ピアノの外装や鍵盤というのは、とても汚れが溜まりやすいことをご存知でしょうか。日々のお手入れを怠ると、自力ではなかなか落ちない汚れになってしまう可能性もあります。

長く使うものですから、定期的なお手入れは入念にやっておきたいところ。

そこで今回はピアノの掃除について、必要なものや部分ごとの掃除方法、日ごろからできるケアなどを詳しく説明します。

案内人

  • おばたおりえピアノ調律師。大阪府出身。
    大学卒業後、専門学校にて調律・修理・整調・塗装・オーバーホールを学ぶ。
    卒業後、ピアノ調律会社にて工房勤務経験を経て現在フリーの調律師として活動中。

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ピアノの定期的な掃除は大事!しないとどうなる?

本来、ピアノは寿命が長い楽器です。少しでも良い状態を保つには、定期的に掃除をしてあげるのが大切です。

これを怠ると汚れが落ちにくくなり、錆やカビの原因になってしまうことも。極端な例だと、音や弾き心地に悪影響が出る可能性まであります。

それに、キレイな状態の方が気分良く弾けますよね。毎日ピカピカに、とまではいきませんが、こまめなお手入れは必須です。

ピアノ掃除はどのくらいの頻度でやるべき?

ピアノ掃除と聞くと大変なように感じてしまいますが、基本的には演奏後にピアノ用クロスで全体を軽く拭いてあげるだけでOKです。

演奏頻度によっても異なりますが、クリーナーを使った掃除は週に1回程度で十分です。また、数ヶ月に1回などと決めて、普段より念入りに掃除するのも良いでしょう。

ピアノの掃除に必要なもの

ピアノを痛めないために、掃除には専用の道具を使いましょう。基本のグッズは以下のとおり。

クロス

クロスとは、ネル生地やマイクロファイバーなどでできた、楽器のお手入れ専用の柔らかい布のこと。塗装面や鍵盤は繊細で、雑巾のような硬い布で拭くと簡単に傷がついてしまうため、専用クロスで優しく汚れを落とします。
また、クロスは塗面用と鍵盤用の2枚を用意しましょう。


クリーナー

クロスだけで落ちない汚れには、専用クリーナーを使いましょう。クリーナーには外装用と鍵盤用の2種類があります。

鍵盤用にはキークリーナーを使います。ただ、象牙や木檀調黒鍵などの素材には使えないものが多いため、あらかじめ鍵盤の素材を確認してください。


塗面用は種類が多く、塗料によって使えるクリーナーが異なります。

鏡面艶出し塗装(鏡のようにものが映るピカピカの塗装)であれば、ユニコン(ピアノ用ワックス)で磨くと艶がよみがえります。


半艶や艶消し塗装(主に木目の強調されたナチュラルな塗装)であれば、半艶・艶消し専用クリーナーを使って優しく汚れを拭き取りましょう。
鏡面艶出し塗装用のクリーナーを使用したり、強く擦ったりすると艶感が変わってしまうので注意が必要です。

コンパウンド


ピアノ用コンパウンド(研磨剤)は、ペダルなどの金属部分のサビを落としたり、塗装面の薄い擦り傷を消したりするのに使います。
塗装の種類によって使えない場合があるので、事前に楽器店などで確認しましょう。

ピアノ掃除の方法・仕方

次に、ピアノの部分ごとの掃除方法を解説していきます。

外装(塗面)の掃除

まずは、外装表面に溜まったホコリを払います。

クロスで優しく拭くか、先ほど紹介しませんでしたが、ピアノ用毛ばたきを使うのも良いでしょう。ただし、砂の混じったホコリがあると傷になりやすいので、力を入れずにそっと払うぐらいがおすすめ。

次に、指紋や手アカの目立つ部分をクロスで拭き取ります。乾拭きで落ちない汚れについては、水を含ませて固く絞った柔らかい布(タオルなど)で優しく拭いてから、水分が残らないよう乾拭きしてください。

汚れが落ちたら、塗面用クリーナーを使用します。クロスに少量取り、全体に薄く伸ばすように塗布しながら優しく磨き、光沢を出しましょう。一度にたくさん付けるとムラになってしまうため、少量を少しずつ使うのがポイントです。

