「ピアノを始めてみたいけれど、いきなりアコースティックピアノを買うのは……」
「まずは電子ピアノから試してみたいけれど、どれが自分にピッタリなのか分からない」
コンパクトで消音機能もついている電子ピアノは、比較的価格も安く誰でも利用しやすいのがメリット。しかし、じっくり考えずに購入した人の中には、買って後悔している人も少なくありません。
購入後に「買ってよかった」と思えるようにするためにはどうすればよいのか、フランスと日本でピアノを学んだ筆者が電子ピアノ選び方で失敗しない方法を解説します!ぜひ機種の決定に役立ててください。
案内人
- 駒井恵神戸女学院大学音楽学部を卒業後、パリ・エコールノルマル音楽院およびパリ郊外の音楽院にてピアノ科及びピアノ伴奏科の高等教育演奏家資格を取得後、現地の音楽院にて6年以上に渡り教鞭を執る。フランス・マイエンヌ国際ピアノコンクールファイナリスト。
目次
買って後悔しないための電子ピアノの選び方
一言に電子ピアノといっても、種類や型番、メーカーなども様々で、どれが一番自分に合っているのか選び抜くのは難しいですよね。他の人に合っていたとしても、それが自分に合っているのかどうかは分かりません。マンション、アパート、一戸建てなど暮らしの生活スタイルによっても変わってきます。
今回は、あなたが実際に電子ピアノを購入する際に失敗しない選び方と、それぞれのメーカーの違い、選択時に判断すべきポイントなどについてご紹介します。
あなたはどれを優先?電子ピアノ購入時に考えたいポイント
本物に近いかどうか
電子ピアノを購入する上でまず考えたいのが、「本物に近いかどうか」ということです。理由として、本物のピアノのタッチは電子ピアノよりも重いことが多く、また演奏者自身の耳で聞く音の広がりも本物のピアノの方が奥行きがあり響きも綺麗に聞こえます。そのため、まずは「タッチ」と「聞こえ方」が実際のピアノに近いかどうか、の2点を考慮することが重要になります。
ピアノといっても「アップライト」「グランドピアノ」の2種類ありますので、その電子ピアノがアップライトに近いかどうか、またグランドピアノに近いかどうかなどでも好みや意見の差が分かれてきます。
実際に電子ピアノを選ぶ際の具体的なポイントを下記に挙げましたので、ぜひ参考にしてみてください。
タッチの違い
タッチは、できる限り本物に近い「重め」のものを選びましょう。とくに、上級者やコンクール出場を目標としている方は、本物のピアノに近い重めのタッチのものがおすすめです。これにより、本番で本物のピアノを弾く際に、練習時との違い(トリルや速弾きなど)によるギャップを最小限に抑えることができます。
ただし、子供や初心者の方は重めのタッチのピアノは弾きにくい場合がありますので、まずは軽めのソフトなタッチの電子ピアノで練習するのも一つの選択肢です。
演奏者本人の目的や習熟度に合わせて、タッチが本物に近い電子ピアノを選ぶかどうかを決めましょう。
鍵盤の素材や数
電子ピアノの鍵盤の素材には、主に「樹脂製鍵盤」「木製鍵盤」「ハイブリッド式鍵盤」の3種類があります。違いは以下の通りです。
樹脂製鍵盤 |
樹脂でできている鍵盤で、エレクトーンのようにとても軽いタッチが特徴 |
木製鍵盤 |
木材を使用した鍵盤で、樹脂製よりは重く、アコースティックピアノよりは軽いのが特徴 |
ハイブリッド式鍵盤 |
樹脂と木材を合わせた鍵盤で、耐久性と温かみのあるキータッチをバランスよく両立しているのが特徴 |
通常、ピアノの鍵盤数は88鍵で、電子ピアノも同じく88鍵のものがほとんどです。
76鍵、61鍵など、鍵盤数の少ないキーボードもありますが、電子ピアノを購入する目的であればやはり本来の88鍵のものを選ぶようにしましょう。
ペダルの数
アコースティックペダルには、本来「ダンパーペダル」「ソフトペダル」「ソステヌートペダル」の3つがあります。電子ピアノの場合は音を伸ばすことができる「ダンパーペダル」のみの場合と、全てのペダルが備わっているタイプに分けられます。
この中でも一番重要なのは、音を響かせてなめらかに繋ぐことができる「ダンパーペダル」です。ピアノ初級者はこのダンパーペダル1本でも難なく演奏することが可能ですが、中・上級者になると他の2つのペダルも併用した方が曲のバリエーションや演奏の幅も広がりますので、自身のレベルや演奏したい曲などに合わせてペダルの種類や数を選びましょう。
同時発音数
電子ピアノには「同時発音数」と言って、一度に同時に鳴らせる音の数に限界があります。
この同時発音数を超えて鍵盤を押さえると、先に押さえた音からどんどん切れていき、新しく押した音が次々と発音されます。
通常は128音が一つの目安ですが、64、120、128、192、256、384以上があり、無制限というモデルも存在します。電子ピアノの場合はステレオ出力のため、1つの鍵盤を押さえた時の同時発音数は「2」カウントです。つまり一番少ない64音タイプのものでも、同時に発音できる鍵盤数は32個分となります。
