「ツェルニー30番」は、初級の練習曲で積み上げた基礎を磨く中級ステップに欠かせない教材です。同シリーズは「30番」「40番」などレベルごとに複数の曲集が出版されているため、どのタイミングで何番を練習すればよいか迷う方も多いでしょう。

そこで、本記事では、ツェルニー30番のレベルや導入するタイミング、練習によって得られる効果について現役ピアノ講師が詳しくご紹介します!

冒頭の3曲をピックアップした大まかな解説や、おすすめの楽譜も掲載していますので、これから取り組む方はぜひ参考にしてください。

案内人

  • 古川友理名古屋芸術大学卒業。
    4歳よりピアノを始め、伊藤京子、深谷直仁、奥村真の各氏に師事。
    地元愛知県三河地方を中心に器楽、声楽、合唱伴奏者として活動する傍ら、島村楽器音楽教室等でピアノ講師として勤める。

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ツェルニー30番練習曲とは?

カール・チェルニー(ツェルニー)

「ツェルニー30番練習曲」は、ピアノの演奏技術の上達を目的とした曲集です。オーストリアの作曲家でありピアニストでもあるカール・ツェルニーが手掛けた練習曲集で、中級レベルにあたる曲が集められています。

原題は「Etudes de Mecanisme Op.849」で、メカニズム(指や体の使い方)の練習曲とされています。

ツェルニーは、古典派を代表する作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンや、数多くのソナタ作品を残したことで知られるムツィオ・クレメンティの弟子です。そしてなんと、超絶技巧練習曲で有名なフランツ・リストの師匠でもあります。

ツェルニー30番に取り組むことにより得られる効果

「ツェルニー30番」に取り組むことで、以下のような効果が期待できます。

  • 指の形や手のフォームの徹底
  • 指の強化や指を動かす速度の向上
  • 音の粒の均一性
  • 集中力向上
  • 古典は作品を弾きこなす基礎力定着 など

中級レベルの「ツェルニー30番」を音の粒を揃えて弾くためには、指の形や手のフォームといった基礎が欠かせません。

また、初級のコンパクトな練習曲集を経て、見開き1ページ程度のややボリュームのある曲に取り組むことで、音に集中し続ける力も養われます。

初級の練習曲で積み上げてきたテクニックを再確認し、さらなるステップアップを目指すための有効な練習曲集と言えるでしょう。

ツェルニー30番のレベル・難易度

ツェルニーの練習曲は、主に5つの曲集に分けられます。それぞれのレベルについて見ていきましょう。

レベル

曲集

初級

ツェルニー100番練習曲

中級

ツェルニー30番練習曲

ツェルニー40番練習曲

上級

ツェルニー50番練習曲

ツェルニー60番練習曲

もっともやさしい初級向けの「ツェルニー100番」の次に位置するのが、中級レベルの「ツェルニー30番」です。

上級レベルの「ツェルニー60番」は、音大の入試課題にも指定されるなど、かなり高度なテクニックを要します。

ツェルニー30番はいつから始めるのがいい?

「ツェルニー30番」を始めるタイミングとしておすすめなのは、ソナチネが終わり、ベートーヴェンやモーツァルトなどの古典派のソナタを練習し始める頃です。

ベートーヴェンの影響を強く受けているツェルニーの練習曲は、古典派を弾きこなすテクニックを身につけるのにピッタリと言われています。そのため、比較的難易度の低いソナタや、ショパンの簡単なワルツなどを練習し始めるタイミングで併用するとよいでしょう。

ツェルニー100番から移行する場合は、100曲すべてを練習する必要はありません。
80曲目以降は限りなく30番に近い難易度のため、抜粋しながら進め、30番に切り替えても問題ありません。

ツェルニー30番のおすすめ楽譜4選

「ツェルニー30番」と呼ばれている楽譜には、定番とされる全音版をはじめ、さまざまな出版社・編集者による版が存在しています。

ここでは、筆者厳選の4冊をピックアップし、それぞれの特徴やおすすめの理由を詳しく解説します。

ツェルニー30番練習曲/全音楽譜出版社

全音楽譜出版社の「ツェルニー30番練習曲」は、1956年の初版発売から半世紀以上に渡って親しまれている「ツェルニー30番」の定番楽譜です。

冒頭に曲集についての解説が設けられており、全体を通しての練習目的、各曲の特徴、気を付けるポイント、練習方法などを事前に確認することが可能です。譜読みの段階から注意すべきポイントを押さえられるため、効果的に練習を進められます。

