っても200年経っても色あせず、時代を超えて受け継がれていきます。時には形を変えながらも、現代まで生き残ってきたクラシックの名曲の数々が、そのよい例でしょう。
先に紹介したJ-POPの楽曲のように、現代の音楽に自然に融合しているクラシックに、私たちは知らず知らずのうちに触れていることがあります。「RE-FAURÉ」のように、クラシックの歌曲を身構えずに聴くことができる作品も登場。クラシックのハードルは、決して高くはないのです。
先に紹介した楽曲のほかにも、クラシックが原曲となっているJ-POP作品は、まだまだたくさんあります。クラシックの曲が使用されていると思われる曲を見つけたら、原曲を調べる、といった楽しみ方もおすすめです。