同時発音数は多いに越したことはありませんが、自身の演奏目的や曲のレベルなどに合わせて最適なモデルを選びましょう。
スピーカーの数
電子ピアノはアコースティックピアノの音色をそのままサンプリング(録音)したものを音源にしており、それを外部に出す(出力)役割をしているのがスピーカーです。
スピーカーの数は2、4、6、8個など種類があり、多ければ多いほど臨場感と奥行きのある音色が表現できます。スピーカーの質や位置によっても音の響き方や聞こえ方が異なるので、実際に店頭で試し弾きを行い、自分が一番心地良いと感じたピアノを選ぶのがおすすめです。
持ち運びしやすさ
電子ピアノには「キャビネットタイプ(据置タイプ)」と「卓上タイプ(ポータブルタイプ)」の2種類のタイプが存在します。
キャビネットタイプ:キャビネット(机・棚)のように、がっしりとした鍵盤脚があり、アップライトピアノと似たような胴体の作りが特徴
卓上タイプ:机やテーブルなどの上に置ける、持ち運びのできるタイプ
持ち運びのし易さではコンパクトな卓上タイプと言えますが、タッチや本物に近いピアノの演奏感を求めるならキャビネットタイプがおすすめです。
価格帯
電子ピアノの価格は、10万〜50万ぐらいまで幅があるため、それぞれのニーズやレベルに合わせて検討すると良いでしょう。通常の練習や、レッスン用なら20万〜25万クラスが最も人気でおすすめです。
基本的に値段が高くなればなるほど機能数も増え、アコースティックピアノの音色やタッチに近いものとなります。モデルによって特化している部分が違ったりするので、自分が何を求めているのかを明確にしてから選ぶことが大切です。
10万円以下
10万円以下のものは電子ピアノの中でも安い方で、機能やタッチ感にこだわりのない方や、お子様や初心者の方におすすめです。
特徴としては、スピーカーは最小の2つで、鍵盤はプラスチック性の軽めのタッチで作られていることが多く、内蔵されている機能や音色も多くはありません。予算の都合や、自分の求めている演奏レベルと照らし合わせて検討しましょう。
10万円~20万円
練習においてピアノらしい表現ができてなおかつ予算も抑えたいという方向けで、最も需要があるタイプと言えます。スピーカーも4つ以上付いていることが多く、音の深みや臨場感、奥行きが出て強弱などのニュアンスも付けやすいのが特徴です。
鍵盤の素材も「木製鍵盤」「プラスチック鍵盤」と選択肢が広がり、より本物のピアノに近いタッチに近づきます。電子ピアノの中でもこの価格帯はまだ安い方なので、ひとまず購入はしてみたいけれど長く続くかどうか分からないという方や、電子ピアノを初めて購入する方に最もおすすめの価格帯です。
20万円~30万円
ピアノを本格的に習っている、もしくはこれから本格的にやっていきたいという方に最も人気の価格帯です。スピーカーの数は6~8つになり、音に奥行きが出てくるため表現力の幅が増します。木製鍵盤のモデルがほとんどで、より本物に近いタッチを感じながら演奏することが可能です。
本物のピアノに本当に近いタッチ感・表現ができるものとした電子ピアノをお探しの方におすすめです。
30万円以上
各メーカー最上位の機種の価格帯。プロのピアニストを目指していきたい方、グランドピアノと同じような弾き心地を求める方は、この価格帯のものを検討しましょう。鍵盤タッチ、音の奥行き、強弱や繊細なニュアンスの表現力は本物さながらです。
本物のピアノが欲しいけれど、マンションなどの居住地問題や、部屋のスペースに余裕がないという方におすすめです。
国内5大メーカーなら安心
ヤマハ
ピアノといえば、言わずと知れた日本の有名メーカー「YAMAHA」です。他のメーカーとの違いは、やはり音色の良さや強弱のつけ易さ、そして抜群のタッチ感にもかかわらず価格の安さ、デザイン性の高さなどが挙げられます。国内有名メーカーだからこその安心感と、修理のし易さなども人気のポイントです。
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カワイ
世界的にもトップクラスのメーカーである「カワイ」。カワイの電子ピアノの主な特徴は「サウンド」で、ピアノ演奏者にとって最も大事となる点「自分の耳で聞きながら弾く」という要素に力を入れています。最高音質のスピーカーを内蔵していたり、初心者の方でも楽しめるクラシック曲が200以上搭載されていたりと、奏者のモチベーションが上がるポイントが多いのも魅力の一つです。
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【カワイ電子ピアノ解説】特徴やラインナップ、機能、おすすめ機種比較を分かりやすく説明!