さらに、曲によっては手の小さい人向けに楽譜内の記載とは異なる指使いの提案が含まれている場合も。そのため、進度の速いお子さまや小柄な方にもおすすめです。

標準新版 ツェルニー30番練習曲(田丸信明 監修)/学研プラス

学研プラスから出版されている「標準新版 ツェルニー30番練習曲」は、「ぴあのどりーむ」や「ピアノ森」の著者として知られる作曲家・田丸信明さん監修のテキストです。

子ども向け教材を数多く手掛けた田丸さんならではの見やすさに配慮した譜面や、楽曲のページに添えられた丁寧な奏法解説が特徴で、記号だけではわかりにくい装飾音の弾き方なども細かく説明されています。

さらに、切り取り付録として「リズム変奏例」が付いているため、バリエーション豊かな練習に取り組めるのも学研プラス版の魅力です。

チェルニー30番 New Edition 解説付(末吉 保雄、上杉 春雄 解説)/音楽之友社

音楽之友社の「チェルニー30番 New Edition」は、もともと定番として出版されていた「チェルニー30番」内の解説内容をより充実させたリニューアル版です。

子どもたちのピアノ教育に携わってきた作曲家・末吉保雄さんによる曲の構造や内容に関する解説を読むことで、演奏テクニックに加え、楽譜を深く読み解く力も習得できます。

また、テキスト内には、神経内科医でピアニストの上杉春雄さんによる「脳や体の構造」「ピアノ奏法や合理的な練習法」などの解説も掲載。ピアノ学習者だけでなく、指導者にとっても有益な情報が満載のテキストとなっています。

ちなみに、ツェルニーシリーズを手掛けたカール・ツェルニーは「カール・チェルニー」と呼ばれることもあり、楽譜も「ツェルニー」「チェルニー」両方のタイトルが存在します。どちらも同一の楽譜を指しており、譜面上の音は全く同じです。

ツェルニー30番練習曲(平尾妙子校訂 校訂)/ドレミ音楽出版社

ドレミ音楽出版社の「ツェルニー30番練習曲」は、全音楽出版社から出版されている「全訳ハノンピアノ教本」の訳者である平尾妙子さん校訂のテキストです。初版の出版以降繰り返し改訂されており、2019年に出版されたものが現在の最新版となっています。

練習曲に入る前に各曲の解説が掲載されており、曲の構造や弾く際の注意点が記載されているのが特徴。また、重要なパッセージ一つひとつに対する練習方法が細かく記載されているため、解説を読みながら取り組むだけでバリエーション豊かな練習が可能となります。

全音版に比べて解説文も簡潔で読みやすいため、独学でコツコツ取り組みたい方や、子どもの頃習ったツェルニーを大人になった今もう一度復習したい方におすすめです。

ツェルニー30番の練習の進め方

ツェルニー30番は、1番から練習をはじめ、ピアノ演奏に必要なテクニックや表現力を順に習得していく方法が一般的。しかし、番号順にこだわらず、同時進行で練習している他の曲集や作品に必要なテクニックを含む曲にその都度取り組むのも効果的です。

ツェルニー30番の各曲はそれぞれ異なる特徴を持ち、取り組むことで得られるピアノ技術や表現への効果もさまざまです。

たとえば、1番には「5指の均等化/右手3連符のレガート奏法」。2番には「右手の3連符のレガート奏法/軽快でやわらかいスタッカート奏法」。3番には「1指以外の運動/左手スタッカートと右手レガートの対比」といった課題が盛り込まれています。

そのため、そのときもっとも強化したい内容を含む曲を練習の冒頭に取り入れる方法もおすすめです。

ツェルニーに限らず、練習曲集は継続することでより大きな効果を得られます。毎日の練習のウォーミングアップとして10分~15分、テクニック練習に時間を割ける日はじっくり30分以上取り組むことで、上達をはっきりと実感できるようになるはずです。

さっそくチャレンジ!ツェルニー30番の1~3番までをざっくり解説

ここからは、「ツェルニー30番」の冒頭3曲をピックアップし、練習のポイントを解説していきます。

1番

1番は、三連符の右手のメロディーと、二声部に分かれた左手で構成されています。ツェルニーに限らず、練習曲では、楽譜に書かれた指番号を守ることがとても大切です。片手ずつの練習の段階で、確実に指番号を覚え、「3-4-5が転びやすい」「3-5-4がなめらかに弾けない」など、弾きにくいポイントを把握しましょう。

