コンサートや音源のみならず、テレビ番組やネット動画など、さまざまな場面で聴くことのできるクラシック音楽。パッと1曲思い浮かべてみてください。それがいつ作られたのか、スムーズに答えられますか?

クラシック=古典的という意味ではありますが、その古典を指す時代の範囲は広く、例えばバッハとショパンでは活動時期に100年以上の開きがあります。となれば、それぞれ時代背景も異なるわけで、これを理解すると楽曲への理解も一層深まるでしょう。

そこで本記事では、西洋におけるクラシック音楽の歴史を解説します。時代ごとの象徴的な出来事や音楽の特徴、代表的な音楽家なども紹介するので、クラシック音楽をもっと楽しむための参考にどうぞ。

案内人

  • 笹木さき音楽大学の短期大学部で作曲とジャズピアノを専攻。現在は芸術専門図書館で司書として働く傍ら、ライターとして活動中。

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そもそもクラシック音楽とは?

クラシック音楽とは、西洋の伝統的な芸術音楽の総称です。

前述のようにクラシックには古典的という意味があり、年代としては1500年半ば~1900年ごろを指すことが多いです。ただ、それより前後の音楽や、ヨーロッパ外で作られた同様の様式の音楽まで含まれるケースもままあります。

以上を前提に、次項ではクラシック音楽の歴史について見ていきましょう。

西洋におけるクラシック音楽の歴史を年表で見ていこう!

クラシック音楽は長い歴史の中で、音階・メロディー・ハーモニー、そして、それらを可視化した楽譜など、音楽の基礎的要素を生み出し発展させてきました。こうした要素には時代ごとにある程度共通した特徴があり、様式で区分する際の基準にもなっています。

ここからは、西洋におけるクラシック音楽の歴史について、代表的な時代区分をとりあげながら、各時代の特徴や活躍した音楽家などを解説していきます。

古代

5世紀以前の音楽は、一般的に「古代音楽」と呼ばれます。

起源は諸説ありますが、遅くとも紀元前5世紀ごろには古代ギリシアの詩人・ピンダロスによって祝勝歌(競争等での勝利を祝ってうたう歌)が作られています。当時のギリシア地方には音楽(music)の語源となった「mousike(ムーシケー)」と呼ばれる概念があり、音を奏でることは、詩や踊りとともに存在していました。

その後、表現方法やテクニックが磨かれ、西欧をはじめとする各地域へ広まっていきます。

中世

6世紀から15世紀頃の音楽を「中世音楽」といいます。

この時代はキリスト教の宗教音楽が盛んで、例えばグレゴリオ聖歌という礼拝に用いられる聖歌などがつくられました。

9世紀以降には記譜法(楽譜を書くための一定の規則)が発達し、それまで口頭で伝えられていた宗教音楽が広く普及しました。現在使われている楽譜の記譜法は、イタリアの聖歌教師であるグイード・ダレッツォが11世紀に発明したと言われています。

14世紀に入ると音楽が世間一般に広まり、教会とは無関係の貴族や吟遊詩人(詩や曲を作り、各地を訪れて歌う人)による音楽活動が行われました。この時代の有名な作曲家にはマショーやランディーニがいます。

ルネサンス

15世紀から16世紀ごろの音楽を「ルネサンス音楽」と呼びます。
キリスト教の影響力が低下し、世俗的な文化や経済活動が盛んになった時代。音楽も宗教と切り離された様式が大きく発展し、イタリアのマドリガーレやフランスのシャンソンといった世間一般で親しまれる曲が生まれました。

また、自らを「芸術家」と称する作曲家が現れます。ルネサンス音楽を主導した作曲家には、ブルゴーニュ楽派のバンショワやデュファイ、フランドル楽派のオケヘムやジョスカンなどがいます。

さらに15世紀後半、グーテンベルクが開発した活版印刷(ハンコやスタンプのような印刷方法)によって楽譜が市民の間にも普及し、音楽がより身近な存在になっていきました。

バロック

16世紀末〜18世紀半ばにかけての音楽は「バロック音楽」に分類されます。絶対王政の時代、主に宮廷用音楽として作られたとあって、ダイナミックかつ優雅というのが大きな特徴です。

