日本の合唱界と若い世代の作曲家に大きな影響を与えた三善晃。国内外を問わず受賞歴が多数あり、合唱曲はもちろん、器楽曲や管弦楽曲、現代邦楽、電子音楽など幅広く活躍した作曲家として知られています。

今回は、三善晃の経歴や作風、代表曲を詳しくご紹介します。さまざまな背景を知ることにより、改めて三善氏の楽曲の魅力を感じられるでしょう。

案内人

  • 山吹あや幼少期からピアノ、中学校からサックス、高校から声楽を始め、地方国立大学教育学部音楽専攻へ進学。中学校では合唱部顧問を担当し、県大会を通過し関東大会に多数の出場経験がある。

    詳しくはこちら

三善晃の経歴

三善晃は1933年に東京で生まれ、3歳の頃から自由学園でピアノやソルフェージュ、作曲法を学びました。小学校入学後には平井康三郎に作曲とヴァイオリンを師事しています。

東京大学文学部仏文科在学中にパリ音楽院へ留学し、アンリ・シャランとレイモン・ガロワ・モンブランに師事しました。帰国後は東京大学文学部仏文科を卒業し、東京芸術大学の講師や桐朋学園大学の教授を務めながら、管弦楽曲や室内楽曲、歌曲、合唱曲など多くの作品を発表しています。

主な受賞歴は次の通りです。

  • 第22回日本音楽コンクール 作曲部門 第1位
  • 尾高賞
  • 芸術選奨文部大臣賞
  • 日本芸術院賞
  • モービル音楽賞
  • 東京都文化賞
  • フランス政府学術文化賞文芸オフィシエ賞
  • サントリー音楽賞

桐朋学園大学長や東京文化会館長、「三善晃ピアノコンクール」「Miyoshi Netピアノコンクール」の審査委員長なども務め、没年までピアノ教育にも力を入れていました。2013年、80歳にて永眠しました。

三善晃の作風

三善晃の作品は、パリでの留学中に師事した2人やアンリ・デュティーユなどの影響もあり、近代フランス音楽の影響を強く受けています。また、パリ音楽院で先に留学していた作曲家の矢代秋雄とも親交を深めたことで、互いに影響を受け合いながら自由で古典的な作風を確立していきました。

創作時期によって作風にも変化はあるものの、壮絶なドラマのような展開の中に緻密さや鋭さをのぞかせるような作風が特徴的です。管弦楽曲も多数手がけており、合唱と管弦楽のための作品も多く残しています。

「三善アクセント」と呼ばれる「<>」と表記される記号を多用しているのも大きな特徴で、その後の若い世代の作曲家にも多くの影響を与えています。

詩人であり仏文学者でもある宗左近とも親交があり、宗氏が作詞を担当する形で日本中の多くの中学校や高校の校歌を手がけました。

三善晃の代表曲

ここでは三善晃の代表曲を5つご紹介します。

レクイエム

混声四部合唱と管弦楽のための楽曲で、「反戦三部作」の第1作目の作品です。3つの楽章で構成されており、すべての楽章が途切れなく演奏されます。オーケストラ版以外にも、1台または2台ピアノ版も出版されています。

理不尽な死への自問や戦争の残虐さが描かれており、叫びのような圧倒的な音響は聴き手に大きな衝撃を与えます。宗氏をはじめとする著名な詩人の詩や特攻隊員の遺書をテキストとして用いており、詩のもつエネルギーを最大限に生かした壮絶な楽曲です。

響紋

児童合唱と管弦楽のための楽曲で、「反戦三部作」の第3作目の作品です。日本国内ではもちろんニューヨークでも演奏され、高い評価を得ています。

歌詞は、わらべ歌の『かごめかごめ』をベースに戦争を見つめる内容になっています。同曲の原曲の旋律も用いられており、緊迫感のあるオーケストラの演奏と相まって壮大なクライマックスへと発展していくのが特徴的です。最後は「うしろの しょうめん だあれ」と静かに幕を閉じ、戦争について改めて考えさせられるような余韻を残しています。

街路灯

詩人の北岡淳子の5つの詩による女声合唱曲集『街路灯』の最終曲です。深く静かに抑え込んだ感情を描いた北岡氏の詩に、やさしく繊細な女声合唱が彩りを加えた美しい作品です。

美しいピアノと女声合唱のやわらかなハーモニーからはじまり、中盤から終盤にかけて抒情的でドラマチックに展開していきます。優美な雰囲気の中にも三善晃らしい技巧的な一面をのぞかせています。

生きる

混声合唱曲集『木とともに 人とともに』の中の1曲です。この曲集は谷川俊太郎の詩『木とともに 人とともに』『空』『生きる』の3曲から構成されており、『生きる』は同氏の詩集『うつむく青年』に収録されています。

三善晃自身がこの曲について「1999年大晦日午後から2000年元旦にかけて作曲した」と語っており、亡くなった友人たちを想いながらピアノを引いているうちに、その音の流れの中に谷川氏のこの詩句が聴こえてきたと述べています。生きることや命について訴え、力強さの中に美しさが垣間見えるような楽曲です。

みつめてる

童声合唱とピアノのための組曲『のら犬ドジ』の中の1曲で、全6曲中の3曲目の楽曲です。蓬莱泰三の詩による楽曲で、のら犬と少年が出会い、のら犬であるというだけで殺されてしまうドジの死までの愛の交流を描いた内容になっています。

詩はわかりやすいシンプルな言葉で描かれていながらも、壮絶な世界観でストーリーに合わせてドラマチックに展開していく楽曲です。童声合唱でありながらも技巧的で高度なテクニックを要する組曲で、中高生から一般団体まで幅広く歌われています。

まとめ

今回は、三善晃の人物像や代表曲を紹介しました。知っている曲もあれば、初めて出会った曲もあったのではないでしょうか。

三善晃は生涯を通して非常に多くの心揺さぶられる作品を残しているので、ぜひ他の曲もチェックしてみてくださいね。