ローランド
ローランドは、日本で初めて電子ピアノを製造したメーカーです。ローランドの電子ピアノは、海外でも多数のプロのミュージシャンに愛用されています。最大の特徴は「音質の良さ」です。様々なピアノの音をサンプリングし、限りなくグランドピアノの音色に近い表現と音色を実現。プロピアニストの横山幸雄さん、スキマスイッチの常田真太郎さんなどもコンサートでローランドの電子ピアノを愛用しています。
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カシオ
電子機器に強いカシオは、「すべての人に音楽を奏でる喜びを」という想いから、電子楽器を作りはじめました。それゆえ内蔵されている機能も素晴らしく、音色の無段階音変化など他メーカーでは高価格の上級モデルを低価格で実現させています。特に有名なのは「Privia」「Grand Hybrid」などCMでおなじみのシリーズです。2016年に発売された、グランドピアノに使用されている鍵盤をそのまま電子ピアノに搭載した「GPシリーズ」(グランドハイブリッド)モデルも注目を集めています。
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コルグ
コルグは、初の国産シンセサイザーをリリースしたメーカーです。シンセサイザー部門では世界トップと言っても良いほど人気があり、その高い技術力を活かして電子ピアノを製造しています。YMO時代から坂本龍一さんや、海外アーティストのビヨンセもコルグのシンセサイザーを愛用していたそうです。「コンパクトでスタイリッシュ」が特徴で、持ち運びもしやすく、カラーバリエーションも豊富。価格帯・機能共に魅力的なモデルが揃っています。
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お部屋のインテリアにあうか
電子ピアノを購入して、いざ部屋に置くと「思ったより大きくて圧迫感がある」「部屋の雰囲気と合わない」なんてことも。せっかくのピアノライフも、インテリアに馴染まないと練習のモチベーションが下がってしまうかもしれません。
そのため、設置場所のサイズはもちろん、色やデザインが部屋の雰囲気に合っているかなどを購入前にしっかりシミュレーションしておくことが大切です。
また、電子ピアノをリビングに置く場合は、テレビやパソコンなどの電子機器からできるだけ離して置くようにしましょう。さまざまな電波が連動して稀にテレビなどのノイズや雑音が入ってしまうことがあるためです。
また、練習に集中するために、テレビに背を向けるような配置がおすすめです。
優先するポイントを決めてから電子ピアノを探すのが正解
各メーカーそれぞれに優れた特徴があるため、どのメーカーが良いと感じるかはそれぞれの目的や好み、予算などによって異なります。そのため、自身が優先するポイントを順位づけしてから電子ピアノ選びを始めましょう。
空いた時間に弾けたら良い、趣味で弾くためにという方や、まずはそれほど高くない物をお探しの方など予算を重視される方は、10万円以下のモデルでも十分でしょう。
音大生やプロのピアニストを目指している方、これから音楽を本格的に学んでいこうという方は、できる限り高スペックで機能が多く、タッチも本物のピアノに近いモデルを選ぶのがおすすめです。
タッチや音色は、自身に合ったものを自分の耳と指で確かめるのが一番なので、ぜひ楽器店へ足を運び、実際に試奏してみましょう。
電子ピアノについてのよくある質問
電子ピアノを購入するにあたって、実際に店頭で試し弾きしてみるのが良いのは分かったけれど、ある程度は店頭に行く前に選択肢を絞っておきたいですよね。
ここでは買ってはいけない電子ピアノや電子ピアノの寿命、エレクトーンやキーボードとの違いなどについて解説します。
買ってはいけない電子ピアノってどんなピアノ?
