疲れた心に染みるショパンの美しい「ノクターン」。

映画やテレビ、ラジオから流れてきた旋律に、あなたも思わずほろっとしてしまったことがあるのではないでしょうか。一度は弾いてみたいと思う名曲ですよね。

そこで本記事では、ショパンがノクターンを作曲した背景や、各曲を演奏する際のポイントについて詳しく解説します。

ショパンが残したノクターンは、全部で21作品。それぞれの演奏動画とあわせてダウンロード可能な無料楽譜もご紹介しますので、ぜひ今後の練習にお役立てください!

案内人

  • 古川友理名古屋芸術大学卒業。
    4歳よりピアノを始め、伊藤京子、深谷直仁、奥村真の各氏に師事。
    地元愛知県三河地方を中心に器楽、声楽、合唱伴奏者として活動する傍ら、島村楽器音楽教室等でピアノ講師として勤める。

    詳しくはこちら

ショパンのノクターン作品についての概要解説

フレデリック・ショパンは、20歳前後の頃から晩年にかけて21のノクターンを作曲しました。これらは一般的にピアノの短いソロ作品の中でも最高のものと言われており、現代のコンサートレパートリーにおいて重要な位置を占めています。

ノクターンは元々、アイルランドの作曲家ジョン・フィールドが開発した形式ですが、ショパンが「ノクターン」という作品として残したことで、クラシック音楽における重要な形式の一つとして、より広く認知されることとなりました。

ショパンのノクターンは1から18までの番号が付けられ、彼の生涯の間に作曲順に2つまたは3つずつ公開されました。しかし、19番と20番は実際にはショパンがポーランドを離れる前に最初に書かれたもので、死後に公開されたものです。

ショパンのノクターン、特に初期の作品には、ジョン・フィールドの作品の影響が色濃くみられます。その特徴の一つが、右手で歌うようなメロディを奏でることです。

これはノクターン全体の最も重要な要素といえるもので、メロディをボーカルのように使用することで、聴き手をより引き込む深みをおびた作品に仕上げられています。

ショパンのノクターンが初めて公開されたとき、音楽批評家からは賛否両論の声があがりました。しかし、時間が経つにつれて、多くの人々が以前の批判を撤回し、作品を高く評価するようになりました。

クラシック作品として高く評価されているだけでなく、耳をくすぐる美しさから、映画やCMの挿入曲としても広く親しまれているショパンのノクターン。

特に下記作品は、その美しさと琴線に触れる曲調で多くの人々に愛されています。

ノクターン第2番 変ホ長調 作品9-2

ノクターン第8番 変ニ長調 作品27-2

ノクターン全作品の演奏方法の解説と楽譜を紹介

各曲の項目にて、無料の楽譜も案内しますので、そちらも御覧ください。

ノクターン第1番 変ロ短調 作品9-1

難易度:★★☆☆☆

ショパンのノクターンとして最初に出版された、3曲から成る『ノクターン 作品9』。1曲目の第1番は、アウフタクトではじまる哀愁を帯びた旋律が印象的な作品です。

伴奏のアルペジオの音域が広く粒をそろえるのが難しいため、指だけでなく肘の左右の動きも使って、音がでこぼこしないよう練習してみてください。

ノクターン第2番 変ホ長調 作品9-2

難易度:★☆☆☆☆

「ショパンのノクターンといえばこの曲!」という方も多いのではないでしょうか?ショパン作品の中で最も有名な作品の一つである第2番は、同時代を生きた作曲家エクトル・ベルリオーズの元婚約者で、世界的ピアノメーカー「プレイエル」の社長カミーユ・プレイエルの妻マリーに献呈された作品です。1956年公開の映画『愛情物語』のテーマ曲として使用されたことで、より広く知られることとなりました。

優美な旋律が変化をともないながら繰り返されるロンド形式の本曲は、譜読みも暗譜もしやすく高度なテクニックを求められるフレーズも少ないため、ショパンのノクターンの中でも演奏しやすい作品といわれています。甘美なメロディをレガートでなめらかに、そしてペダルを効果的に使って流れをきれいにつなぐことを意識しながら、美しい演奏に仕上げましょう。

ノクターン第3番 ロ長調 作品9-3

難易度:★★★★☆

作品9の先の2曲に比べ、演奏される機会が少ない第3番。しかし、充実した内容から隠れた名曲とも言われており、ピアノの軽やかで繊細な音色を生かしたきらめくメロディが、聴く者の心を穏やかにしてくれます。

終盤のAdagio前に出てくるカデンツァは、この曲の聴かせどころの一つです。3度の重音で音が飛び出さないよう、手首をやわらかく使いながら音をコントロールしましょう。

