ブルクミュラー『25の練習曲』は、発表会で大人気の曲や、コンクールの課題に指定される名曲が収録されている練習曲集です。ピアノ学習者なら一度は手にする曲集であり、ピアノ初心者にとって憧れと言っても過言ではありません。
しかし、いざ初挑戦しようにも「いつからやればいいの?」と悩んでしまう人もいます。
そこで今回は、ブルクミュラー『25の練習曲』のレベルや始めるタイミング、練習することで得られる効果などをご紹介します!
初級テキストとしておなじみの『バイエルピアノ教則本』との違いについても触れていきますので、今「バイエル」を進めている方もぜひ参考にしてみてください。
案内人
- 古川友理名古屋芸術大学卒業。
4歳よりピアノを始め、伊藤京子、深谷直仁、奥村真の各氏に師事。
地元愛知県三河地方を中心に器楽、声楽、合唱伴奏者として活動する傍ら、島村楽器音楽教室等でピアノ講師として勤める。
目次
ブルクミュラー『25の練習曲』とは?
ブルクミュラー『25の練習曲』は、ドイツ出身のヨハン・フリートリッヒ・フランツ・ブルクミュラーが19世紀半ばに制作したピアノ初心者のための練習曲集です。彼は、フランスのパリでピアニスト・ピアノ教師・作曲家として活躍していました。
楽譜の原題は、日本語で「ピアノのためのやさしく段階的な25の練習曲ー小さな手を広げるための明解な構成と運指 作品100」と表現されています。
タイトルからも、初級レベルの小さな子どものために書かれた曲集であることがわかりますね。
対象レベルはどのくらい?
複数の楽譜出版社では、ブルクミュラー『25の練習曲』を「バイエル終了後に使用する練習曲集」と位置づけています。よって、レベルとしては、初級~中級に該当すると言えるでしょう。
ただし、曲によって難易度に差があるため、一概に「初級向け」「中級向け」とは言えません。
また、「曲順=レベル順」ではなく、ピアノ演奏で必要となる複数の要素が各曲に散りばめられているため、曲の特徴や練習目的を理解したうえで選曲し、順番にこだわらず進めていくことをおすすめします。
ブルクミュラー『25の練習曲』に取り組む効果
ブルクミュラー『25の練習曲』に取り組むことで、以下の効果が期待できます。
- 表現力や音楽性を身につけられる
- 速度記号や強弱記号などの楽典要素を学べる
- メロディーとその他のバランスを聴きながら弾く力を身につけられる
- 曲に合った腕や指、体の使い方を習得できる
- ペダリングを習得できる
多くのピアノ初心者にとって、ブルクミュラーは「はじめて触れる表情のある曲集」と言えます。テクニックや譜読みの練習を地道に重ねた初級から、中級に進む過程で取り組む、ピアノ曲らしい作品なのです。
上記のような効果を得られるのはもちろん、「ピアノ作品の美しさ」や「ピアノ演奏の楽しさ」を実感できる曲集でもあります。
ブルクミュラー『25の練習曲』と「バイエル」の違い
初心者向けのピアノ教材として知られるブルクミュラー『25の練習曲』と、「バイエル」について、さまざまな視点で比較してみました。
ブルクミュラー25の練習曲 |
バイエル |
|
曲数 |
25曲 |
106曲 |
曲集の構成 |
曲順=レベル順とはいえない |
第1過程(1~64番)第2過程(65~106番)と明確に分けられている |
譜表 |
ト音譜表+ヘ音譜表 |
1~65番:ト音譜表のみ 66番以降:ト音譜表+ヘ音譜表 |
導入 |
両手奏 |
片手奏 |
譜面の特徴 |
強弱記号・表現記号・速度記号が細かく明記されいる |
1~52番:強弱記号なし 53番以降:強弱記号が記載されている |
曲のスタイル |
左右それぞれがメロディー、あるいは途中で入れ替わる曲が多く含まれている |
右手が伴奏、左手がメロディーの曲が多い |
主に習得できること |
・表現力 ・音楽性 ・音のコントロール力 ・読譜力 ・ペダリング |
・5指の独立・強化・なめらかな運指 ・読譜力 ・正しい手のフォーム ・表現力(後半) |
2つの練習曲集は、曲の性格や練習することで得られる効果などの点で大きく異なります。
ブルクミュラー『25の練習曲』は、「バイエル」で身につけた基礎的なテクニックや読譜力を定着させ、さらに表現力を身につけるための曲集として活用しましょう。
ブルクミュラー『25の練習曲』│曲名一覧
ブルクミュラー『25の練習曲』の各曲には、それぞれのイメージにピッタリの曲名が付けられています。
- 素直な心(La cnadeur)
- アラベスク(Arabesque)
- 牧歌(pastorale)
- 子供の集会(Petite reunion)
- 無邪気(Innocence)
- 進歩(Progres)
- 清い流れ(Courant limpide)
- 優美(La gracieuse)
- 狩猟(La chasse)
- やさしい花(Tendre fleur)
- せきれい(La bergeronnette)
- さようなら(Adieu)
- なぐさめ(Consolation)
- スティリアの女(La Styrienne)
- バラード(Ballade)
- 小さな嘆き(Douce plainte)
- おしゃべり(Babillarde)
- 心配(Inquietude)
- アベ マリア(Ave Maria)
- タランテラ(Tarentelle)
- 天使の声(Harmonie des anges)
- 舟歌(Barcarolle)
- 帰途(Retour)
- つばめ(L’ hirondelle)
- 貴婦人の乗馬(La chevaleresque)
※全音楽譜出版社の楽譜より引用
