ロマン派の作曲家リストが生み出したピアノの名曲は数多く、現在に至るまで世界中の人々に愛され続けています。絶技巧練習曲の鬼火や、愛の夢などは誰もが一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
今回は、そんなリストのピアノ名曲を10曲厳選してご紹介します!これらの代表曲を聴けば、なぜリストが「ピアノの魔術師」と呼ばれるのか、きっと納得していただけるでしょう。
案内人
- 林和香東京都出身。某楽譜出版社で働く編集者。
3歳からクラシックピアノ、15歳から声楽を始める。国立音楽大学(歌曲ソリストコース)卒業、二期会オペラ研修所本科修了、桐朋学園大学大学院(歌曲)修了。
リスト名曲ピアノ作品10選!
フランツ・リスト(1811〜1886年)は超人的な演奏テクニックで当時の人々を驚かせたピアニスト兼作曲家です。その迫力は「リストの指は6本ある」と噂が立つほどでした。
それではさっそく、リストの名曲ピアノ作品10曲を解説付きで見ていきましょう!
『パガニーニによる大練習曲』第3番 嬰ト短調
https://youtu.be/q3TybVlVZd0
「ラ・カンパネラ」と呼ばれている曲で、リストの膨大な作品のなかでも特に有名です。ヴァイオリン奏者のパガニーニの演奏に影響を受け、その感動を再現するために作られました。カンパネラとは鐘という意味で、鐘の高い響きが表現されています。素早く手を移動させて細かく弾くテクニックが必要な難曲です。
絶技巧練習曲 第5番『鬼火』
https://youtu.be/JDsOUOncBLc
異なる調の12曲で構成される練習曲集で、2度改訂されています。第2稿は高難度でほとんど演奏不可能なので、現在よく演奏されているのは第3稿です。特に第5番「鬼火」は最高難度曲と言われており、繊細な半音階や速い跳躍などさまざまなテクニックが求められます。鬼火とは、ゆらゆらと飛び回り人を惑わす火の玉を指し、この伝承は世界各地にあるそうです。
超絶技巧練習曲 第4番『マゼッパ』
https://youtu.be/PkKg_ud2BRk
前述の『鬼火』と合わせて有名な曲は第4番『マゼッパ』です。この曲のテーマはヴィクトール・ユーゴーの叙事詩『マゼッパ』に由来しています。また、ピアノ連弾や2台ピアノ版もあり、40歳の頃にはこの曲を基にした交響詩も作られました。音数が非常に多く、ピアノ1台とは思えないほど壮大で華やかな音楽を体験できる名曲です。
愛の夢 第3番
https://youtu.be/M3W8daqv3J4
『愛の夢』は3曲からなる作品で、特に第3番は多くの演奏機会があり耳馴染みがあります。もともとは歌曲として作曲されましたが、本人によって編曲されたピアノソロ版が広まりました。情熱的な愛をテーマにした曲ですが、実は歌曲が完成する前年に10年以上を共に過ごしたマリー・ダグー伯爵夫人と別れていたという背景があります。
メフィスト・ワルツ 第1番『村の居酒屋での踊り』
https://youtu.be/3D77N5uc_sg
ドイツのファウスト伝説に魅了されたリストは、この題材でいくつもの作品を創作しています。管弦楽曲『村の居酒屋の踊り』を書き上げたあとにピアノ版に編曲されました。高難度のテクニックを要する曲で、聴きどころがたくさんあるのも魅力の一つです。
ハンガリー狂詩曲 第2番
https://youtu.be/U9OqpR4_1BY
リストの祖国であるハンガリーの民謡を題材とした19曲の構成から成る作品で、そのうち6曲はリスト自身によってオーケストラ編曲されています。ピアノ版では第2番が特に有名で、随所に現れるカデンツァ(自由に即興的な演奏をする部分)は必聴です。
コンソレーション 第3番
https://youtu.be/705LabZ1U88
6曲の小品から構成される作品で、最も有名なのは第3番。穏やかでなめらかなメロディが印象的で、叙情性のある美しい作品です。コンソレーションは「慰め」という意味を持っていることからも、ショパン自身を内観する曲であるようにも感じます。
巡礼の年 第2年『イタリア』より《ダンテを読んで》
https://youtu.be/-vf4ESXWVCI
リストが訪れた国や体験に着想を得て作曲したピアノ曲がまとめられた作品。作曲年代により音楽性の違いを感じることができます。第2年に作られた『イタリア』に収められている《ダンテを読んで》は、ダンテの『神曲』地獄篇にインスパイアされた超大作となっています。曲全体を通して印象的な響きに満ち、不安や怒り、微かな落ち着きや愛などさまざまな感情が繰り返し展開される名曲です。
巡礼の年 第3年より第4番《エステ荘の噴水》
https://youtu.be/Sg34BHT3KJI
第3年の出版は1883年で、晩年の宗教音楽へ傾倒した時期の曲が収められています。エステ荘とは、イタリア・ティヴォリにある貴族エステ家の噴水付庭園のある別荘で、世界遺産でもあります。水の軽やかな動きを音で表現した、繊細でロマンティックな旋律が全体に現れる明るい曲です。
3つの演奏会用練習曲 より『ため息』
https://youtu.be/QZO9M0FWi5E
1849年に出版された「3つの演奏会用練習曲」の、第1番『悲しみ』、第2番『軽やかさ』に続く第3曲目にあたります。マリー・ダグー伯爵夫人との生活に終止符を打った直後の時期に創作した作品です。タイトルの通り、ため息を思わせる音型(細かに上行・下行する分散和音)が敷き詰められた、伸びやかで美しい曲となっています。
【番外編】リストのピアノ作品以外の名作
ピアノ作品以外のリスト代表作品を2曲ご紹介します!
ファウスト交響曲
https://youtu.be/sG844sxwHUQ
リストは詩や風景など音楽外の要素と結びつけた作品を多く残しています。ゲーテの戯曲『ファウスト』に夢中になったリストは、ここから着想を得てファウスト交響曲が生み出されました。長く改作され、最終的には合唱付きの大規模作品となりました。第一楽章『ファウスト』、第二楽章『グレートヒェン』、第三楽章『メフィストフェレス』と、登場人物の特徴にスポットライトを当てて表現されています。物語を追いながら聴くとより深くファウストの世界を味わえるでしょう。
おお、愛しうる限り愛せ(O lieb, so lang du lieben kannst)
https://youtu.be/TGXSBuRquWo
前述のピアノ曲『愛の夢第3番』のもととなった歌曲です。愛に満ちたロマンチックな音楽で、34歳の頃に作曲されました。詩人のフライリヒラートはリストとほぼ同時期に生きた人物で交流もあったようです。ピアノ曲の甘美な旋律も素敵ですが、歌曲では歌詞がある分ダイレクトに愛の喜びを感じることができます。
まとめ
リストの超絶技巧は単なる表面的なものではなく、さまざまな感情や風景をより細かに豊かに表現するための手段だったのではないかと思います。みなさんもぜひ多くの名曲に触れ、その奥深さを感じてみましょう。