把握したあとは、部分的に取り出し、リズムを変えたりスタッカートにしたりしながら、練習を工夫して進めます。

2番

2番は、規則正しい三連符の伴奏の上に、軽やかな右手のメロディーが重ねられています。左手の三連符は、1音目に腕の重みを乗せ、フィンガーペダル(指で音を保って次の音につなげる奏法)をうまく機能させてなめらかにつないでいきます。

右手のスタッカートは、腕を十分に脱力して「跳ね上がる動き」と「腕が落ちる動き」を連続させ、無駄な力みを取り除きましょう。

3番

3番は、三連符の右手と、拍を刻むスタッカートの左手で構成されています。この曲の難しさは、右手の三連符の真ん中に、動かしにくい4と5の指が使われるところにあります。リズムが崩れないよう、真ん中の音を長くするリズム練習やスタッカートの練習を活用して、弾きにくさを克服しましょう。

ツェルニー30番を練習する際のチェックポイント

ツェルニー30番を使ってテクニックを着実に習得するためには、以下の5つのチェックポイントを押さえて練習に取り組むことが大切です。

①正しい姿勢・手のフォームで弾く
②指示通りの指使いで弾く
③練習範囲を細かく区切る
④楽譜内の発想記号を意識する
⑤無理のないテンポから練習を始める

①正しい姿勢・手のフォームで弾く

ピアノ演奏では指先だけでなく、腕や手首、肩など体全体を使って音を奏でます。そのため、テクニックの向上を目指すうえで、正しい姿勢や手のフォームで練習することがとても重要です。

下記記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしください。

②指示通りの指使いで弾く

ツェルニー30番では、各曲の練習効果を得るために最も効果的な指使いが記されているので、練習する際は必ず指使いを守って弾きましょう

指使いに忠実に演奏し、弾きにくさを感じる部分が見つかったら、それはテクニックの弱点克服のチャンスです。諦めず拍単位・小節単位で取り出して繰り返し練習することにより、動きにくい運指や力みやすい音形を克服することができます。

③練習範囲を細かく区切る

1曲を通して弾く練習には、脱力の上達や集中力の向上をはじめとするさまざまなメリットがあります。しかし、ひたすら通し練習を繰り返すだけでは、各曲の含まれるテクニックを身に付けるのに不十分です。

ツェルニー30番を練習する際は、音の粒がそろわない部分やリズムが崩れる部分、弾きにくさを感じる部分を中心に、範囲を細かく区切って練習しましょう

取り出した箇所がスムーズに弾けるようになったら、その前後の部分を足しても同じように弾けるか確認し、徐々に練習範囲を広げてみてください。通し練習は部分的な練習をすべて終えてから1回、あるいは練習の最初と最後に1回などと決めておくのもおすすめです。

④楽譜内の発想記号を意識する

まるでプログラミングされているかのように指が自在に動き、音の粒をそろえられるだけでは、魅力的な演奏はできません。ピアノを弾くうえで基礎的なテクニックと同等、あるいはそれ以上に重要なのが「音楽的感性」つまり表現力です。

ツェルニー30番には、テクニックの向上とあわせて豊かな表現力も身に付けられるよう、各曲に発想記号や強弱記号が記されています。練習する際は、楽譜上の音楽記号を意識し、表情豊かな演奏に仕上げましょう。

発想記号や強弱記号からは、作曲家の意図や音の起伏による自然な強弱の流れなども学べます。「練習曲」としてではなく一つの「作品」として取り組むことは、ピアノ練習の新たな楽しみ方の発見にもつながるはずです。

⑤無理のないテンポから練習を始める

各曲の冒頭には、技術面と表現面の向上効果がもっとも得られる演奏速度が記されています。しかし、メトロノームを鳴らしてみると、それが非常に速いテンポを示していることに気付くはずです。

最終的にはすべての曲を指定の速度で弾けるようになるのが理想ですが、テンポを上げることのみにとらわれていては、肝心なテクニックや表現の練習がおろそかになってしまいます。

ツェルニー30番に取り組む際は、はじめはゆっくり音の長さや運指に注目しながら譜読みし、部分的にピックアップしてテクニックの課題をクリアしたあとで、徐々に速度を上げていくのがよいでしょう。

まとめ

「ツェルニー30番」は、練習方法や表情の付け方を工夫することで、一つの作品として楽しみながら演奏力を強化できる教材です。
今回ご紹介した効果や練習のポイントを意識しながら、さまざまな曲に応用できる「生きたピアノテクニック」を身に付けていきましょう。