出版社によって日本語訳が異なる場合がありますが、曲名からイメージを膨らませられる点は、ブルクミュラーの特徴であり、初心者でも取り組みやすい理由の一つと言えるでしょう。
難易度順に見るブルクミュラー『25の練習曲』
ブルクミュラー『25の練習曲』の各曲を、★1つから4つのレベル別に分けてみました。
難易度 |
曲番号:曲名 |
★ |
1:素直な心 2:アラベスク 3:牧歌 5:無邪気 16:小さな嘆き |
★★ |
4:子供の集会 6:進歩 8:優美 9:狩猟 10:やさしい花 |
★★★ |
7:清い流れ 11:せきれい 13:なぐさめ 14:スティリアの女 15:バラード 17:おしゃべり 18:心配 19:アベ マリア 21:天使の声 23:帰途 |
★★★★ |
12:さようなら 20:タランテラ 22:舟歌 24:つばめ 25:貴婦人の乗馬 |
上記の表は、筆者が実際に生徒のレッスンで、あるいは自身で演奏して感じた主観に基づくものです。
「運指」「表現」「ペダリング」など、それぞれの曲にタイプの異なる難しいポイントが含まれています。
ブルクミュラー『25の練習曲』は、1番から順に進めていく必要はありません。
取り組む際は、その曲としてのレベルだけで判断せず、克服したいポイントや強化したいテクニック的要素が含まれているかに注目して選曲すると、より効果的に練習することができます。
ブルクミュラー『25の練習曲』│演奏のポイント
ここからは、ブルクミュラー『25の練習曲』の中でも特に人気の高い6曲をピックアップし、それぞれの演奏のポイントを解説していきます。
1:素直な心
『素直な心』は、冒頭に8小節間の長いスラーか書かれたレガート奏法の練習曲です。メロディーラインの音の大きさを揃え、音と音の間に隙間ができないよう、横の流れを意識して演奏しましょう。
左手の和音の変わり目で、ペダルを薄く入れると、より美しい流れでができあがります。
2:アラベスク
歯切れのよい左手の刻みと、はっきりと粒の立った16分音符のメロディーが印象的な『アラベスク』。Allegro scherzando(快速に、たわむれるように)の非常に速いテンポの曲で、左手にメロディーが移った12小節目から、より速さについていけなくなる人が続出します。
はじめはテンポを落として、音の転びやキレの悪さを取り除く練習を徹底的に行い、徐々にリズム練習などを取り入れながらテンポアップしましょう。
5:無邪気
分音符のなめらかな下行形のパッセージや音階で構成された『無邪気』。下行形はリズムが前のめりになって崩れやすいため、拍の頭にほんの少し重心を感じながら弾いていくと、音が滑りにくくなります。
繊細な右手のメロディーを、左手の伴奏でかき消してしまわないよう、音量のバランスも十分注意しましょう。
15:バラード
『バラード』は、物語風の曲を意味する言葉です。曲名のとおり、急き立てるような冒頭から、穏やか温かい雰囲気の中間部へ、そして再び激しさを伴った冒頭の音楽が戻ってくるといった、ドラマ性の強い楽曲となっています。
表現の切り替えを明確にすることと、メロディーを邪魔せず軽やかに伴奏の和音を弾ませることがポイントです。
20:タランテラ
『タランテラ』は、8分の6拍子、または8分の3拍子で作られたイタリア・ナポリ地方の動きの激しい舞曲です。この曲でもっとも課題となるのは、17小節以降で連続する、2つの8分音符の間の8分休符。
長くとりすぎると付点リズムに聴こえ、短すぎると音が詰まってリズムとテンポが崩れます。
また、両手のタイミングを合わせるのも難しいため、まずはゆっくりとしたリズム練習からはじめ、休符やリズムを正確にとらえられるようにしましょう。
25:貴婦人の乗馬
最終曲『貴婦人の乗馬』は、ブルクミュラー『25の練習曲』の総まとめのような曲です。腕と指を脱力させて弾く軽やかなスタッカートや、2音間のなめらかなスラー、クレッシェンドしながら駆け上がる音階、細やかな強弱表現など、ピアノ演奏で重要なさまざまな要素が盛り込まれています。
曲集を通して学んだテクニックと表現力を再確認しつつ、全体が一つの物語のようにつながるよう、丁寧に演奏しましょう。
ブルクミュラー『25の練習曲』│楽譜や解説本の情報
ブルクミュラー『25の練習曲』は、複数の出版社から販売されています。
定番や人気の楽譜は、以下をご参照ください。
【楽譜】
ブルクミュラー25の練習曲(北村智恵 解説)/全音楽譜出版社
ブルクミュラー25の練習曲 NewEdition 解説付(江崎 光世 著、 春畑 セロリ 解説)/音楽之友社
標準新版 ブルグミュラー25の練習曲(田丸信明 編纂)/学研プラス
【子ども向け】
こどものためのブルクミュラー <25の練習曲>(森本琢郎 著)/ドレミ楽譜出版社
新 こどものブルクミュラー 25の練習曲:表現力がぐんぐん育つ!はじめてのイメージトレーニング(松本倫子 編集)/全音楽譜出版社
【解説本】
ブルクミュラー25の練習曲 和声分析と奏法のアドバイス きれいに楽しく弾くために(六島礼子 著)/ハンナ
まとめ
ブルクミュラー『25の練習曲』は、「初級から中級へのステップアップ」のために必要な表現力や音楽性を身につけられる練習曲集です。
強弱や表現について細かく書き込まれた楽譜にはじめは戸惑うかもしれません。しかし、それらを理解して弾けるようになったころには、表現の幅が広がり、よりピアノ演奏を楽しめるようになっているでしょう。
これからブルクミュラーに挑戦する方は、ご紹介した演奏のポイントを参考にしつつ、曲に対するイメージを十分に膨らませながら練習してみてくださいね。