今までおすすめの電子ピアノの特徴を紹介してきましたが、ここからは逆に「買ってはいけない電子ピアノ」について解説します。
考慮すべきポイントは下記の3つです。
・鍵盤のタッチに違和感がないかどうか
・お部屋のインテリア(色の配合)にマッチしているかどうか
・鍵盤数は自身が希望しているものかどうか
鍵盤のタッチは選択するポイントとして特に重要と言えます。また、アフターフォローのしっかりしているメーカーを選ぶことも大事なポイントです。
下記記事では、実際に電子ピアノを買って後悔した人の実体験をご紹介しています。購入前にぜひチェックしておきましょう。
【経験者は語る】買ってはいけない電子ピアノの失敗談アンケートをとりました
また、鍵盤数も充分検討しましょう。予算的に抑えようと思って、鍵盤数の少ないものを購入したけれど、弾きたい曲の鍵盤数が足りなかったという話もよく聞きます。
おすすめはやはり、本物のアコースティックピアノと同じ88鍵ある電子ピアノが望ましいです。後々弾きたい曲が増えて後悔しないよう、よく考えてから購入しましょう。
電子ピアノは何年持つ?
扱い方や置き場所によっても異なってきますが、一般的に目安として大体10年ぐらいが電子ピアノの寿命と言われています。ただし15年〜20年、それ以上ずっと同じ電子ピアノを弾いている人もいますし、弾き方などによってはそれ以上使い続けることは可能です。
詳しくは下記記事をご参照ください。
【ピアノの寿命とは?】種類別の寿命とよくある修理例
電子ピアノとキーボード、どちらがピアノの練習に向いている?
ピアノ演奏の練習には、やはり電子ピアノの方がおすすめです。
電子ピアノは、アコースティックピアノと同様の鍵盤タッチや音色を再現しているため、より本物に近い感覚で練習できます。また、音量調節やヘッドホン使用が可能なので、周囲を気にせず練習できるのも電子ピアノならではの魅力です。
一方キーボードは、軽量で持ち運びやすく、多彩な音色を楽しめるのがメリットです。ただし、鍵盤のタッチや音域がアコースティックピアノとは異なるため、本格的なピアノ演奏の練習には不向きと言えます。
本格的にピアノを習いたい、または将来アコースティックピアノへの移行を考えている場合は、電子ピアノの購入を検討しましょう。
電子ピアノとキーボードの違いについては下記記事を参考にしてみてください。
電子ピアノとキーボードの違いを徹底比較!あなたにぴったりの楽器の選び方を解説
電子ピアノとエレクトーンはどう違う?
「エレクトーンと電子ピアノ、どちらを買えばいい?」
そう疑問に思う人も少なくありません。
電子ピアノとエレクトーンはどちらも鍵盤楽器ではありますが、全く別の楽器であるということをまずは理解する必要があるでしょう。
電子ピアノはグランドピアノの音色や鍵盤、タッチの再現を目的としたものである一方、エレクトーンはパイプオルガンを元にした電子オルガンの一種です。そのため通常の鍵盤だけではなく下鍵盤、足元にペダル鍵盤と3つの鍵盤が存在し、それらを同時に操作することで一人で合奏や重奏を演奏できるという仕組みになっています。
そもそもの構造や演奏目的などが違うため、自身が何を求めているのか、どういった演奏をしたいのかを明確にしてから検討しましょう。
ピアノとエレクトーンの違いについては下記記事で詳しく解説されているので、ぜひご参照ください。
ピアノとエレクトーン、どっちが難しい?違いについても詳しく解説
まとめ
今回は、電子ピアノを購入するにあたっての注意事項や気をつける点、事前に知っておくべき点などを詳しく解説しました!
初めての電子ピアノ選び、購入前は不安や悩みも多いことかと思います。ぜひ本記事を参考にしていただき、「買ってよかった!」と思えるような、自身にとってのベストな電子ピアノ選びの参考になれば幸いです。