当時はリュートやオルガンが流行。また、1709年にはイタリアのバルトロメオ・クリストフォリによって、今日のピアノの原型となる楽器が発明されています。

楽器とともに器楽も発達し、組曲やフーガといった新しい様式が生み出されました。器楽と音楽劇が組み合わさったのもバロック期で、初の本格オペラ作品「オルフェオ」をモンテヴェルディが発表しています。オペラの音楽を支える演奏形態としてオーケストラが発展したのもこの頃です。

ほかにバロック時代で有名な音楽家には、クープラン、スカルラッティ、ヘンデル、テレマン、バッハなどがいます。

https://youtu.be/tToYkh_esAU


古典派

18世紀半ば〜19世紀前半の音楽を「古典派音楽」と呼びます。

市民革命を経た社会情勢の変化によって、主に宮廷で演奏されていた音楽は市民にも広く開かれつつありました。庶民的で分かりやすいことが特徴の古典派音楽は、王侯貴族向けで荘厳なバロック音楽への反発ともいえます。

この時代には形式が重視され、ソナタ形式やロンド形式といった、現在にも通じる型が成立しています。また、交響曲や協奏曲も盛んに作られました。

古典派時代を象徴する音楽家といえば、ウィーンで活躍したハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの3人でしょう。特にハイドンは、交響曲やソナタ、弦楽四重奏などの基本形式を確立させ、西洋音楽の歴史の中でも重要な位置づけにあります。

ロマン派

19世紀から20世紀初頭にかけての音楽を「ロマン派音楽」といいます。

古典派の拡大発展版とみなし、両者を区別しない意見も存在します。ただ、ロマン派音楽では既存の形式にとらわれない構成や、不協和音・半音階技法・遠くの調への転調といった技法がよく使われました。もう一つの大きな特徴として、自身の持つ感情を曲で表現するということが挙げられます。

これらにより、古典派に比べて感覚的で自由度の高い楽曲が多数生まれています。例えば、オペラ演目やピアノ小品、歌曲など。これらは現在でも世界中で人気です。

このころ活躍した作曲家には、シューベルト、シューマン、ショパン、リスト、ブラームス、プッチーニ、ベルリオーズ、チャイコフスキーなどがいます。


国民楽派

ロマン派は、ナショナリズム(国家主義)の勢いが増してきた時期に発展した音楽です。そこからさらに、自国の民謡や形式などを取り入れて民族のアイデンティティを主張する作曲家、いわゆる「国民楽派」も現れました。

印象主義

19世紀の末、ロマン派への反発から「印象主義」と呼ばれる様式がフランスにて生まれました。

印象主義音楽では、感情ではなく情景や雰囲気の表現が重視されます。このために、全音音階や不協和音、あいまいな調性といった新しい技法も開発されました。

印象主義の代表的な作曲家には、ドビュッシーやラヴェルがいます。


近代音楽

「近代音楽」は、20世紀はじめから第二次世界大戦が終わる1945年までの音楽を指します。

この時代には「ロマン派を継承する音楽」と「ロマン派からの脱却目指す音楽」がせめぎ合っており、音楽作品に一貫した風潮が見られません。どちらを模索するにせよ、作曲家たちは試行錯誤を繰り返し、調性の定まらない個性的な曲や大衆音楽の要素を取り入れた曲、不協和音を多用する曲などを生み出しました。

近代の作曲家では、シェーンベルク、ガーシュウィン、ストラヴィンスキーなどが有名です。

現代音楽

第二次大戦終結から現在にいたるまでの音楽を「現代音楽」と呼びます。

画一的な様式はなく、定義が非常にあいまいです。音楽のさらなる可能性や自由な表現を突き詰めた結果、調性や形式が廃された作品も多いため「現代音楽は難しい」と感じる人は少なくありません。

現代音楽の代表的な作曲家には、ジョン・ケージ、フィリップグラス、メシアンなどがいます。中でもジョン・ケージは「偶然性の音楽」という概念に基づき、西洋音楽史上もっとも独創的な作曲法を取り入れた人物として知られています。

まとめ

本記事ではクラシック音楽の歴史について、様式を時系列順に並べながら解説してきました。

今回述べた特徴は、あくまで一般的な傾向です。作曲家や楽曲によってはそこから逸脱することも珍しくなく、特に近代以降は分類が困難になっています。

とはいえ、本文の内容で基本的な歴史は押さえられるはずです。興味の出た時代や作曲家について、もっと掘り下げて調べてみるのも良いでしょう。