鍵盤の掃除

鍵盤は一番汚れやすい場所です。鍵盤表面だけでなく、黒鍵の側面や白鍵の手前側面部分にも汚れがよく溜まるので、忘れずにクロスで拭き取ってください。

落ちにくい汚れは、キークリーナーをクロスに含ませると取れやすくなります。

なお、アルコールやベンジンなどの溶剤は鍵盤を痛める原因になるため、使用してはいけません。ひどく汚れている場合には調律師へ相談しましょう。

ペダルの掃除

ペダルは、銅と亜鉛の合金である真鍮でできています。錆や変色が出やすい素材のため、柔らかい布でしっかり汚れを拭い取ってください。

すでに錆が出ている場合、ピアノ用コンパウンドを布に取って磨きます。全体的に錆びていると根気が必要ですが、磨き続けるといずれ錆が取れて光沢が出てきますよ。

このとき使う布は、研磨するにつれて錆とコンパウンドが混ざって黒く変色し、ボロボロになってしまいます。外装や鍵盤に使った古いクロスを使うとコスパが良くておすすめです。

内側の掃除

ピアノの内側にも汚れは溜まります。隙間からホコリが入り込みますし、設置状態によっては湿気が溜まりカビが生えることも。

しかし、内側の掃除では外装パーツや内部部品を分解する必要があるため、自分では行わないようにしてください。内部の埃が気になる場合は、調律の際に調律師に依頼すれば取り除いてくれます。

ピアノ掃除のQ&A

ここからは、ピアノ掃除でよくある疑問にお答えします。

業者に依頼した方が良い?

家庭でできるピアノの清掃には、どうしても限界があります(基本のお手入れは十分ですが)。

内部の掃除や本格的な清掃は、ピアノクリーニング専門の業者に依頼するのがおすすめです。ピアノ工房で解体して作業を行うため、家庭では取りづらい外装の汚れや曇り、ペダルなどの金属部品の錆が除去され、新品同様のピカピカの見た目にできます。

内部の掃除は調律師の業務にも含まれるため、調律の際にお願いするのも良いですね。

水やアルコールはNG?

「ピアノに湿気は厳禁」というのはよく知られていますが、外装や鍵盤の掃除で水を使うことは意外とOKです。

ただし「水を染み込ませて固く絞った状態の柔らかい布」という条件がつき、滴るような状態は厳禁。また、水拭きした後は水分がなくなるまで必ず乾拭きをしてください。

アルコールは外装・鍵盤ともにNGです。塗装が変質したり、鍵盤が割れてしまう原因となるため絶対に使用しないでください。

ウイルス対策で除菌をしたい

ピアノは手で触れるものですから、今のご時世だとウイルス対策が気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、先述の通りアルコールはNGなため、除菌用スプレーやウエットティッシュなどは使用できません。

その代わりに、鍵盤用には除菌効果のあるキークリーナーが販売されています。


なお、国内大手ピアノメーカーのヤマハでは、ピアノの除菌方法として、台所用中性洗剤を薄める方法を推奨しています。

台所用等中性洗剤溶液を使用する方法(推奨) 水500ml に対し、1.5g(ペットボトルキャップ約1/3)の割合で希釈した溶液に柔らかい布を浸してから、固く絞って拭いてください。 5分程度たったら、その後、別の布で水拭きと乾拭きを行ってください。
ヤマハミュージックジャパン/よくあるお問い合わせ

また、アルコール不使用の除菌シートで拭くのも、簡易的ではありますが除菌効果が期待できます。

日頃からピアノを綺麗に保つ方法

日頃からピアノを綺麗に保っていれば、定期的な掃除では最低限の作業だけで済ませられます。ほんのちょっとした心遣いでできますので、ぜひ取り入れてみてください。

清潔な手で触れる

弾く前に手指を清潔にするのを意識するだけでも、ピアノを綺麗に保つことができます。

手の汚れや皮脂、汗はピアノが汚れる大きな原因であり、これらを除去する効果は大きいのです。ただし、アルコール除菌スプレーやウエットティッシュを使った後は、手指が完全に乾くまでピアノを触らないよう注意してください。

ピアノの設置場所に注意する

ピアノの設置場所によっても、汚れがたまりやすくなるケースがあります。

特に、キッチンの側や近くでタバコを吸うような所は、ピアノを置くのに不向きです。油汚れやヤニ汚れと埃が混ざり、家庭では落とせないほどの汚れになってしまうため、必ず避けましょう。

下記記事ではピアノに最適な湿度や設置場所・防音対策についてご紹介しているので併せて参考にしてみてください。

汚れ防止カバーを使う

ピアノカバーやペダルカバーを使うのも、ピアノの汚れ対策としておすすめです。手垢や汗などが直接つかない分、綺麗な状態を保てます。

ただし、カバーを使う時には湿気に注意が必要です。ピアノの脚部分まですっぽり覆うフルカバーは内部に湿気がこもりやすくなるため、カバーを掛けっぱなしにせず定期的に外して通気を良くしてあげましょう。

まとめ

今回はピアノの掃除方法を解説しました。

ピアノはとても繊細な楽器です。掃除方法を間違えると、逆にピアノを痛めてしまうことにもなりかねません。長く使うために、優しくケアしてあげて、美しい状態を保ちましょう。