ノクターン第4番 ヘ長調 作品15-1

難易度:★★★☆☆

ショパンのノクターン2作目として出版された作品15の1曲目。子守歌のような穏やかさと嵐のような激しさを併せ持つ作品です。

ドラマを感じさせるメリハリのある演奏になるよう、テクニック的な練習だけでなく、音質や細かな表現にもこだわって仕上げてみてください。

ノクターン第5番 嬰ヘ長調 作品15-2

難易度:★★★★☆

晴れやかな曲調が魅力的な第5番は、演奏会やコンクールでも頻繁に取り上げられる人気の一曲です。

穏やかな雰囲気の作品ですが、装飾音や連符が曲全体にちりばめられているため、演奏の難易度は聴いて受ける印象よりも高め。鍵盤をなでるように軽やかに演奏できるよう、細かい音の部分を取り出して丁寧に練習してみてください。

ノクターン第6番 ト短調 作品15-3

難易度:★☆☆☆☆

ショパンの21のノクターンの中で最もマイナー、そして最も弾きやすい作品といわれる第6番。コラールのような中間部や、長調の和音に向かっていく終盤部分からは、教会音楽のような印象も受けます。

装飾がなくシンプルな譜面なので、譜読みに不安がある方にとって挑戦しやすい作品と言えるでしょう。

ノクターン第7番 嬰ハ短調 作品27-1

難易度:★★★★★

1835年に作曲され翌年に出版された作品27の2曲は、いずれもノクターンの中で非常に難易度が高いことで知られています。1曲目の第7番は、重苦しい伴奏と不穏な雰囲気を醸し出す旋律が印象的な主題から始まり、激しい中間部を経て、美しい長調のメロディが曲の終わりを告げる壮大な作品です。

曲想の変化に注目し、楽譜に書かれている速度記号や発想記号を確実に読み取りながら、ドラマティックな演奏に仕上げましょう。

ノクターン第8番 変ニ長調 作品27-2

難易度:★★★★★

第7番と並んで難易度が高い作品とされている第8番は、重音の連符や跳躍を含む伴奏形、細かい装飾的なパッセージなどがちりばめられた難曲です。

ヴァイオリンのような印象的な旋律を持つこの曲には、「とあるヴァイオリニストがショパンに自作曲を聴かせた際、その演奏を受けてショパンが創作した」という逸話が残されています。

ノクターンの中で第2番や第20番に次いで人気の高い曲としても知られており、演奏会でも演奏される機会の多い作品ですが、弾きこなすのは決して簡単ではありません。高度なテクニックを必要とする要素が詰まっているため、地道な基礎練習が重要なカギとなるでしょう。

ノクターン第9番 ロ長調 作品32-1

難易度:★★☆☆☆

夢見心地な旋律が美しい第9番は、1837年に作曲された作品32の1曲目。ノクターンの中でも比較的難易度が低い作品ですが、ショパンらしい優美な旋律や穏やかな曲想をじっくり味わえる一曲です。

この曲で印象的なのは、他のノクターンには見られない歩みを止めるようなフェルマータです。ただの休止にならないよう、前のフレーズの余韻に十分に浸ってから次のフレーズに進みましょう。

ノクターン第10番 変イ長調 作品32-2

難易度:★★★☆☆

ワルツのような軽やかな雰囲気を持つ第10番は、安定感のある素朴で落ち着いたメロディが印象的な作品です。

平和な主題部分に対して、中間部はたたみかけるような劇的で情熱的な曲調に変化します。スケールの大きな演奏を目指して、強弱や緩急をたっぷりつけて、変化を明確に表現しましょう。

ノクターン第11番 ト短調 作品37-1

難易度:★☆☆☆☆

1838年から1839年にかけて作曲された作品37。1曲目の第11番は、哀愁漂う旋律に胸が締め付けられる切ない一曲です。

装飾が多用されていますが、ゆったりとした曲調で複雑なリズムも使われていないため、比較的取り組みやすい作品といえるでしょう。コラールのような美しい中間部では、和音の上声を響かせることに意識を向けてみてください。

ノクターン第12番 ト長調 作品37-2

難易度:★★★★☆

舟歌のような穏やかな雰囲気を持つ第12番。非常に美しい旋律ですが、3度や6度の半音階的進行をなめらかに演奏するためには、テクニックの基礎練習が欠かせません。

部分的に取り出すのはもちろん、3度進行や6度進行を含むツェルニーなどの練習曲でウォーミングアップしてから練習することをおすすめします。

ノクターン第13番 ハ短調 作品48-1

難易度:★★★★★

恋人のジョルジュ・サンドと、フランスのノアンで心身ともに充実した日々を送っていた時期の作品といわれている作品48。1曲目の第13番は、華やかさと力強さをともなう難易度の高い一曲です。

特に中間部のオクターブの連続や、内声の和音を連打しながら旋律を奏でる再現部は、力みが少しでもあれば破綻してしまいます。オクターブの基礎練習などを取り入れながら、脱力を意識して練習してみてください。

ノクターン第14番 嬰ヘ短調 作品48-2

難易度:★★★☆☆

ショパンのノクターンの中で最も長い演奏時間を要する第14番は、バラード風の旋律が印象的な叙情的な作品です。

深みのある味わい深い曲ですが、和音や装飾が少ないため、ただ音を追うだけでは単調な演奏になりがち。上行形でクレッシェンド、下行形でディクレッシェンドなど、音形にあわせた細かいニュアンスを意識しながら弾くと、より表情豊かな演奏に仕上がるでしょう。

ノクターン第15番 ヘ短調 作品55-1

難易度:★★★☆☆

1844年に出版され、弟子のジェーン・ウィルヘルミナ・スターリングに献呈された作品55。1曲目の第15番は、静かに深い悲しみを訴えるような旋律に胸を締め付けられる、切なさに満ちた作品です。

主題が再びあらわれる終盤部分では、3連符の右手を正確にコントロールすることが求められます。力みなく演奏できるよう、リズム練習などを取り入れながら音の粒を揃えていきましょう。

ノクターン第16番 変ホ長調 作品55-2

難易度:★★★★☆

まわりをパッと照らすような明るいB音、そして続くトリルが印象的な第16番。自由な形式や細かく転調を繰り返す和声進行は、明るく晴れやかな気持ちの中に見え隠れするショパンの不安定な心情をあらわしているのかもしれません。

装飾音やトリルなどのテクニック面だけでなく、複雑な和声進行をどのように捉え表現するかといった表現面にも注目しながら、曲への理解を深めていくとよいでしょう。

ノクターン第17番 ロ長調 作品62-1

難易度:★★★★★

ショパンの生前最後に出版されたノクターンとなった作品62。1曲目の第17番は、2021年のショパン国際コンクールで第2位となった反田恭平さんが1次予選で演奏した作品です。

トリルで主題が奏でられる再現部を安定的に美しく弾くのは至難の業!トリルを力みなく続けられるよう、指の基礎練習を丁寧に行いましょう。

ノクターン第18番 ホ長調 作品62-2

難易度:★★★★☆

穏やかで優美な旋律からはじまる作品62の2曲目、第18番。ショパンの名曲『練習曲作品10-3』を思わせる中間部は、3声、あるいは4声で構成されており、弾きこなすのが難しい部分なので、声部を一つずつ取り出してそれぞれの動きを意識しながら練習してみてください。

ノクターン第19番 ホ短調 作品72-1

https://youtu.be/Wx0jkZdQwN8?si=SZA_WPtxWSMEPqm4

難易度:★★★☆☆

1827年、ショパンが17歳の頃に作曲した最初のノクターンとされている第19番。ショパンの死後、友人のユリアン・フォンタナによって出版されたため、生前に発表された作品に続く番号が付けられています。

同じ形で繰り返される伴奏の音の粒をそろえ、哀愁漂う切ないメロディをよく歌いながら演奏しましょう。

ノクターン第20番 嬰ハ短調 遺作

難易度:★★☆☆☆

2002年公開の映画『戦場のピアニスト』での演奏シーンが大きな話題となり、クラシックファンに限らず広く知られることとなった第20番。

嘆きのような旋律を情感込めて演奏できるよう、時代に翻弄されたショパンの生涯を思い浮かべたり、自分なりに深い悲しみや切なさなどを具体的にイメージしながら曲と向き合いましょう。

ノクターン第21番 ハ短調 遺作

難易度:★★☆☆☆

「ショパンの最晩年の作品である」「形式が単純なため初期の作品である」など、作曲年代についてさまざまな説がある第21番。構成や和声がシンプルなぶん弾きやすい作品と言えますが、単調にならないよう旋律の歌い方や緩急の付け方を工夫する必要があります。

まとめ

39年という決して長くはない生涯で、21のノクターンを残したショパン。

ショパンのノクターンと聞いてイメージする曲はそれぞれ異なるかもしれませんが、いずれも美しい旋律が印象的な珠玉のピアノ作品であることに代わりはありません。

「癒しを与えてくれたノクターンを、自分で演奏できるようになりたい!」

そんな方におすすめなのは、最も有名な第2番や、ノクターンの中でいちばん難易度が低いとされている第6番です!

本記事でご紹介した難易度や演奏のポイントを参考にしながら、憧れのノクターンの演奏をぜひ楽しんでみてください。